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HORIE ONE+ 協賛と医療DXに込めた思い
こんにちは、株式会社ヘンリーと申します。
病院経営を通じ医療の未来を切り拓こうと奮闘する“先駆者”たちにスポットライトを当てる連載企画「特別インタビュー」を始めます。初回を飾るのは、病院向け「Henry」を最初に導入した病院でもある、正幸会病院(大阪府門真市)の東大里院長です。
東院長は9月26日、NewsPicksの番組「HORIE ONE+」に出演しました。番組では、日本の医療のデジタル化が大きく遅れている現状とその背景について、東院長と実業家の堀江貴文さんらが熱く議論。また、Henryのようなクラウドネイティブ型のシステムが広がることで医療現場の改革が進むことへの期待も語られました。
今回の出演は、ヘンリーと正幸会が共同で番組協賛したことで実現しました。協賛の理由と番組内で語りきれなかった思いを、ヘンリー共同創業者の林と東院長が語り合いました。
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日本の医療DXの遅れた現状を訴えたかった
――改めて番組への出演と協賛の狙いを教えてください
東:私は日本の医療のデジタル化(DX)が遅れている現状への課題意識と、DXで日本の医療が良くなってほしいという思いを持っています。ただ、自分たちだけがDXを進めてもこと足りないので、NewsPicksのような先進的なメディアに出て、堀江さんのように発信力もあり、かつDXへの造詣が深い方に課題意識を共感してもらえれば、有意義な機会になると考えました。
林:私たちもクラウド型電子カルテ・レセコンシステム「Henry」が広がることが日本の医療とDXに役立つと信じていますし、そんな思いを伝えられる場がほしいと思っていました。そこで、クラウドネイティブ型システムがもたらすポテンシャルを一緒に啓蒙していて、私たちのプロダクトの価値も深く理解していただいている東先生と番組に協賛することにしました。
――日本の医療DXの課題について改めて教えてください
東:やはり多くの医療者の価値観がまだ「紙」前提でアップデートもされていないこと、そしてこれまでオンプレミス型のシステムを提供してきた大手ベンダーなどが、クラウドネイティブ型システムの開発に消極的なことですね。
林:その2つに加えて大きな課題なのが、医療機関が健康保険組合などに診療報酬を請求するためにレセプト(診療報酬明細書)を作成する「レセプトコンピューター」(レセコン)への参入障壁の高さです。
日本の診療報酬制度は非常にバランスが取れている、良い制度だと思いますが、通常2年に1回改訂される診療報酬本体の体系(点数表)が非常に複雑・難解なんです。我々のようなベンダーにとってこれをその都度プログラムに落とし込み、アップデートするのはとても工数がかかります。
制度設計を担う厚生労働省と医療機関、そしてベンダーが協力して改訂作業を進めるようなことができると、日本の医療DXにも良い効果があると思います。
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出会いは3年前、1カ月でHenry導入を決定
――ともに医療DXへの課題意識を持っている正幸会病院とヘンリーですが、そもそも両者が出会ったのはどういう経緯だったのですか?
東:番組でもお話ししましたが、2015年に私が院長を父から交代して就任した際、複数の医療事務員が同時に退職しました。「私たち明日辞めます事件」と呼んでいるのですが、主に紙で管理していた情報がうまく引き継がれず、病院運営に支障がありました。それ以来、正幸会病院ではDXを成長戦略の柱にしてきました。
その後、さまざまなクラウド型のデジタルツールを積極的に導入していったのですが、電子カルテとレセコンだけはクラウドネイティブ型が当時は世の中になく、当院のものもまだオンプレミス型でした。
そんな中で、林さんからメッセージをいただいたんです。忘れもしない3年前の2021年8月のことでした。
林:Linkedinのダイレクトメールでプロダクトの提案をさせていただきました。ドクターでは非常に珍しくLinkedinをやっているくらいですから、新しいものへの興味もあるだろうという見立てでした。
何より、東先生は当時からメディアにも出られてDXの重要性について積極的に発信されていました。プロダクトの最初の顧客は「安いから買う」じゃなくて、プロダクトの価値をしっかり理解していただける方じゃないといけないと思っていました。
予想通り、東先生はHenryの価値を一瞬でわかっていただき、メッセージを送った翌日にはビデオ会議を実施しました。
――Henryのどんなところに価値を感じたのですか?
東:当時私が探していたクラウドネイティブ型電子カルテのイメージそのものだったんです。まだ病院版は開発途上でしたが、クリニック版は既にリリースされていて、その見た目もスマートで洗練されていて、「これだったら使いたい」と思いましたね。
林さんの事業への取り組み姿勢にも共感しました。「私たちは新しい世界を切り開いていきたい」という意気込みがすごかったし、学生時代にアフリカで日本の中古重機をレンタルするスタートアップで活躍するといった経歴にも好感を持ち、「この人たちなら大丈夫だな」と思いました。
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林:ありがたいお話です。当時まだコロナ禍の最中だったこともあって、東先生とは結局対面で会わなかったのですが、オンラインだけでどんどん商談が進んで、1カ月も経たないうちに導入を決めていただきました。
Henry導入で初の「当直免除」、働き方改革にメリット
――Henryを導入した結果、正幸会病院にはどんな変化がありましたか?
東:病院内外のどこからでも診療情報にアクセスできるようになったことで、私が家から指示が出せるようになったり、スタッフもリモートワークが可能になったりしました。それこそスタッフは病院の近くに住んでいなくてもよくなるので、職種によっては日本の他の地域に住む優秀なクラウドワーカーを採用することにもつながりました。
正幸会病院では、収支管理や薬品管理などでさまざまなクラウド型のアプリケーションを導入し、それらを連携する「mawari」というシステムを構築しています。Henryはこれとすぐ連携できるようになって、業務のコスト削減とスピード向上が一気に進みました。
林:オンプレミス型の電子カルテだと、端末が置いてある部屋に行かないとアクセスできないのですが、Henryだとタブレット端末などで病棟や病室でもアクセスできます。医師や看護師が病棟に長くいられるようになるので、病院によってはナースコールが半分に減るなどのコスト効果が出ています。
レセコンでは、これまで診療報酬の請求作業が10日間かかっていたところが2日に短縮できたという事例もあります。こうした効率化は結局、病床の稼働数や外来患者の増加にもつながってきますので、収入面のメリットを享受できている病院も多くあります。
東:あと、Henry導入による大きな成果として、正幸会病院は今年(2024年)6月に大阪府で初めて「病院医師宿直免除」の許可を受けたんです。Henryとmawariによって、病院外からでも指示を出せるようになったことで、当番医師と夜勤の看護師との情報共有とコミュニケーションが円滑に行える体制が構築できたからです。
【病院医師宿直免除】
医療法で、病院管理者は病院に医師を宿直させる義務があるが、入院患者の夜間の急変などに対応ができる体制を整えている場合は、都道府県の許可により義務が免除される。
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林:一定規模の病院では医師の当直義務がありますが、これがネックで総合病院の医師のなり手不足が社会問題になっています。昨今の「働き方改革」の流れにも逆行しています。
例えば、急性期の患者さんが入院している病棟と、容態が安定している患者さんがいる病棟のそれぞれに医師が1人ずつ当直しなければいけないとします。Henryなどのクラウド型システムを導入することで、当直が必要なのは急性期病棟だけとなり、もう一つの病棟はリモートで診られるようになります。医療DXだけでなく、全国の医師の働き方改革につながると思います。
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クラウドネイティブ型なら毎週機能がアップデート
――まさに医療に関わる社会課題の解決につながるソリューションだと思いますが、なぜ他のベンダーはこの領域に挑戦しないのでしょうか?
林:他のベンダーが開発してきたオンプレミス型やクラウドリフト型では、システム販売だけでなく、その後のメンテナンスや端末更新などでもかなりの利益を得ているという構造があります。クラウドネイティブ型になるとそうした名目での売り上げが無くなるので、単純に売り上げ全体が下がってしまうのです。大きな会社になればなるほど、「売り上げが減るなら投資しなくてもいい」ということになりますよね。
また、日本中でソフトウェアエンジニアが不足する中で、複雑なレセコンの開発を担えるエンジニアを集めてチームを組成することが、どこも難しいのだと思います。
ヘンリーは、それこそ何年も売り上げが立たなくても投資を続けてプロダクトを開発してきました。だからといって私たちがこの市場を独り占めしたいということではありません。
まずは私たちが実績を残して、既存のベンダーなどに脅威に感じてもらって、適度に競争が起きることが、日本の医療全体にとっては健全だと思っています。
とはいえ、私たちの病院向け電子カルテ・レセコンもリリースは2023年1月で、まだ1年半です。まだ細かい機能で足りていない部分はあるので、ほぼ毎週アップデートして機能を充実させています。
東:iPhoneだって最初は「コピペ」もできなかったから、ガラケーを使い慣れていた人は買い替えようとしませんでした。テスラの電気自動車に興味がある人も、トヨタのガソリン車が作り上げてきた「かゆいところに手が届く」機能に慣れちゃって、なかなか飛び移れないのと同じ。
でもiPhoneがそうだったように、クラウド型のシステムはどんどんアップデートされるので、端末を変えなくても数カ月で機能が充実して使い勝手も上がっていく。紙やオンプレミス型の電子カルテ・レセコンに慣れ親しんだ多くの医師にも分かってほしいですね。
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林:かつてはクラウド型に対して「外部にデータを置くなんてセキュリティー上危険だ。院内にサーバーがあるオンプレミス型の方が安全だ」という偏見が医師の多くにありました。
それも、徳島県の病院のランサムウェア事件(※同県つるぎ町立半田病院が2021年にランサムウェア攻撃を受け、オンプレミス型の電子カルテやバックアップ用のデータを暗号化されて病院側に身代金を要求された事件)が発覚したことで、オンプレミス型の「安全神話」は崩れました。
被害を受けた病院は災難だったと思いますが、医療界でのクラウド型に関する意識の変化は間違いなくあったと感じます。
「本気」でやっている会社がいなかったから参入した
――今まさに時代の要請に応えるプロダクトを提供しているヘンリーですが、そもそも電子カルテ・レセコンの領域で創業したのはなぜですか?
林:社会課題の解決につながる事業をやりたかったことと、その市場規模が大きいことの2つの要素で調べる中で、まず医療の領域で起業することは早い段階で決まりました。さらに医療関係者にヒアリングする中で、「使いやすくていい電子カルテがない」という声が多かったことがきっかけでした。
さらに調べていくと、どこもクラウドネイティブ型のシステム、特に病院向けのものを「本気」でやっているところがなかったんです。クリニック向けの電子カルテを提供しているところはいくつかありますが、スタートアップでも3番手、4番手以下の事業規模。大手ベンダーはあらゆる領域のシステムを提供しているコングロマリットなので、電子カルテの優先順位はもっともっと低い・・・そんな実態が分かってきたんです。
それなら、と参入したわけですが、開発に思いのほか時間がかかってしまい、クリニック向けに2年、病院向けには4年かかりました。その間、共同創業者の逆瀬川(代表取締役CEO)が企業やクリニック向けに経営コンサルティングをして売り上げをつくり、何とかしのいでいました。
――とはいえ、肝心のプロダクトを世に出せないのは会社としてつらかったのではないですか?
林:はい。冷静に考えると、プロダクトが何年も完成しないのって、特に開発にあたるエンジニアにとってはつらいことだと思います。でも、東先生がリリース前から導入を決めていただいたように、一部の医師の方々にプロダクトの価値を理解していただき、期待してもらっていたことは大いに励みになりました。
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クラウド化は医療と介護の連携に必須 医療DXのため貢献したい
――今回の番組協賛をフックに今後目指したいことはありますか? 今後の展望も含めて語ってください
林:まずコアプロダクトであるHenryの機能のアップデート・充実を図りつつ、多くの病院に提供していきたいと考えています。次に医療機関だけでなく、介護施設にもHenryのようなシステムを広めたいと考えています。
高齢化社会が急速に進む中で、急性期医療と在宅医療、そして介護が連携できる仕組みづくりは待ったなしの状態です。なのに、これまでのような紙ベースのやり取りや古いシステムでは医療と介護の連携は不可能ですし、その状態が続いているのはあまりにもったいない。
個人情報保護やセキュリティー対策をしっかり行うのは大前提として、私たちはクラウド型のシステムの提供によって、シームレスなシステム連携の実現に貢献したいです。これはこれから2~3年の間に挑戦したいと思っています。
東:医療でも介護でも、将来的に医療情報がつながって情報共有できるようにするためには、Henryのようなクラウド型のプラットフォームが基盤になることは必須だと思います。
加えてヘンリーに期待しているのは、AI(人工知能)の活用ですね。AIは既に病変の検出や問診などで活用され始めています。例えばレセコンをプログラムする過程でも、生成AIを使って工程を大幅に短縮するとかできれば、開発も飛躍的に進むのではないでしょうか。ヘンリーは既にAIを意識してプロダクトの開発を進めているので、今後も期待しています。
私たちの病院がヘンリーの挑戦のトライアル環境を提供することも可能です。そうやって一緒にプロダクトをつくっていくことで、私たちのような病院の悩みを解決できて、さらに医療DXの実現にも貢献できるのはとても嬉しいことです。
林:病院のシステムを全てクラウド化するという方針を実行している東先生のような医師は日本でも稀な存在だと思いますし、そんな方と挑戦できるのは本当に幸せなことです。
最後に強調したいのは・・・日本の医療レベルは先進国でも高いですが、医療情報の活用は先進国の中で最下位に近い状態です。1億2千万人分の医療情報をきちんと活用できる土台に乗せること、つまりクラウド環境に乗せてシームレスに連携・活用できる状態を構築することは間違いなく日本の未来のためになると信じています。
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取材日:2024年9月2日
文責:Henry編集部
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