【万華鏡】秋
はじめましての人も、
前から知ってる方も、
ごきげんよう。
偏光です。
一年で最も好きな季節であると同時に、
食い物の恨みが忘れ難い季節でもある。
(文字数:約1000文字)
自作の小説中に登場させた、
主人公の祖父にも語らせたのだが、
気ぃ付けや。
秋はな、人が、あさましゅうなるでよ。
たくさんの実りに目のくらんで欲の出る。
自分たちだけが取ってええように思い込んで、
他所の者に分け与える気を失うてしまう。
一年中周りによぉさん与えた者が、
腹から力の抜け出す時期やで。
周りが気掛けてよぉっと食わせてやらな、
あかんのやけども、
困ったもんで、
一年中周りによぉさん与えた者ほど、
分け与えた後のスッカスカが、
ホンマの自分やて思い込むでよ。
欲しがる者が悪いんやけども、
欲しがらん者も良ぉはない。
せっかく持っとるもんまで無駄にする。
欲しがる者はただ欲しがるばかりやからな。
手を離した隙に持って行かれるでよ。
「村八分」
という言葉を知る人は多いかもしれないが、
実際に村八分に遭わされていた家の、
私は末裔だ。
なぜ村八分に遭わされていたかって、
「山あいの村まで訪ねてきた旅人を、
まず最初に出迎えてもてなす家」
だったからさ。
(可能であれば言外に含まれている、
表面には出し難い物語を読み取ろう。)
もちろん現在の末裔一家に、
江戸時代頃まで続いたその、
「家の役目」は課されていないが。
「食い物の恨みは恐ろしい」
と聞いた事がある人も多いかもしれないが、
末裔の中でも他の者より働きが悪いから、
腹など空いていないはずだと、
飯を出す事自体を忘れられたり、
量を減らされたりするなど、
ざらだった私の実感として、
恨みは深いし生涯忘れない。
何日もろくに食っていない上に、
人目がある時だけドカ食いさせられるとな、
食わせてもらってるくせに動かねぇ奴みたいに、
白太りするんだぜ人体ってヤツは。
脂肪だけを蓄えて、
栄養は行き届いてないんだぜ。
大抵の人は知らねぇんだ。
これまで聞く事も無かっただろう。
似通った目に遭った人たちは、
大抵生き延び切れねぇし語れねぇからな。
運良く生き延び切れたからには、
聞かれなくても語ってやるよ。
偶然にでも通り掛かって目にして、
畏れ戦け。
以上です。
ここまでを読んで下さり有難うございます。