見えなかった事に感動する
はじめましての人も、
前から知ってる方も、
ごきげんよう。
偏光です。
Pixivで公開してきた小説以外の文章を、
noteに移して行きます。
(文字数:約1800文字)
「もうこんな毎日にはうんざりなんだハニー。
愛車に乗りな。
夜明けと共にこの町とはオサラバだぜ」
といった次第で拐われるように、
ハイウェイを4、5時間ほどぶっ飛ばされ、
きちんと有給休暇を取った配偶者と、
和歌山県特産の、
勇魚料理を食べに来ています♪
と、言いますのも、
私が小説を書く事をやめられない人間であるように、
配偶者は車であれバイクであれ自転車であれ、
何かしらの車輪を快走させていないと、
心が曇り体調を崩してしまう人間なので、
このところの巣ごもり生活を、
どうにか一人サイクリングでいなしてはいたものの、
ついに限界がきた。
「おいしいねー。おいしいよねー。
うちから二時間くらいの所に、
このお店欲しいよねー」
好きな物を食っている間だけは、
別人のごとくのんきな口調である。
更にもう一点業を煮やしていた事があり、
ここ数年クジラ肉が、
庶民にもお手頃な価格では、
ますます手に入らなくなってきている!
高速を5時間かっ飛ばしてまで、
鯨なんぞが食いたかったのかコイツは。
……ってアタシもだよ!
九州は捕鯨文化県の出身だからな!
それどころか我が故郷の捕鯨文化は、
それこそ江戸時代に、
和歌山県からもたらされたものだからな!
いやホントホント。
文献に図版付きできっちり残されてるから。
両地域の、
少なくとも江戸時代までの共通点は何か分かるか。
栄 養 を 海 から 得る しか 無い んだ よ!
片や山に囲まれ、
片や島に囲まれ、
作物も畜肉も育ちにくい!
海の神様及び鯨の魂に、
感謝を捧げ奉った上で漁に出ているんだよ!
「その土地で獲れるものを、
調理し賞味し利用している者達を、
軽んずる筋合いは、
どこの国民であっても存在しないはずだがな」
「そうだねー。おいしいよねー。
おいしいものおいしく食べられるって、
しあわせだよねー」
「かく言う私も大学時代までは、
捕鯨反対論者だったんだが」
斜め向かいに座っていた配偶者の、
目の色が変わった!
怖い!
腹を立てた我が配偶者は、
理詰めでガチの説教をするからマジで怖い!
「……捕鯨業をしていた祖父を持つ後輩に、
秒で論破されたよ」
「そうだよねー。若かったんだねー。
知らない事は、見えなかったんだよねー」
ところで今回の小旅行にはもう一つ目的があり、
和歌山県は串本町の名勝、
橋杭岩(はしぐいいわ)を、
車窓から目にした途端に私たち夫婦は、
手を打ち鳴らしての大爆笑。
「あっはっは。すげー。ホントだすげー」
「うわー。本当だねー。すごいねー」
NHKの番組『ブラタモリ』で紹介されていたのだが、
マグマが吹き上がり冷え固まった地層が、
海辺に隆起し柔らかい層は長い歳月をかけて侵食され、
硬い元マグマ部分だけが一列に並ぶ巨石群として残されている。
昔の人はとにかく不思議だったようで、
お大師様の霊験みたいな伝説も語り伝えられている、
なかなかに見応えのある景色だが、
なぜ我々夫婦がそこまで食いついたかと言えば、
約5年前の冬の夜、
滋賀での法事に出席した帰り道の、
8時か9時頃、
トイレ休憩に立ち寄ったのがまさしくこの場所で、
「うわぁ。星がキレイだよ」
いやそんな事より岩!
「駐車場がずいぶん広いしトイレも使いやすい。
天体観測に来る人とかいるのかなぁ」
いや見えてないけど目の前岩!
岩! 岩だらけ!
巨石群に心があったなら、
片腹痛い会話を聞かせたことだろう。
嘘つくなよ。夜だって見えるよ。
とお疑いの方は、
まず星がキレイな、
つまり月が出ていない夜であった事と、
すでに知っている者なら、
輪郭線だけでも見出せる思いで見るだろうが、
そもそも知りもしない者には、
そこにある事すら気付けもしない、
という人類の視力の限界に、
面白みを感じて頂きたい。
大切な事は、目に見えない、
と言うよりも、
知らない事は、見えもしない、
という事実を、
物心両面で痛感した、
要するには和歌山県の日帰り旅行であった。