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シリーズ ケアと読書 本田由紀著『教育は何を評価してきたのか』前編

生きづらさは何故感じるのか。それはどこから来るのか。社会とも関係があるのか。

ここでは、対話コミュニティ「helpwell」の運営に携わる私こだまっちが、ケア、対話、福祉、教育といった要素と社会を繋ぐ本について感想を書いていきます。今回は以下の本の紹介です。

教育は何を評価してきたのか - 岩波書店 (iwanami.co.jp)

本書は、日本社会の息苦しさの原因について、日本の教育制度や言説を戦前からさかのぼることで掘り下げていきます。

(1)導入~日本学生の能力の高さと生きづらさ~

①能力の高さについて

本書の冒頭では、日本の学生の能力は、諸外国と比べても高いということが各種データで示されます。
毎年話題になる、OECD諸国での学力テストPISAでは、日本の学生は様々な分野でトップクラスです。
また、同じくOECDが実施する、読解力やチーム力、問題解決力等を日常に即した問題で測定するPIAACにおいても、複数分野で日本の学生は優秀とのことです。

単に学力だけでなく、総合的な能力でも日本の学生は高い力を持っています。

②能力の高さの裏と生きづらさについて

しかし本田氏は次に、残念なデータを提示します。PIAACのデータを元に、日本では読解力が、諸外国に比べて賃金の高低と紐づいておらず、読解力が高い国ほど経済格差が小さいはずが日本は逆に格差が大きく、更に日本人は諸外国より仕事上のスキルに不十分さを感じているとのことです。

また学習では楽しさよりテストへの不安を強く感じやすく、社会的意識や夢を持っている率も低く、つまらなさや憂鬱も諸外国より大きく感じやすいとのことです。

学力等様々な能力が秀でながらもそれらが実社会に結びつかず、更に希望も少ない……その背景を本田氏は探っていきます。

(2)背景を探る上での言葉の整理

背景を探る上でまず、本田氏は言葉の問題を整理します。印象的なのが、「メリトクラシー」(日本語では「能力主義」)という言葉のイギリスと日本での使われ方の違いです。
イギリスでは教育歴や公的資格が個人の地位を決定することをメリトクラシー(業績主義)といいますが、日本ではコミュニケーション力や問題解決力等、生得的能力も含めたあらゆる能力で地位が決まる社会のことを指します。(能力主義)
日本ではこうした社会を肯定的に見る向きが強く、それが社会が公正か批判的に見る能力を弱めていると本田氏は指摘します。

実際、日本では権力への不服従や、異なる意見を理解することを重視する意識が、先進国各国の中で最低レベルというデータが示されています。(不服従の意識はロシアよりはるかに低いそうです)

引き続き中編では、戦前から戦後、そして現在までの教育制度や教育を巡る言説を本書を通し追って行きます。



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