【小説】『マダム・タデイのN語教室』1/10
未読の方はまずこちらから↓
今年2月に公開したこちらの作品を、
先に読んでいただいても後にして頂いても。↓
(10回中1回目:約1000文字)
イントロダクション
お隣の奥さん、ステファニーは、やわらかな淡い色味の金髪に、茶色の瞳で、肌も白くて多分日に焼けないようにいつもつばの広い帽子をかぶっている。確かに美人さんなんだけれど、お隣に暮らして1年、そろそろ2年になるかしらって思うのに、
「コンニチワ」
くらいの挨拶しか話せない。
「これじゃあ毎日困るでしょう」
この2年間、ずっとそう言ってあげているのにお隣のご主人ときたら、
「いやー。それが大丈夫なんですっ。僕は彼女の言ってる事分かりますからっ」
その度やたら笑顔で、はずんだ声で返してくる。そりゃ旦那さんはそれで良いだろうけど!
「N語、教えてあげましょうか?」
「え」
「そりゃあ専門家とか教師とかじゃないから、完璧に分かりやすくとはいかないけど、日常的な言葉くらいは、ねぇ。知りたくないかしらステファニーさんも」
「いえそんな、御迷惑ですし大丈夫ですよステファニーは……」
ご主人の方が先に口を出してきたけど、
「あなたに訊いてやしないんです!」
厳しめに声を張ってやったら固まった。
「ステファニーさんが、どうしたいか訊いているの。あなたは彼女にただ通訳なさい!」
「は、はいっ」
うろたえる夫をステファニーは、首を傾げて不思議そうに見ている。
「奥さんが、君にN語を教えてくれるって言うんだけど……」
そんで旦那さんN語のまんまやないかい!
って気持ちが大きく動くと私は、生まれ育った故郷の方言が浮かんでしまう。口には出しませんけれどホホホホ。
「ヤー!」
そしたらステファニーは、私に向けた茶色の瞳を輝かせて、聞こえてくる言葉そのものはさっぱり分からないんだけど、
「知りたい! 私ここの言葉話したいです! ありがとうございます。よろしくお願いします!」
みたいな事を言っているんだろうなって、ビシビシ伝わってくる雰囲気になった。
だけど、私の方で今更冷や汗をかいているんだけど、この奥さんの言葉、英語ですらない。
「奥さん、どこの人……?」
「D国です」
旦那の野郎はあっさり答えてきたけど、それを2年前から言うとかんかい!
イントロダクション
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ディテクション
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