最近読んだ本 2021年12月
・ドストエフスキー「罪と罰(上)」
登場人物がまるで目の前にいるかのように生き生きとしている。作者によって作られた感じがせず、そのリアリティの強さに驚く。ラスコーリニコフの部屋が「棺のような部屋」と何度か表現されているのが印象的だった。彼を狂気へと駆り立てたのはこの部屋だったのだと思う。青年はなぜ宿命のように、反社会性を持つのだろう、とそんなことを思った。
「わかりますとも、わかりますとも……そりゃもちろんです……何だってあなたはそんなに僕の部屋を、じろじろごらんになさるんです? さっきもこの母が、棺に似てるなんていったところですよ。」
384頁
・木村敏「異常の構造」
これ一冊で、人間、世界、社会についての認識の根本的な構造がわかる。人が人である限り、異常を排除せずにはいられない。人間が世界を合理性によって解釈することの最も深いところには「生への意志」があるという考察は、自分が二十代を通して考えたことに通じていて驚いた。
また精神分裂病者を育ててしまう家族の特徴につても書かれており、そこはショッキングだった。
ショーペンハウアー的にいうならば、世界を現実として私たちの前にみせているもの、世界の実在性という錯覚を生みだしているもの、それは私たち自身の「存在への意志」、「生への意志」なのである。私たちは生きることを欲し、存在することを欲している。そして私たちの生や存在は、みずからが生きており存在していることの確かな証しを絶えず求めている。この証しこそ、世界が私たちに向ってくりひろげている抵抗感、現実感にほかならない。
154頁
・永井均「<子ども>のための哲学」
ここに書かれている、「哲学とは何か」の説明には非常に納得した。世界の「上げ底」に気付いてしまい、考えることでその上げ底を埋めてしまうのが哲学者であると。哲学した結果、ようやく普通の人と同じ地平に立つことができる。偉そうではない、背伸びをしない哲学観がよかった。
他にも、子どもの哲学、青年の哲学、大人の哲学、老人の哲学の違いの話や、人にはそれぞれ自分自身の哲学的問いがあり、だから他人の哲学を聞くのは退屈なのだといった話など、興味深い内容がいくつかあった。
哲学の入門書としてお勧め。
つまり哲学とは、他の人が上げ底など見ないところにそれを見てしまった者が、自分自身を納得させるためにそれを埋めていこうとする努力なのである。だから、哲学の問いがみんなに理解される公共的な問いになる可能性なんてありえない。なぜって、その問いが問われないことによって世の中のふつうの生活が成り立っているのだから。そして、もし上げ底がきっちりと埋まってしまえば、自分にとっての哲学はそこで終わる。そのとき、問題は消滅し、はじめてふつうの人(そんな問題ははじめから持たなかった人)と同じスタートラインに立てることになるのだ(『論理哲学論考』を書いたときのウィトゲンシュタインがそうだったように)。
114頁