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南海鉄道高野線の橋本駅より先

 「御苦労な事だ」と笑わば笑え。
 私はその先が見たいのだ。


 特急「こうや」に乗ったなら、
 橋本駅からの「天空」に乗ったなら、
 もっと速やかに快適に山頂まで辿り着けるものを、

 私は常に各駅停車を選ぶ。

 それまでの道中で読んでいた本も、
 閉じてバッグに入れ収め、
 ただ車窓からの景色を眺める約50分間
 (ケーブルカーも含めれば1時間)を過ごす。

 橋本駅の標高92mから、
 高野山駅の標高867mまで、
 実に約770mの標高差を、

 今ここで、
 画面からは一旦目を逸らし、
 数値よりも実感として思い浮かべてほしい。

 東京スカイツリー634mが、
 すっぽり入ってなお余るという事実を。


 加えて線路は山の稜線に沿って曲がりくねり、
 今回数えてみたんだがトンネルの数は、
 九度山〜極楽橋間で22本。

 カーブだぜ。
 トンネルだぜ。
 カーブでかつトンネルだぜ。

 心の奥底の幼児がはしゃがないか?

 線路沿いにも山中にも、
 シャガにヒメシャガにシャクナゲに、
 ドウダンツツジが咲きまくっているんだが、

 名前などは今調べるまで知らずにいた。
 目の当たりにした感覚が最もよろしかろう。

 それはそれとして私のツボにハマりまくるのは、
 トンネルや石垣を覆い尽くすコケに、
 這い回るツタに、
 キノコとも思えるような奇妙な色形の植物に、

 コンクリート壁に沿って造られた、
 人一人が爪先立ちでようやく上れそうな階段。
 ハシゴとも言い難い垂直に並べ打たれて錆び切ったクサビ。
 路線から見える坂道の端際に停められた軽トラック。

 一般に「秘境駅」と呼ばれたりもする、
 そうした駅の周辺にも、
 今現在暮らしている人々がいて、
 生活が存在している事を、

 今や廃線となった無人駅すらも車で15分かかる土地に、
 かつて暮らしていた私は知っている。

 本を読んでいる時間すら惜しまれるほどに、
 想像による同情や感傷ではなく、
 実質的に身につまされるわけだ。


 例えば見出し写真に使わせて頂いた、
 紀伊神谷駅は標高473m

 「神谷(かみや)」という地名に興味を惹かれて調べたところ、
 本来の地名は「紙谷」であり、
 それこそ高野山の経典に使われる「高野紙」を生産していた。


 それは歴史に残すべき一大産業地じゃないかね。

 西洋の印刷技術が入り、
 製紙業の拠点も移り、
 鉄道網が敷かれた現在は忘れ去られたようだが。


 しかし極楽橋駅は標高539mからのケーブルカー、
 正味5分間も私はなるべく進行方向に相対して、
 牽引される様子にワクワクワクワクしているんだが、

 せいぜい100年ほど以前には、
 こんな急傾斜を、
 人をそこそこたくさん乗せて輸送できるなど、
 誰が想像すら出来ただろうか。

 鉄道網を含む技術の発展は、
 必ずしも悪ではないと言わざるを得ない。 


高野山の旅まとめ

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