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春を謳う鯨 ⑲
佐竹さんはゆるゆると首を横に振って、鈴香にブレスレットをつけて、ブレスレットの上から鈴香の手首を柔らかく包んだ。
鈴ちゃん…君は僕に、人生をくれた。僕に僕の人生をくれたし、僕に君の人生をくれたんだ。僕になにかを返す必要なんてない。僕がいま、こうやって、返してるんだ。
けどねどうやっても、返しきれないや。今だって、これを、そんなふうに受け取ってもらっているもの。と、佐竹さんは呟いて、鈴香を抱きしめた。
もちろん、付けなくてもいいけど、似合うと思う日は、付けていて。きっと、君を守るよ。
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鈴香は冠婚葬祭用の真珠以外、イヤリングを持っていないし、ピアスホールは開けていない。夏の外回りで首元の開いた服を着るときだけ、楢崎くんが初めの誕生日にくれた、オフィス向けのネックレスをする。普段は、左手首に自分で買ったクォーツ時計、右手首に佐竹さんのブレスレット、右の薬指に、アクアマリンが一粒入ったペアリングをしていて…去年、キスをした次に行ったとき、鈴香はミナガワと初めて、体を重ねた、その次に泊まりに行った夜、ミナガワは重ね付け用にと言って、ダイヤの混じったレースデザインのプラチナリングを、そっと、差し出したのだった。
こんなことになってすぐなんて、しかも指輪なんて重いかもって、すごく悩んだんだけど、でもやっぱり、我慢できなくて。なんか、ごめん…。
二人とも裸だった。鈴香はブレスレットは外していたけれど、ペアリングは…それは、いまもそうだ、ミナガワには難しい推測は、させたくないから…外していなかった。
ううんそんな…重いっていうか…。私、ちゃんと、付き合えてるわけじゃないし、結局、ミナガワに何かしてあげたわけでも…それでこんな…悪いよ…。嬉しくて、胸が苦しいくらいだけど、…けど、だって私、私は、なんにも用意、ない…。
鈴香。なにかを欲しいからあげてるわけじゃないんだよ。そんなわけない。ずっと、たくさん、いろんなプレゼント、したかったの。でもそんなチャンス、来ないと思ってた…引っ越したのだって、今でこそ鈴香の別荘になれて、まさかの大当たりだったけど…ちょっと距離取って、鈴香のことは考えないで自分なりに暮らそうと思ったのも、あったんだよ。でもね、いまやっと…。だからね。受け取ってもらえたら、嬉しい。つけなくてもいい。
ううんまさか、そんな、すごく…可愛い。ただ…ミナガワは、私が、ペアリングに重ねてつけるのって…ミナガワは…やじゃないの?
ミナガワは少しのあいだ、なにかを考えるように瞬いてから、おずおずと、口を開いた。
その…指輪ね、実は、3連で1組なの。
…。あ、…。
残りの2連、私がつけてても、いいかな…?
鈴香は何と言っていいかわからなくなって、ミナガワに、長くて深いキスをした。ありがとう、大事にするね、いつもつけとく、と、囁いて、指輪をつけた手の甲を、ミナガワに見せた。ミナガワは泣きそうな顔をして、小さく頷くと、鈴香に唇を返した。ミナガワはすっかり、鈴香をうっとりさせるようなキスを覚えてしまっていた。鈴香は、ミナガワが鈴香の口蓋を、味わうように熱い舌でなぞるのを、ときどき感じすぎて背中を反らせながら、受け入れた。
唇を離して息を継いだミナガワは、私はあとでつけるけど、鈴香はそのまま、つけていて、と言って、また優しく、唇を重ねながら、鈴香の内腿に指を、滑らせた。
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