「古着ブームの終焉」は本当か?〜移り変わる流行と変わらぬ価値〜
『ザ・ノンフィクション』「ボクと古着と下北沢 〜夢と現実のヴィンテージ〜」 では、下北沢の古着ブームの現状が描かれていました。
まるでゴールドラッシュのように、多くの若者が夢を抱え、古着を生業としてこの街へと集まっています。そして、過去5年間で古着店の数は倍増し、今や200軒以上がひしめき合う一大市場となっています。しかし、その熱気の裏側で、一部の店舗が閉店する動きも見られます。
こうした変化を目の当たりにし、「ブームは終わったのでは?」と感じる方もいるでしょう。
しかし、本当に「終焉」なのでしょうか?
流行の波としての終わりと新たな流れ
どんな流行もピークを過ぎると、「もう下火になった」と言われることが多いです。
特に古着のようにカルチャーとしての側面が強いものは、一度ブームが落ち着くと「終わった」と考えられがちです。
これまでにも1990年代(第一次古着ブーム)があり、その後、一度終焉したかのように見えましたが、2020年前後(第二次古着ブーム)として再び古着が注目を集めました。このように、流行は一度落ち着いたとしても、時代とともに再び脚光を浴びることがあります。
ここで大切になるのが『不易流行』の視点です。
古着が持つ「普遍的な価値(不易)」と、その時代ごとに変化する流れ(流行)のバランスを見極めることが、これからの古着市場に求められるのかもしれません。
「ブームの終焉」=市場の変化
「古着ブームが終わった」と言われる背景には、市場の大きな変化があります。
① 価格高騰による影響
ここ数年、ヴィンテージ古着の価格が急激に高騰しました。
特にアメカジや90sストリート系は、数年前の数倍の値段になり、手が出しにくくなった方も多いかもしれません。
「古着は安い」という感覚が薄れ、気軽に買えなくなった
転売目的の取引が増え、本来のファッションを楽しむ層が離れつつある
価格と需要のバランスが崩れ、一部の市場では停滞が見られる
ただ、これも「ブームが終わった」というよりは、価格が適正に戻るタイミングとも言えるかもしれません。
② 古着の「個性」が薄れてしまった
最近では、大手セレクトショップがリメイク古着や新品のような古着を大量に展開しています。
その影響で、「古着ならではの一点モノの個性」が埋もれてしまったと感じる方もいるのではないでしょうか。
以前は「誰とも被らない服を探すため」に古着を買う方が多かったですが、最近では「古着っぽい新品」で満足する人も増えています。
その結果、「本当に古着が好きな人」と「流行で買っていた人」がはっきり分かれつつあるようです。
ブリッジスの「トランジション理論」と古着市場の変化
ウィリアム・ブリッジスは、変化には3つのフェーズがあると説いています。
今の古着市場も、まさにこの流れに沿って動いているように感じます。
これからの議論においてこの三つのプロセスは非常に重要である。
もう一度整理しておこう。つまり、どんなトランジションも⑴終わり⑵ニュートラルゾーン⑶新たな始まりから成っている。
① 終焉(Ending)
「流行だからとりあえず古着を買う」時代が終わりを迎えつつあります。
下北沢の古着屋の閉店や、価格の高騰、大手ブランドの市場参入など、今までとは違う流れを感じている方も多いかもしれません。
ただ、これは「古着が終わる」のではなく、「次の時代へ移行するサイン」と捉えたほうがよさそうです。
② 中立圏(Neutral Zone)
今、古着市場は「次に何が来るのか?」を模索している段階です。
「これからの古着市場はどうなっていくのか?」
「価格が高騰しているが、値下げすればいいのか?」
「これからどんな古着が求められるか?」
答えがすぐには見つからず、不透明な時期となります。
でも、こうした「混沌の時期」こそ、新しい価値が生まれるタイミングです。
③ 新たな始まり(New Beginning)
「ブームの終焉」の先に待っているのは、より本質的な古着の価値が求められる時代です。
「本当に価値のある古着」が見直される
SNS販売やポップアップショップに加え、リアルな体験型イベントや会員制の限定販売など、新しい販売スタイルが広がり、従来の店舗型ビジネスとは異なるアプローチが求められている
この新たなフェーズを迎える今こそ、『不易流行』を意識し、普遍的な価値と時代の流れを組み合わせたスタイルを提案することが求められるのかもしれません。
「終焉」ではなく、「新たな始まり」
「古着ブームの終焉」と聞くと、少しネガティブな印象を持つかもしれません。
しかし、実際には「市場の変化」であり、それは決して悪いことではありません。
「終わり」は「次のステージへの移行」です。
流行としての古着が落ち着いた今こそ、『不易流行』を体現しながら、新たな古着文化を作っていくタイミングなのではないでしょうか。