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呪いの臭み字面【毎週ショートショートnote】

 怪談界隈では少々トリッキーとは言え、わりとあるあるだと思うのだが、

 ある人物にしか知覚できない臭い、というものが存在するという。

 実は私自身そうした知覚の持ち主であり、幼い頃から周りの誰にも気付かれない臭いに、一人だけ悩まされていた。
 ツンと鼻を刺すようでいて、妙な安心感もある。例えるならゴムが焼けるような臭い、をなぜか鼻の奥でかすかに感じるのだ。
 ある時配偶者が運転する車の助手席に乗っていたら、またその臭いを感じたので、不思議に思いながら30分ほど車が走り続けた先に、作り立てでまだ湯気を立てているアスファルトを乗せたトラックが走っていた。
 配偶者は目の前に見るまでその存在にすら気付かなかったそうだ。

「あのさー」
 と私の原稿を読みながら、文芸部部長が不躾にもぼやいた。
「私『におい』には『匂』の字使って欲しいんだよねー」
「臭い系の『におい』なんだからその字面は相応しくないだろ。呪われてんのか貴様」


(407文字)

 お題から思い出したエピソード2種類をつなげてみた。
 いやマジでそんな注文つけてきた方がいてビックリよ。
 ってか貴様の所詮こだわり程度が、
 他人にも当然要求できるみたいに思うなよ。

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偏光
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