【小説】『フツーに仲良く暮らせていたらどうする?』-元旦6/6
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(6回中6回目:約1400文字)
「我々にとって名前は、重要すぎるあまり必要を感じさせないものだが、貴方達には無ければまだ不都合に感じるだろう。そこで今からは、我々がヒトの世で長く呼び親しまれてきた愛称で、貴方達を呼ぶ事にする」
そう言って虹色の神は、オレンジ色の服のどこからか、古代の官吏が使っていたような細い木の板を取り出して来た。両手で捧げ持ち正面に据え、
「申し訳ないが座っている者も今だけは立ち上がって欲しい」
言われて緑髪の娘が立ち上がる。
神なのだから記憶しているし、間違えるはずもないのだが、物々しく確認を取りながら読み上げられた情報は、ヒトの目に重要と思われやすい事を知っている。
「1月、暁神、アサ」
聞いていた贄達は、「ああ」と、
「2月、霜神、ユキ。3月、狩神、モリ」
大体の法則性を理解したが、
「4月、季神、トキ」
そこでそれぞれが少し首を傾け、
「5月、憂神、ウレ」
それを聞いた途端またあのドレスの娘が吹き出した。
「ウレ……、って何それ変な名前……」
ふわふわした茶色の髪を三つ編みにした、ウレに決まった娘は気を悪くしたようだが、その場では何も言わなかった。
「6月、幻神、カゲ」
「かわいそう」
「はぁあ?」
緑髪の娘が少し離れた位置からドレス娘を睨み付ける。
「7月、嵐神、ヤマ。8月、戦神、ソヨ。9月、美神、ヨシ」
「やだ……。みんなひどい……。おばあちゃんみたい……」
「10月、蝕神……」
読み上げる声が震えた、と気付いた者が何人かいたが、
「ジキっ……!」
口にした途端に吹き出して、それを聞くなり贄達も神々も、皆が笑い出してしまった。
「何よ! いいじゃないジキ! 素敵な名前じゃない!」
真っ赤になってドレス娘だけが、食ってかかっているが、
「すまない。いつもならこんな事は無いんだが……、人の名前を平気で笑う様子を見せられ続けていたら、つい声に出した途端に込み上げて……」
ツボに入った様子で、神なのに腹も抱えて笑い続けている。何せ神なので、ウソだけは出て来ないのでフォローになっていない。
「私は、嬉しいですよ。ジキ。素敵な名前と言ってもらえて」
蝕神からはお声を掛けられ微笑みも向けられて、胸の前に両の手を組み合わせたドレス娘は感激に身を震わせた。
「貴方に喜んで頂けるのでしたら、他は誰に笑われても構いません……!」
「いや。先に笑いやがったのアンタじゃねぇか」
緑髪の娘がボヤいてくる声など、聞こえてもいない。その間に気を取り直した様子で、読み上げる声が続く。
「11月は炉神、ホロ。火の炉で古語でいうカマドの事だ」
解説が入った、と気を留めた贄達の中で、
じゃあ何でこれまでの奇妙に聞こえた名前には解説が無かったんだろう、と不思議に思った者達の中で、
きっとひと言で解説できるような名前じゃなかったんだな、と正解にたどり着けた者がいた。
「そして12月は、ヨル。この私、宵神の伴侶になる!」
胸に右手を当て堂々と、朗らかな笑顔で呼ばわった虹色の神に、
「お前が宵神やったんかい!」
と両端を除く全ての贄が、文言も揃ったツッコミを入れた。
「うん。不思議な事にヒトからは、いつもそう言われる」
ヒトの世においては関西弁を知らずに過ごした者もいるはずだが、何せここに来て贄達は、既に肉声を発してはいない。
(「元旦」終わり)