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【万華鏡】正直
はじめましての人も、
前から知ってる方も、
ごきげんよう。
偏光です。
おとぎ話の中にしか見ない気がする。
(文字数:約1100文字)
正直者は馬鹿を見るとよく言うが、
そんなはずはないという反論もよく聞くが、
申し訳無いけれども断言したい。
正直者は馬鹿だ。
より正確に言うと、
自分を正直だと思い切れる者は、
それは馬鹿に決まっている。
実例を挙げよう。
私の母は、
嘘が大嫌いで、
言い訳にフィクションはもちろん、
お世辞や謙遜や遠慮の類も、
嘘と断じて自ら口にしないばかりか、
娘二人が普通に人付き合いをしていたら、
口にするレベルの文言であっても、
嘘と断じて「心が汚い」と非難する。
それこそ思ったままを正直に、
口に出し続けるので、
「おデブちゃんねぇ」
「あらこの子はお顔が曲がっているわぁ」
「このお店おいしくないわねぇ」
「あの家とお付き合いする意味無いわ。
あそこはお父さんが、
お仕事してなくて貧乏だから」
歯に衣着せぬとはまさにこの事。
そばで聞いている娘二人の背筋が凍る。
表情はにこやかなので、
一度二度は耳にした誰もが、
「?」と、
「聞き間違いかな?」
と思うのだが、
ひたすら誰に対しても、
そうした話題しか口にしないので、
しばらく付き合ってくれた人も、
次第次第に離れていく。
正直な自分の感覚こそが正常だと、
皆は嘘をついているだけで、
本音では同じように思っているはずだと、
信じて疑っていないので、
「みんなもそう言ってるわ」
「うちの娘もそう言ってたわ」
と二次被害も盛大に広げてくれる上に、
一切の悪気が無い。
悪気があった方がまだマシだ。
まだ人の気持ちというものを、
考えようとしてくれている。
それでは正直に価値は無いのか、
と訊かれたならば然にあらず。
真の正直者は、
自分の愚かさ加減を認め切れる。
教えも請えるし詫びも言える。
何のどういった分野であれ、
本当に分かっている者は、
まず「分からない」と答えるんだ。
正しい答えなど出せるはずがない。
あくまでもその時その場にいた、
全ての人々が築き上げた、
様々な条件下においての、
最適解が出せるだけだ。
条件が変わればまた答えも変わる。
従って真の正直者ほど自分に対して、
正直という認識を持てはしないだけだ。
以上です。
ここまでを読んで下さり有難うございます。
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