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標準型電子カルテの現状と今後について

ヘンリーのGRの分部(わけべ)です。
今回は、1月31日に行われた厚生労働省標準型電子カルテ検討ワーキンググループ(第三回)資料や議論から、標準型電子カルテα版の開発状況や今後の見通しなどについて解説します。



はじめに

政府は、電子カルテ情報の標準化等を進めるため、診療所向けの標準型電子カルテα版の開発に、今年度(24年度)着手しました。1月31日のワーキンググループでは、α版の機能の共有のほか、

  • α版の導入のモデル事業の実施計画

  • 来年度の検討事項

について、厚生労働省から資料が提示され、医療団体の代表などからなるワーキンググループ委員によって討議されました。

※各委員の発言は、厚労省HPにて正式な内容が今後公開される予定です。今回は厚労省資料を中心に、一部ワーキンググループにおける議論についても解説します。

標準型電子カルテα版の機能

標準型電子カルテα版は、元々必要最小限度の機能の実装を予定していました。今回、実装予定の機能の詳細として、オンライン資格確認システム等の国が運営する医療DXのシステム群、レセコンや院外検査システムとのAPIによる連携を行うことが明かされました。
同時に、連携するレセコンはWebORCAクラウド版に限定されることや部門システムとの連携はα版では行わないことが明示されています。

厚生労働省資料(注記なき限り以下同じ。)

このように、国の提供する医療DXのサービス群との連携が、標準型電子カルテの主たる機能となることから、こうしたシステムとの連携が、標準型電子カルテα版のメリットとして挙げられています。

厚生労働省資料

このDXサービス群との連携方法として、クラウド間での連携を行うこととされています。

厚生労働省資料

さらに、具体的な機能の一覧を見ると、患者情報の管理等に関わる基本的な機能のほか、レセコンへの算定情報の連携などが挙げられています。
また、α版は、診療録の入力・参照等の機能を当然持ちますが、紙カルテとの併用も想定しており、そうした場合にはこれらの機能の活用は任意となっています。

厚生労働省資料

また、上記に挙げたように医療DXサービス群との接続や外注検査連携などの機能が実装予定ですが、外注検査やPACSとの連携を利用するには、連携先がα版との連携に対応している必要があります

厚生労働省資料

α版モデル事業実施計画

こうしたα版について、今年3月より電子カルテ未導入の診療所においてモデル事業を開始する予定です。

厚生労働省資料

モデル事業においては、

  • 実用最小限の機能としての過不足

  • 院内ネットワークや機器の手配などの導入作業にかかる負荷の程度

  • 医療DXサービスの活用度合い

などを検証していくとされています。

厚生労働省資料

こうした検証が中核的な病院を中心とする各地域で実施予定です。電子カルテ情報共有サービスもモデル事業を行うことから、α版もこうした地域で実証事業が行われていく予定です。

厚生労働省資料

来年度の検討事項

以上、α版の実装予定の機能やその検証のためのモデル事業に係る情報でしたが、これらについて、今後のスケジュールや検討事項が示されました。
具体的には、α版については、紙カルテと併用する場合とそうでない場合に分けて、24年度末から25年夏に順次提供が開始され、26年度にかけて実施や検証が行われていくこととされています。

厚生労働省資料
厚生労働省資料

今回のワーキンググループで言及されなかった事項

今回のワーキンググループでα版の機能や今後の予定などの全体像が少し見えてきましたが、例えば、

  • α版の導入や運用に係る医療機関の費用負担

  • α版のリリース後、通常はβ版、製品版(本格版)として改良を経て提供されるところ、そうした今後の具体的なスケジュールや達成目標

などは明かされていません。
モデル事業などを通じて明らかになる点もあると思いますが、本事業がどういうスコープで、どういう達成目標で行われるかは、利用する場合の実際の医療機関の負担も含めて、関係者の関心も強いところです。
令和5年度補正予算でα版の開発に約13億円、令和6年度補正予算でその整備に約9億円を計上しているようですので、こうした事業の見通しに関わる点は明確にすべき内容と考えます。

今後の課題

また、上記のとおり、α版は国の医療DXサービス群とクラウド連携を行うことになりますが、現状、民間のクラウド電子カルテにはこうした連携方法が許されていません。
本来こうした仕組みは、クラウドのメリットを最大限活用し、医療機関の負担を抑制するため、

  • 政府が提供するα版だけでなく、民間サービスもクラウド間連携ができるよう早期に仕組みを整備すべき

と考えます。(クラウド間連携の意義については、今後別のnote記事において改めて解説したいと思います。)

また、今回、ワーキンググループの議論の中で、

  • (標準型電子カルテについて)入院機能の実装があるならそれを待つという医療機関の判断もあるので、国は一定の方向性を示すべき

との趣旨の日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長からの御意見に対して、厚生労働省から、

  • 入院機能については、今後実装するのが難しいという意見もある

  • (仮に実装するにしても)開発及び提供がこれから先となること、また必要最小限の基本機能になるため、標準型電子カルテを待つ必要はない

という趣旨の回答がされました。
こうしたやりとりは、日本慢性期医療協会様が運営される日慢協BLOGでも触れられています。


ヘンリーにおいても、標準型電子カルテの動向が分からないため、電子カルテの導入を含む院内のDX推進については、当面様子を見るといった医療機関のお声を聴く機会がよくあります。こうした疑問に対する厚生労働省の姿勢がある程度明確になりましたが、DXの促進を停滞させないために、こうした誤解の解消に向けた対応を引き続き行っていただきたいと思います。

最後に、今回のワーキンググループでは、厚生労働省が1月に打ち出した下記の病院情報システムのクラウド化を推進していく方針(「病院の情報システムの刷新に関する方針」)の資料も紹介されました。(関連記事はこちら

厚生労働省資料


ヘンリーでは、今後、この病院情報システムのクラウド化推進の方針に関連するセミナーを3月12日に開催予定です。ご関心ある方は、下記よりぜひご参加ください。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

文責:GR分部