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黒幕甲子園巻物【毎週ショートショートnote】

仔細は不明瞭ながら本邦に伝承されし講談読本の類いにおいて、諸悪の根源たる怨念乃至は呪い、或は不可思議の験力等が、巻物に封印される例が多数散見される。無論水晶玉に刀剣の例もあり、その場合に光を放ち赫き渡るだろう事は、予想に違わないのだが、巻物全体が光を放つばかりか宙に浮き、封を解いた刹那その紙面から、蟲やら魑魅魍魎やら膨大量の水流が現れ出る場合もあり、読者の想像力が試される。思うに本邦の文字就中漢字というものには強大な呪力が刻み込めると信じ抜かれたのであろう。水晶玉や刀剣の例であっても実のところは、球体中に浮かび上がる文字なり刀身に刻み入れられた銘なりが、呪力の源泉であったりもしている。事実として極力画数の多い文字を選び抜き構成した羅列には人は威圧感を覚える。さながら黒幕の如し。然れどもさほど内容のある事は記されていない。蓋し黒幕は姿を見せぬ儘暗躍するのである。即ちその正体は筆者也。
この状況こそが黒幕甲子園也。


(410文字)

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