民間病院の事務からITスタートアップへ。医療の現場経験を活かしたキャリアシフト|メディカルシステムエキスパート インタビュー
株式会社ヘンリーは、「社会課題を解決し続け、より良いセカイを創る」というMissionのもと、中小病院向けの基幹システムであるクラウド型電子カルテ・レセプトシステム「Henry」を開発・展開しています。
今回お話を伺ったのは、メディカルシステムエキスパートの冨永亜衣さんです。
冨永さんは新卒で二次救急の民間病院に就職、主に入院算定の業務に従事しました。その経験を活かしてヘンリーでは動作確認やテストケース作成などの開発業務に関わっています。医療事務の仕事から医療SaaSのITスタートアップへと転職した背景についてお話を伺いました。
医療業界を飛び出し、医療業界を変える
— 冨永さんはもともと地元の茨城県にある救急病院で医療事務をされていたんですよね。
はい、専門学校を卒業後に医事課で約5年間勤務しました。その病院は病床数200床ほど、地域の大きな病院の一つでした。
— 「なぜ医療事務からITスタートアップへ?」と気になる方も多いと思います。今回はその経緯を時系列に沿って伺います。早速ですが、医療に興味を抱いた原体験から教えてください!
きっかけは、小学生の頃の入院です。
私は家の中より外遊びが好きで、幼稚園からジャズダンスを始めるくらい活発な子どもだったのですが、1年生のときに原因不明の病気で1ヶ月ほど入院したことがありました。
そのとき、まだ子どもだったので夜の病院がすごく怖くて……(笑)、一人でいるのが嫌で夜な夜なナースセンターへ遊びに行っていました。すると、看護師の皆さんが「ここで塗り絵をしていいよ」なんて言いながら一緒にいてくれて。他にもクリニックのかかりつけ医の先生がわざわざお見舞いに来てくれたりと、医療現場の方々のやさしさに触れた時間でもありました。
「こういう人たちになりたいなぁ」とぼんやり思ったことを覚えています。
— それがきっかけとなり、医療を勉強する道に進んだんですね。
退院して数年後に入院の原因を自分なりに調べたのですが、発症原因は分からず、根本的な治療法が確立されていないことを知りました。だからこそ「医療をもっと知りたい」という気持ちが生まれ、高校卒業後は専門学校で診療情報管理士の勉強をしようと決めました。診療情報管理士はカルテをはじめとした診療情報の管理・分析が仕事なので医学分野の知識を広く学べるだろうと思ったためです。
専門学校では、最初の2年間で医療事務に関する約10個の資格を取得し、最後の1年間で診療情報管理士の資格試験に合格しました。
変えたい、でも変えづらい。医療現場の実情とは
— その後、病院ではどんな仕事に従事していたのでしょうか?
主に入院の会計計算です。カルテを参照しながら、使用した医薬品や処置料などをレセプトコンピュータ(レセコン)に入力して患者さんへ請求する業務や、保険者に請求する診療報酬明細書、いわゆるレセプトの作成業務などに従事しました。
私は医事課配属として採用されたため、診療情報管理士の業務はほぼ経験しませんでした。ただ、病院側にお願いして、DPCコーディングという管理士の仕事の一部をお手伝いしていました。
— 医事課から他部門への異動はなかなか難しかったのでしょうか?
その病院では部門毎に組織がきっちり分かれており、医事課へ一度配属されると医事課内の担当領域の変更はあっても他部門への異動は基本的にありませんでした。診療情報管理士は別の管理部門所属のため、医事課の私がその業務に関われたのは珍しいケースでした。
そういった縦割り型の組織のため、「新しいこと」に取り組むにもハードルの高さをいつも感じていました。決められたルールがあるため、病院内で承認を得るには複数のステップを経て上申する必要があります。また縦割りがゆえの、部門を横断した情報キャッチアップの難易度の高さも一因でした。
そのため、私が在籍した約5年間で病院組織内における大きな変化はほぼなかったように思います。変化が少なくクローズドな環境という印象でした。
— そもそも、病院の現場業務は目の前の仕事を処理するだけでも大変だと思います。
おっしゃる通り、目先の業務をこなすだけで一杯一杯でした。繁忙期は通常業務に加えて保険請求業務があり、加えて当時は今ほど便利なシステムもなく、病院に遅くまで残る日が1週間続くことも。
もちろん、より効率的な方法を試したいと感じた瞬間は多々ありました。しかし、方法を変えるにもそのことをじっくり検討する余裕すらない、そんな空気感が現場に漂っていたように思います。
電子カルテを「使う側」から「つくる側」へ
— ヘンリーとの出会いについて教えてください。
引越しを機に病院を退職した後に、まず歯科医院へ転職しました。当時の私は外へ飛び出す勇気が持てず、転職先は「医療業界」に絞って探しました。病院で働いていた同僚を見ても、他業界へ転向する人はかなり少数だったので。
しかし、歯科医院への通勤が車で1時間かかるのが徐々に苦しくなり、ふとフルリモートの仕事を探してみることに。調べるとすぐに保険請求や介護請求の委託業務が見つかったのですが、出社が必須条件などぴったりの求人にはなかなか出会えませんでした。
そうこうしているうちにヘンリーの募集ページを偶然見つけました。まず目に飛び込んできたのは「診療情報管理士を募集」の言葉でした。
— どういった募集内容でしたか?
電子カルテの開発にあたって、現場経験をもとに「こういう機能があった方がいい」「こんな画面操作ができるとユーザーは嬉しい」といったアドバイスをする業務だったと記憶しています。
実は、電子カルテにはたくさんのボタンや機能があるために、使いこなせない医師の先生方もしばしばいらっしゃいました。私もよく先生に呼び出されて、入力をサポートしていました。そのため、私でも何かお役に立てるかもしれない、と思ったんです。フルリモート勤務の条件にも背中を押されました。
— 新たな業界でのチャレンジに不安はなかったでしょうか?
私はずっと電子カルテを「使う側」でした。「つくる側」に回るなんて考えたことすらありませんでした。ヘンリーの募集を見たときにその事実に気づかされたんです。「つくる側」の仕事もある、それは私にとって「発見」でした。
一度目の転職の際は医療業界の外に出ませんでしたが、二度目のときは新しい仕事にも挑戦する覚悟を決めていたので、「つくる側」の仕事にむしろワクワクしていました。
調査、テストケース作成・・・経験が活かせる仕事
— 最初、ヘンリーではどういった仕事を?
2020年の年末にジョインして最初の約1年間は調査がメインでした。自動算定や入院料を設定するルールを調べてドキュメントにまとめたり、市町村毎のルールで運用される公費について調査したり。医事課の仕事を通じて見慣れていた情報も多く、現場経験が調査業務に活きていると感じました。
— 現在はどういった役割を担っているのでしょうか?
プロダクト開発においてシステムから受け取る仕様をもとに、その機能が導入されたら医療現場のユーザーはどんな使い方をするだろうかと想像しつつテストケースを作成する仕事です。機能の組み合わせや使用手順のパターンを洗い出すと、足りない仕様が見えることもあります。その後、出来上がった機能をテスト的に実際に触ってみる動作確認も仕事の一部。ここでも過去の経験が活かせていると感じますね。
— 「働き方」の観点ではヘンリーに入ってどう変わりましたか?
おそらく、数年間ヘンリーで勤務したメンバーの中で、CEO含めて誰にもオフラインで会っていないのは私だけだと思います(笑)。つまり、本当にフルリモートで働けています。そのおかげで出勤や退勤に要する移動時間がなくなり、自分のやりたいことに使える時間が広がりました。
内だけなく外から変える選択肢もある
— いまの仕事を「やってよかった」と感じる瞬間はありますか?
大きなプロジェクトとして進めてきた新機能を顧客にリリースしたときです。
最近の例で言うと、入院機能の追加でしょうか。影響範囲が広く、動作確認の量も膨大なので、考慮すべきポイントがたくさんありました。そのため、1人では回せず、様々な人を巻き込み、助けてもらいながら進めたプロジェクトでした。
導入後、お客様に「問題なく診察できています」と言われた瞬間は一安心したと同時に「新しいこと」ができた達成感がありました。
— 今後の目標について教えてください。
現在は動作確認やテストケース作成に関わっているため、「品質保障」に関するスキルをより身に付けて自分の型を磨いていきたいです。
私は自分が先頭で引っ張るより、誰かをフォローしたい気持ちが強くて。いまは、電子カルテを使う医療現場の皆さんがより仕事をしやすくなるように支えたい、そこに全力で応えたいと思っています。
— もし、医療現場で働いている方にヘンリーの仕事を勧めるとしたら何て伝えますか?
事務業務の効率化に携われる仕事でもあるので「もっと業務を円滑に回せたら……」という葛藤を医療現場で抱えている人にこそ力になっていただけると思うんです。変えたいけれど院内の慣行により現状を変えられず、モヤモヤを抱えている人がきっといらっしゃるはずです。私もそうだったように。
一度でもそんな風に思った経験がある方には「外から現場の課題解決をする選択肢もあります。一緒によりよい方法を考えてみませんか?」とお伝えしたいです。
インタビュー:中田達大
ヘンリーでは、さらなる成長に向けて採用も積極的に行っています。ご興味をお持ちいただけた方は、ぜひお気軽にご連絡ください。