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もうひとつの 「ミャンマー辺境映像祭」

 辺境チャンネル隊員である小林渡さん(以下ワタルさん)のメルマガを読みながら、そういえば僕も「ミャンマー辺境映像祭」に物販しにいったことがあったなあと思い出し、日記を確認してみたらしっかり記録が残されておりました。まずその日記を引用します。

2008年6月15日(日)(炎の営業日誌より)

 第3回ミャンマー辺境映像祭で、高野秀行さんが講演されるというので、『辺境の旅はゾウにかぎる』展示販売に向かう。

 するとそこに八重洲ブックセンター時代のアルバイト仲間Dがいてビックリ。

「どうしたの?」
「えっ?! 自分が作った本を売ろうと思って」

 そういって抱えていた袋から『見えないアジアを歩く』見えないアジアを歩く編集委員会編(三一書房)を取り出した。

「あっ、その著者が講演するんだ?」
「うんうん。こういう本、好きな人がいるかなと思って。そうでもしないと今なかなか売れないし。作ったからには責任持たないとさ。」

 というわけで、Dと約20年ぶりに肩を並べ、本を売ることになったのである。

 ちなみにこの日、会場に集まったのは100人以上のミャンマー好きの人たちで、休憩時間と講演後で『辺境の旅はゾウにかぎる』は持っていた分のほとんど42冊が売れたのであった。

 作り手であり、売り手でもある僕としては、おそらく本が出来てから、今日が一番うれしい日であった。というのも編集者はもちろん、営業マンだって実は自分のところの本が実際に売れる現場に立ち会うことはほとんどなく、「売れた」というのは注文やデータという仮想のなかでの出来事なのである。

 それが今日は自分の手で本が売れ、そして隣で高野さんがサインするという、すべてが現実にそこで起きていることであり、こんな手応えを感じることはそうそうないだろう。しかもお客さんが「これ待っていたんですよ!」なんて目の前で喜んでくれるのだ。

 そして僕は営業だから、どうしてもお金のことを考えてしまうけれど、この日の売り上げは42冊×1575円=66150円なのである。本の雑誌社には休日出勤手当も代休制度もないから、僕の人件費はかからない。というか休みより、こうやって本を売っている方がずっと楽しい。ということはこの売り上げをあげるためにかかった経費は、僕の交通費数百円と片道の送料のみ。しかも直接お客さんに本を売るということは、取次店への卸しではないから、約30%の掛けもない。営業として、こんな楽しいことはない。

 イヤラシイ計算はともかく、この目の前で本が売れ、スリップの束と売り上げのお金を見るということは営業としてとても大事なことだと思っている。というのは日常の営業の際にいただく注文書に書かれる数字に実感が増すのである。30冊の注文だとこれくらい、50冊の注文ならこんなお金でこれくらいのスリップ。そういう実感は営業をしていく上でとても大切なことだ。

 この日、そうやって忙しく本を売りながら考えたのは、本が売れない売れないとずーっと嘆いたけれど、では果たしてこうやって積極的に売りにいったことがあっただろうかということだ。こういう小さな努力の積み重ねによって売り上げは、変わってくるのではなかろうか。

 そして隣で本を売るDの姿を見ていると、もはや編集も営業も関係なく、作ったら売る、いや作ったからには売る、ということをより強く意識しなければならないと思った。

 僕たちはあまりに無責任に本を作ってきたのではなかろうか。

 日記では、出版社で働く人間の純粋な思いを綴っているのですが、実はこのイベントで本を売らないかと誘ってきたのが、ワタルさんのメルマガで海外から主催者を押し付けてきた“知人2人”と記されている超豪腕な人たちで、何やら身体全体からエネルギーを発する恐ろしげな人たちでした。

「どうもどうも、今日はよろしくお願いします」
「こちらこそどうも。高野さん人気ありますからガンガン売れますよ。何冊持ってきたんですか?! えっ50冊そんなんじゃ足りないですよ。今からタクシー乗って取り入ったほうがいいですよ。えっ、まだそもそも本が届いていない?」

 そうなのです。私が会社から送った本が宅配便の手違いか、会場に届いていないのでした。まあ、それにしたってそろそろつくだろうとロビーのソファに座って構えていた私に、その知人2人が鬼の形相で詰め寄ってくるのでありました。

「そんなの電話してすぐもって来いって言わないとだめですよ。電話したんですか?! 今すぐここで電話して!!!」

 ソファから立ち上がり直立不動となった私は携帯で宅配業者に電話し、「早く持ってこないとあなただけでなく、私もどうにかなりそうなので、一刻も早く持ってきてください。お願いします、お願いします」と伝えたのでありました。

 私の電話の緊急事態な様子からか、荷物はすぐ届き、知人2人の拳が火を見ることはなかったのですが、やはり海外の辺境で仕事をしている人たちは全然違うんだなあと思いつつ、私は打ち上げを辞退し、そそくさと帰宅したのでありました。おそらくこの日が私とワタルさんとの出会いの日だったのではないかと思います。

 まあそんな“知人2人”には、その後に高野秀行さんの対談集『放っておいても明日はくる』にご登場いただき、その後は大変仲良くさせていただいているので、いつかこの2人にも辺境チャンネルに出演いただきたいと考えております。


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次回、辺境チャンネル配信のお知らせ

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 辺境チャンネル第2回のイベント内容が決定しましたので、お知らせさせていただきます。

日時は、2020年8月1日(土)午後2時から午後4時半
「謎のアジア納豆」でネバネバトーク

と題してお送りする予定です。

チケットはこちらSTORESで販売しておりますので、みなさまぜひまたご参加いただけましたら幸いです。
https://aisa005.stores.jp/items/5f0008c713a48b766579d7fe

本に書いてないエピソード、掲載されていない写真などを中心にまたまた2時間半高野さんの話をたっぷりお届けいたいます。どうぞお楽しみに!

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