以前書いたお話(12:十二月は私の話)
こんにちは、返却期限です。
書いたお話を置いておく場所に困ったので、noteに置くことにしました。
これは、友人である、もとりさんが制作されたカレンダーのイラストに感化された私が、無謀にも1ヶ月1作のペースで、毎月のイラストをテーマにお話を書いたものの、12月分です。
1月分と合わせて楽しんでいただけたら嬉しいです。
『十二月は私の話』
なにか挟まっている。
向かいに座った友人がテーブルに置いた大きな手帳からのぞく「それ」が気になった。
「ああ、これ?ジャーン、切手シート」
手帳から引き抜いて見せてくれる。クリスマスツリーが背景に描かれた切手シートには、雪の結晶やオーナメントがデザインされた切手が埋まっていた。よく見るとツリーの先端からチラリと覗くのは鉛筆で、その先端に星が刺さっている。なかなかニクい演出だ。
「さっき買ってきたの。かわいいでしょ」
彼女が得意げに言い終わるやいなや、注文したドリアが二人分運ばれてきた。店員への礼は彼女に任せて、私はまだジロジロとシートを眺めている。
「あれっ、この切手なに?0円のやつがある」
プレゼントボックスの絵柄の切手、右上に「0」の文字。
「そりゃサンタさんへのお手紙に貼るやつじゃん」
「あ、そっか」
そんなことも忘れていた。
「あったねー、そんなの。もうサンタさん来なくなってから二十年くらい経つから忘れてたよ」
大人になると、クリスマスの思い出も楽しいものばかりではなくなってくる。上司にセクハラされた飲み会とか、ライブの予定だったのに入院していたとか、飼っていた猫を看取ったとか、SNSが身バレしてアカウント変えたなとか。
「クリスマスが近づくとさ、ここ十年くらい、そういう嫌な思い出が一挙に頭を駆けめぐっちゃって、暗くなっちゃってたわ」
シートを返却しながら嘆く。店内に流れ続けるクリスマスソングにも、私はうんざりしていた。
手を合わせてからドリアにありついた彼女は、少し考えてからこう言った。
「んじゃ、今年のクリスマスは、わたしがなんかいい思い出つくったげようか、あんたに」
「えっ、マジで?」
「当日は旦那と過ごすから無理だけどさ。そだ、これ食べてちょっと休んだら、カラオケでも行く?クリスマスソングしばりで」
「うーん、どうしよっかな。ちょっと考える」
ドリアをふうふう冷ましながら保留した。
そういう風に、私を楽しませようとしてくれている友達が、こうして一緒にごはんを食べてくれている、それだけで幸せだなと、ふと思う。
カラオケ、大好きだけどね。
「ちょっと前は絶対ドリアとか無理だったな」
彼女が突然そんなことを言い出した。
「なんで?」
「つわりで」
「えっ」
「赤ちゃんがいます」
「おめでとう!」
なんでも、正月に鶴が来て、しばらく経ってからコウノトリが来たという。
「なにそれ、コウノトリはわかるけど、鶴ってなに」
「受胎告知?」
頭に浮かぶエル・グレコ。
「マリアさま気取りかよ。てか、名前はもう決めてるの?」
「うん。鶴が来て、コウノトリが来て、生まれるのが来年の酉年でしょ?だから、男の子でも女の子でも、ミドリ」
「……三羽の鳥と書いて?」
「さすがにそれは……。美しいに、酉年のトリ」
「美酉」
「キラキラかな?」
「いや、割と渋い気がする。干支にかかってるからお年寄りにもウケがよさそう。あとまあ、読める、かな」
赤ちゃんの名前が、ミドリ。
赤と、緑。
クリスマスカラー。
そして生誕。
「ははっ、やっぱカラオケいいわ」
「いいの?っていうか、なに笑ってんの?」
「だって、クリスマスだなって思って」
「はあ?」
悲しい思い出、嫌な思い出、それを抱えた愚かな私をいつも笑わせてくれてありがとう。
彼女と、彼女が抱える大事な命に、メリークリスマス!
(おしまい)