指輪物語TRPG 第1章『番外編1』
前回に引き続き、ルールブックの設定から着想を得たオリジナルシナリオです。
前回の冒険はこちら
プレイヤー・ヒーロー
ウーナ(バルドの民の闘争者)
バルドの民の裕福な商人の娘。幼少の頃より、王の竜退治の物語を聞いて育った。大人になったウーナは必然的に戦士となり、商人たちの護衛として故郷から遠く離れた西の地までやってきた。商人たちは取引を終えて故郷へ帰っていったが、ウーナはふさわしき強敵と戦ってその実力を示したいという強い思いに駆られ、見知らぬ土地での冒険に挑戦する。
モリエル(北方の野伏の守護者)
若くしてエリアドールの民を守ることにすべてを費やしてきた。族長のアラゴルンは遍歴の旅として南方に下り、各地でサウロンの手先と戦っている。族長不在の今、より一層エリアドールの守備を固めなければいけない。モリエルは任務の合間にブリー村の踊る小馬亭に立ち寄り、各地から集まってくる情報を仕入れることにした。
アウストリ・ステイルアンブロット(ドゥリンの民のドワーフの探宝者)
アウストリは復活したエレボールで鍛冶や工芸の技を高めてきた。だが年月が経つにつれ、トーリン・オーケンシールドがそうしたように、失われたドワーフの宝をその手に取り戻したいという思いが強くなってきた。今こうしている間にも、父祖の宝が悪しき者どもに穢されているのは我慢ならない。アウストリは鎚を置き、斧を手に放浪の旅に身を投じた。
イムナチャール(荒地の国の森人の研究者)
トゥイディマールの子。リョバニオンの最北端に古くからいるアイルガルザ族の流れをくむ氏族に生まれた。
霧ふり山脈の反対側からエリアドールまで旅をしてきて、この地の文明の要となるブリー村に滞在している。そこでカンパニーと合流して共に冒険をすることになる。
厳しい土地で生きてきたためか狡猾で素早く、頭の回転が速い。
カレン(北方の野伏の伝令者)
旧アルノール王家の血を引くもの。カレン内親王。
直系王族はドゥーネダインの中でも西方の血がより強く発現し、高い能力を持つ。また野伏集団の中でも先陣に立つことを求められるため、元服前の少女であっても一人前の野伏である。その任務は主にエリアドール各地に散る野伏たちの伝令係であるが、家格の高さから各国宮廷への正式な使者としてたつこともある。
カレン(Calen)は幼名。成人後はアラノール(Aranor)と名乗る予定。
物語
君たちはオークたちを巣穴からおびき出し
弓を構えて待ち構える。
次々と飛び出してくるオークと荒地狼に矢の雨が降り注ぐ。
しかしその攻撃でも敵の動きを封じることはできず
わらわらと出てきたオークたちは
君たちにまっすぐ突撃してきた。
激しい攻防が繰り広げられ、次々と倒れていくオークたち。
そんな中、突如霧が立ち込め、死霊が現れた。
君たちは戦うことをやめ、一斉に退却を始めた。
オークたちはほとんど殲滅することができた。
こうして、ブリー郷に迫る敵意を挫いたのだった―――
一行がブリー村で傷と疲れをゆっくりと癒していると、ハルバラドが訪ねてきます。
「今回のことは本当に感謝してもしきれない。我々の目をかいくぐってこんなところまで敵の手が伸びていたとは。ギルラエンの奥方様が風見が丘で君たちを待っている。直々にお礼をしたいそうだ」
一行がハルバラドと共に風見が丘に行くと、丘の頂上の丸い石組のところに、野伏の集団がいました。
その中央には背が高く細身の女性がいます。その表情には深い悲しみが刻まれていますが、不幸の重みに屈することなく、毅然とした態度を崩しません。
「ようこそ、ブリー郷の英雄たちよ。私はディールハエルの娘ギルラエンと申します。当代の北方の野伏の族長アラゴルンの母親でもあります。息子は今敵の手先と戦うべく、南方へ出向いています。族長不在の間の差配を野伏の首領たちと協議して、エリアドール地方の守備を固めています。」
ギルラエンは一人一人をしっかりと見据えながら再び話し始めます。
「此度の顛末はハルバラドから聞いております。敵はあと一歩のところまで迫っていました。エリアドールの文明の中心地となっているブリー郷が敵の手に落ちれば、この地は旅人さえも通れぬ暗黒の地となっていたことでしょう。本当にありがとうございました。カレン、モリエル、あなた方もよくやってくれました」
彼女は深々とお辞儀をし、周囲の野伏たちも次々と頭を下げました。顔なじみの者はカレンやモリエルの肩に手を置き、背中を叩いたりして労います。
ギルラエンが続けます。
「ささやかではありますが、私から贈り物がございます。」
そういってギルラエンが一行に手渡したのは、雨風がしのげそうな丈夫で地味な色のマントでした。光の当たり具合によっては深緑色に見えたり、灰色にも見えたりします。
「これは私が自ら織った野伏のマントです。荒野に溶け込み、間者の目を欺くことができるでしょう。敵に気付かれずにエリアドール中をすみやかに旅して、反撃される前に敵の勢力に強烈な一撃を与えることを助けてくれるでしょう。これからもエリアドールを守るために力を貸してください。我々野伏も援助は惜しみません。エリアドール中の同族たちのもとにあなた方を助力するよう知らせを出します。助けが必要な時は隠れ里や物資の集積地も頼ってください」
そうして、一行はギルラエンの言葉を胸に野伏たちと別れ、再びブリー郷へ戻って休息の時を過ごしました。
そんな折、アーチェト村の村人が皆さんを訪ねます。
「森番のフィッチさんがあんた方をお呼びでしたよ。何やら深刻そうな顔をしていました。ま、元々笑顔を見せるような人じゃないんですがね。特にあの事件の後からは…。いや、今のは聞かなかったことにしてくだせえ。あっしは何もしゃべってはおらんのです」
一行は、先日の"ブリー郷の戦い"で親睦を深めたフィッチを放っておくわけにもいかず、村人と共にアーチェト村へ行きました。
村人に連れられフィッチを訪ねると、中に入るよう促されます。
フィッチは無言でお茶を淹れ、皆さんをもてなします。
「今回のことは感謝する。あれだけの規模のゴブリンに奇襲されていたら、この村もひとたまりもなかっただろう。本当に助かった」
「さて、君たちは呼び立てたのは、感謝の言葉を述べるためだけではない。君たちの腕を見込んで頼みたいことがある。それは復讐だ!」
フィッチは昔の話を始めました。彼によると、十年近く前に父が横死したのは自分が至らなかったせいだと、今でも思っているようです。
そのとき父とフィッチは、風見丘陵から下りてきた乱暴者のトロルを狩っていました。だが、そのときフィッチは父がトロルを退治する手助けをできなかったばかりか、かえってトロルの大きな石の棍棒で打ち殺されそうになりました。父はフィッチをかばって命を落しました。
そのとき以来、フィッチは父が死んだのは自分のせいだと思って、罪をつぐなう手だてを探していますが、しかし独りでトロルに立ち向うのは怖いようです。彼は父の仇を討つという自分一人の使命と、村人を守るという誓いの間でずっと板ばさみになっていました。
そんな中、ブリー郷を守るという偉業を成し遂げた英雄が現れたのです。フィッチは、今こそ復讐を果たす時だ!と息巻き、あなた方に助力を求めます。
「ただで頼もうってんじゃあない。君たちにはアーチェトの狩猟弓を手にする機会を与えよう。どれだけ金品を積まれようと、決して部外者の手に渡すことのなかった弓だ。これが私の誠意だ、引き受けてくれるか?」
一行はフィッチの頼みを快諾し、トロル狩りを開始しました。
暗いチェトの森を進み、風見丘陵へ向かいます。
風見丘陵に近づくにつれ、トロルの痕跡があちこちに残っているのが確認できます。
その中で、一際目立つ足跡がありました。
一行は風見丘陵の入り組んだ地形の奥へ続くその足跡を追っていきます。
しかし、追跡の技に長けた者たちが、この足跡に違和感を覚え始めます。
どうやら、トロルは追跡者を敏感に察知し、有利な場所に誘い込んでいるようでした。
皆が警戒したその時、茂みの中からトロルが飛び出してきました。
一行は次々と矢を放ち槍を投げます。
カレンとウーナの大弓から放たれた矢は、石のように硬いトロルの皮膚を貫きました。
一行はすぐに武器を持ち替え、トロルを取り囲んで攻撃し始めます。
イムナチャールは、巧みな弁舌と狡猾さでトロルを煙に巻き混乱させます。
モリエルの長剣が素早く繰り出され的確に急所を突きました。
アウストリは鬨の声を上げ、トロルの士気を挫きます。
そこへウーナの矢が再び突き刺さりました。
トロルは待ち伏せが失敗したことに苛立ちました。
強烈な一撃を与えたモリエルを振り払い、身を翻して森の奥へと撤退していきました。