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半分ろうそく水鏡【毎週ショートショートnote】

 卓越した職人の技により、きっちりタテ半分に作られたろうそくが販売され、「燃える様子が分かりやすい」と一時期小学生の教育用に注目を集めた。

 「火」そのものを扱う必要が無くなった未来の話である。

 小学生くらいまではまだ、炎のゆらぎに太古の動物的遺伝子が惹きつけられるようで、「うわー」「すげー」といかにも可愛らしい声を上げながら見つめている。中学生になってまで眺めているようなら嘲笑され、高校生になってまで興味を持つようなら危険人物と認識されるが。
「どうして半分しかないのにまっすぐ立って燃えてるのかなぁ」
「半分しか無くても材料に変わりがなければ燃えるだろう」
「半分は水鏡になっているんですよ」
 販売店の奥から職人が苦笑混じりに呟いたが、父親はより強い苦笑で返す。
「水なんか、どこにもないじゃないか」
「あるんですよ。火が燃えるそばには、どこにでも」
 嘲笑いつつ父親は店を後にしたが、子供はなお深く首を傾けている。


(408文字)

 あるんですよ。強いて付け加えますれば、
 材料のみで燃えるわけではないでしょう。

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偏光
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