みんなが自分の長所を活かせたら
カナダに来て1か月程が経過した頃、約20年ぶりに「レミーの美味しいレストラン」(以下:「レミー」)を観た。
原題は「Ratatouille(ラタトゥイユ)」。日本でも洒落たカフェなどで目にしたことがある人もいるだろうが、改めて定義を調べてみた。Wikipediaによると「フランス南部ニースの郷土料理で夏野菜の煮込み」らしい。作中でキーとなる料理であるが、登場人物の「母の味」として描かれていることからフランス人にとってはレストランで食べるものではなくあくまでも家庭料理という認識であると推察する。日本でいう「肉じゃが」に当たるのではないだろうか。
映画公開当時筆者は小学生だった。レミーが人間のシェフハットの中から調理指示を出すという記憶以外、ストーリーを全く覚えていないほぼ初見状態で今回視聴した。なお、英語で見るのは初めてだった。残念ながら日本語字幕の設定ができず、筆者の楽しみである翻訳は今回見ることができなかったが、フランス語訛りの英語を楽しむ新たな機会となった。
余談であるが、筆者は大学時代言語と文化比較を専攻していた。その際、ディズニー映画とジブリ映画の原題と邦題を比較したことがあったが、邦題は圧倒的にタイトルでキャラクターの名前や映画のあらすじ(結末)を明かしている場合が多い。例えば、日本でも大ヒットした「アナと雪の女王」の原題は「Frozen」。直訳すれば「凍った」だ。何が凍っていて人間が登場するのかも不明だ。一方で、邦題は「アナ」というキャラクターと「女王様」が登場することから、プリンセス系かもしれないという予測ができる。同じように「カールじいさんの空飛ぶ家」の原題は「UP」。邦題は「カール」という名の老人の家が空を飛ぶことまでタイトルで明かしてしまっている。今回の「レミー」においても原題では料理名のみであるため、イラストがなければネズミが主人公の話とは想像がつかない。(ただし、RatatouilleとRat(ネズミ)は掛けているらしい)
映画の話に戻ろう。
見たことがない人、筆者同様忘れた人のために大まかなあらすじを述べると、"並外れた嗅覚を持ちシェフになることに憧れた田舎者のドブネズミ(レミー)が、ひょんなことからパリの有名レストランに侵入し、見習いシェフの青年(リングイニ)と出逢いゴーストシェフとなって彼を帽子の中から操って最後はレミー自身の夢を叶える"という物語だ。ちなみにディズニープリンセス映画にありがちな人間と会話ができるタイプのネズミではない(笑)
大人になってから改めて見ると、レミーの視点だけでなくドブネズミの社会的地位や衛生面の視点からもストーリーを見ることができた事が興味深く、それでもレミーを応援したくなってしまう脚本力の高さは流石ディズニーだと思った。
特に、レミーと父親が価値観の違いで衝突するシーンは非常に共感した。レミーは田舎で屋根裏暮らしをしていた際、家族や仲間に変わり者扱いされていた。しかし、尊敬する人間のシェフとパリにある彼のレストランでのリングイニとの出逢いによって彼の人生(ネズミ生)が一変したのだ。レミーのように環境を変えて花が咲くこともある。誰もが皆それぞれ人より優れていることがあるが、必ずしもその人が生きる社会で受け入れられていたり、能力を活かした生活ができているとは限らない。人はどうしても自分が出来ない事に意識が向きがちで、特に大人になると好きなことや得意なことに対して真剣に向き合うのを避ける傾向がある。自分次第でその能力に蓋をすることも活かすこともできる。レミーのように皆が得意分野や能力を生かした生活が出来たらどんなに幸せだろうと思った。無理に職業に当てはめる必要はない。大人になった今こそ自分のちょっと秀でていると思う能力に意識を向けて、必要だと思うなら時には環境をガラッと変えて、その芽を伸ばしてみて欲しい。日々の生活が少し満たされるかもしれないし、新たな気付きが得られるかもしれない。
最後に、作中に出てきたセリフで筆者の心に響いたものを紹介しよう。(※筆者和訳)
数年ぶりに日本を出て、カナダで新しい生活を始めた筆者にピッタリの映画であった。