ネームの相談は何を見てどう答えるか。
〜漫画家さんとのやりとりで気をつけていること。⑥〜
最近、東京ネームタンクさんのネーム交流会や、NEWVERYさんのネーム相談会に参加して、久々に一度に多くのネームを読ませていただく機会が続いたので、今回はネームを読む時に考えていることを書いてみます。
(※ご存知ない方のために超簡単に説明すると、ネームとは漫画家さんが原稿を描く前に作る絵コンテのようなものです。こちらのサイトが詳しいです>>>)
以前、持ち込みや投稿の原稿を読む時はどんなところを見ているかは記事にまとめてみました。
今回は、ネームを読んでいる時にどんなところを見ているかです。
新連載用のもの、連載中のものは含まず、持ち込みや相談会で読み切りのネームを見て相談に乗る時の話だと思って読んでください。
まずは普通に読む。
ネームを見せてもらう時。まずは「何もかも、ちゃんと読むことから始まる。」という記事でも書いた通り、普通に読んで面白いかどうかを見ます。普通にというのは、色んなバイアスを排除して出来るだけフラットに読むということです。
ネームですから、原稿とは違って絵や完成度はあまり気にしません。
上記の記事でも書いた通り、絵の技術以外にも、話の筋、設定、舞台、キャラ、演出、演技(感情表現)、セリフ(言葉)、テンポなど、ネームでも見るべきところは多々あります。ですが、それも最初はあまり気にしません。
出来るだけフラットに読んで面白いかどうかがまず第一。
面白かった場合。
まだネームですから、文句なく面白かった場合は大体次の二つの道へ進みます。
1)これぜひ載せたいから原稿にしてくださいとお願いする。
2)これ連載狙えるから一緒に連載目指しましょうとお願いする。
どちらの道も取りうる可能性がある場合は、どうしたいか、どうしたかったかを相談して、ネームに描かれていること以外にどれくらいのイメージがあるかを把握してから道のりを決めます。
面白さが足りなかった場合。
次に、読んでみて面白さが物足りなかったり、分からなかった場合。
僕の場合は、いきなり課題を指摘したり探したりはしません。
まだネームですから、何かを決めつける必要などありません。ただひたすらに「可能性」を探して読み直します。
レベルによって、作品が面白くなる可能性と、その描き手の人が魅力的な描き手になる可能性、そのどちらの時もありますが、とにかく可能性を探します。
漫画は原稿を描くのが大変なのはもちろんですが、ネームを描くのも本当に大変なんです。ですから、1作ちゃんとネームを仕上げるには凄いエネルギーが必要なんです。凄いエネルギーを使って描いたからには、何かしら「強く」描きたいと思ったものがあるはずなんです。
よく読み返していくと、ネームの中に他とは明らかに熱量の違う部分があり、聞くと大体そこが「強く」描きたいと思った部分であることが多いです。
まずはそうやって、描き手の人が「強く」描きたいと思った部分を見つけます。それが第一です。
そこからいくつかのケースに分かれていきます。
面白さが足りないものはどうするか。
1)描きたい部分は面白いのに、ネームは面白さが足りない。
描きたい部分は面白いのに、ネーム全体を読むとそれがあまり印象に残らない状態。この場合は面白い部分が最大限活きるような構成か表現の仕方を考えます。面白い部分を軸に全体の解像度を高める、とも言えます。
もう一つ。結構いるのが、せっかく面白いのに描いてる途中で面白さに自信をなくしてしまい、変なお話の畳み方をするなどして面白さの肝から離れてしまう人です。そういう人は精一杯褒めて励まします。
2)描きたい部分が面白くなりそうなのに、面白くなっていない。
面白くなりそうなのに、面白くなりきれていない。この場合は、どうするのが理想だったのかを聞きます。ページの都合や、持っていく媒体のイメージ、受け手にどう思われるかなどを気にしすぎて萎縮していることが多いので、そういうことは気にせず、ちゃんと描きたい部分を全部描くことを勧めます。
描きたい部分が全部分かってから、1)の人と同じく構成や表現についての検討になります。
3)描きたい部分は分かるけど、面白さが分からない。
この場合多いのは、描きたいことをいっぱい混ぜてしまっている場合です。熱量は伝わるけど、どう読んだらいいのか混乱してしまう。そういう人には、一つ一つに要素を分解して、どれが一番描きたいことなのか優先順位をつけてもらいます。
4)描きたい部分が分からない。
何度読み返しても、どこが描きたい部分だったのか分からない。こういう場合で多いのは、描き手の人が「漫画はこうでなければいけない」という固定観念やバイアスに縛られていることです。
そういう人には、まず「漫画はもっと自由だ」という話からします。構成や表現方法は描きたいものを一番よく伝えるために考えるべきで、構成や表現方法を気にして描きたいものを抑えたり削ったりしてしまうのは本末転倒だと思うからです。
3)と4)は、どちらのケースもそんな風にしながら、描き手の人が本来「強く」描きたかったはずのことを聞き取っていきます。技術的なことは全部その後です。
可能性って何か。
ちょっと戻りますが、面白さが足りないか分からない場合は「可能性」を探して読むと書きました。
そう書いたわりに、対処法みたいなものを先に書いたのはなぜかというと、僕は面白さが物足りないか分からない場合、その人が単純に描き方のせいで損しているのかどうかをまず見極めたいからなんです。
「描き方」の問題と、「描こうとしていること」の問題は全く別。「描き方」のせいで「描こうとしているもの」が見えないのと、そもそも「描こうとしているもの」がないのは全然違うと思っているからです。
そして僕が可能性を感じるのは、他の人とは違う「描こうとしていること」がある人です。
その人ならではの着眼点、発見、思考(嗜好、思想)、価値観がちゃんと感じられ、それが尊敬か共感できるか、ユニークか(個性的、特徴的)だった時は、とても大きな可能性を感じます。
目の前の一つのネームの出来よりも、僕はそういう可能性を見たいのです。
ネームの相談にはどう答えるか。
まだプロでない人はネームを描き慣れてないし、人に読まれ慣れてないし、未熟なところもありますから、技術の巧拙にどうしても目が行きがちです。
持ち込みや投稿でネームを見る時は、うまいかどうかのバイアスを出来るだけ排除して注意深く「描こうとしている」ことを把握するようにします。
技術や表現力というものは「伝えたいもの」を「伝えやすく」するためにあると思うのです。
だから「描こうとするもの」を把握し確認してから初めて技術的な話をしますが、その時は出来るだけ様々なやり方を提案するようにします。
どんな方法がその人に合うか分からないし、ネームで見てほしいと依頼してくるプロ未満の方に目先の一つのネームの出来だけよくしてもらっても、あまりその人の役に立たないと思うからです。
描きたいものを大切にしてもらい、それを出来るだけ伝わるように、というのが最初。伝え方は色々なやり方があるよ、というのが次。色々な伝え方がわかれば色々なことが描けるようになって描けるものが増えるよ、というのがその次。そしたら描きたいもの見つけやすくなるし探すのも楽しくなるよ、というところまで行きたい。
そうやって、出来るだけ「凄い面白いもの」にたどり着ける可能性が高い人になっていってほしいと思って、ネームの相談には答えるようにしてます。
ちなみに最初からネームが面白い投稿者やプロの方の場合も、やはり見ているのは「可能性」です。すでにネームがうまい人の場合はどれだけ強い作品に化ける可能性があるかを大事にしています。それについてはまた別の機会に書くかもしれません。
長くなってしまったので今回はこの辺で。
久しぶりに沢山のネームを読む機会に恵まれたので、自分の備忘録的にまとめてみました。
ではでは。
※現在「スピカ賞」という賞の応募受付中です。作品を見てほしいという方はぜひご応募ください。僕に見てほしいということであれば、少女漫画以外のジャンルでも大丈夫です! お待ちしてます!
※東京ネームタンクさんでの相談会第2回は9/20開催予定です。ご興味ある方は、東京ネームタンクさんのツイートをチェックしてください。