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様々な方面の色々な立場から見て怖い与太怪談

 はじめましての人も、
 前から知ってる方も、
 ごきげんよう。

 偏光です。

 怪談、と言えるのかどうかも分からない、

 の詰め合わせ。

(文字数:約1700文字)


 関西ではそこそこ名の知れた、某大学のキャンパスは山の中だ。
 学生皆に広く知られた話ではないが、山中には太平洋戦争中に使われた、通信基地も存在するという事で、
 キャンパスへと向かうトンネルを、深夜に走行すると、旧日本軍の亡霊に出くわすと噂されていた。
 複数人で行軍し、向かって来る車に気付くと全員で敬礼をしてくるそうだ。


 ここで前回の怪談に登場した、JさんLさんに再登場頂こう。
 キャンパスが山の中であるのを良い事に、通っていた当時の、約30年前から、サバイバルゲームに興じていた連中である。
 令和の現在のような女子も参加できそうな小洒落たゲームではない。真の闇の中を藪の中であれぬかるみであれ、匍匐前進できる事が、基本の必須スキルという、女人禁制というより真っ当な女人であればまず近付かない、本人たちだけは真摯に真剣に挑んでいるつもりのゲームだ。

 そうした集団の一人に私の配偶者がいたわけで、私は「ツレの嫁さん」という気安い立場で当時の話を聞かせてもらえていたわけだが。

 そうした集団の中にはそれは、ミリタリーマニアが存在し、中でも旧日本軍に特化したマニアも存在する。学生の身分ながらわざわざ労力に大枚をはたいて、当時実際に使用されていた軍服を探し求めては購入する連中だ。
「本物とか絶対に念がこもってますよ」
 と私は気安い立場から口を出したのだが、Jさんは事もなげに、
「ああ。大丈夫大丈夫。俺より霊感めっちゃ強い奴知ってるから」
 と返してきた。
「……それのどこがどう大丈夫になるのか聞かせて頂いても?」
「せやからな。酒とか野菜とか買ってソイツの家訪ねるやろ? うわぁありがとうって鍋でもしながら酒飲ませるやろ。酔っ払って寝たソイツの家の隅にこっそりと、軍服とか置いて帰るねん。その晩ソイツがうなされなんだら着てOK」
「……そのお方の家の方角に、今すぐ土下座した上で心からの謝罪を述べてもらえますか」

 所詮は「ツレの嫁さん」の立場であるので私の発言は、
「はっはっは。サミュエル(配偶者のあだ名)。おもろいなこの子」
 程度で流されてしまうのだが、基本的に皆が私より10歳は年上の、配偶者からも実を言えば先輩達であるため、そうした発言が許される事自体が特別待遇だ。

 更にLさんは件の旧日本軍マニアに所属していたようで、ニコニコ笑顔で語って下さった。
「それでね、みんなの分が揃うでしょ。嬉しくてわーい、ってみんなで大喜びするでしょ。行軍だー、行軍だー、ってね、大学の周りを夜中でも、一列になって歩いて行くんだよ」
 なんだかものすごく嫌な予感がする。いや。確信がある。
「トンネルに入ってね、対向車線から車が来たら、みんな一斉に立ち止まって、
『お気をつけ下さい!』
 って敬礼するんだけど、どの車も物凄いスピードで走り抜けて行っちゃうんだよねぇ。あんなにスピード出したら危ないのになぁ」
 そのメンツでは唯一の下戸なので、烏龍茶を飲みながら黙って聞いていた配偶者が、グラスを置いて、顔と声だけは先輩方に対してにこやかに、しかし隠し切れていない怒りを滲ませて、
「おたくらでしたか」
 と呟いた。
 配偶者はミリタリーマニア以上に筋金入りの車輪好きだ。

 余談だがJさんはプログラマー時代の私の職場にいた人で、
「おかやん見てると俺のツレ思い出すねん。いっぺん会わせてみたいんやけど」
 と休日のファミレスに二人とも誘い出された事が、私と配偶者との馴れ初めになる。

 更に追記するが私が某Bモーターに吸収合併される以前の某H中古車センターで働いていた際、暑さも込みでの気の迷いでつい、

 上記の旧日本軍の逸話を、
 よりにもよって昼食休憩中のパートのお姉様方を相手に、
 ひとくさり話してしまって、

「霊とかよりソイツらが怖いしキモいし考えられへん」
 という至極真っ当な感覚でのお叱りを頂いた。
 その節は大変申し訳ございませんでした。


以上です。
ここまでを読んで下さり有難うございます。

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偏光
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