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沙織はこんな人(だと思う)

【あわせて読みたい:これは短編「愛を犯す人々②蒼唯」の付録です。読むと二度美味しくなる裏設定を、全部載せでお届け。わかりやすく綺麗になった沙織、初々しすぎて直視できない蒼唯のナンパ実態、花野さん失恋、沙織の好きなもの。他】

 沙織はけっこう、背が高いんですよねー168くらいはあるかな? 蒼唯に会った頃はガリポチャ貧乳鶴って感じでした。猫背で不眠気味で、俯きがちで半瞼、貧血っぽくていつも悲しげ、なんとなく全てがむくんでぶよぶよしてて、せっかく高価なのに服の合わせ方がいまいち残念、サダコ的に長い黒髪が暗い印象を与えてましたが、今はいい感じに肉が付き、全体には引き締まって、身長を活かした姿勢になり、目も輝いてて、食べごろです。アイシャドウは、肌色に合わないブルーシルバーから、ブラウンゴールドやピンクパープルに変わりました。唇が白っぽくてカサカサなんてありえない。ハイウェストのタイトスカートなんかもセクシーに着こなし、靴とバッグの相性もばっちり。アシンメトリーにカットしたショートボブの毛ヅヤもよろしく、ドアから入ってきたりした時に、あ、なんか異常にキレイな人だな、って思う、あんな雰囲気の人に仕上がってます。

 こんな人がつい昨夜、鼻から精液垂らして、ご褒美にア[さすがに自主規制]せてくださいとむせび泣いて懇願してたんですから、世の中わかんないですね。蒼唯はほんと、いい仕事したと思う。

 本篇では紙面の都合上、あるいは蒼唯の性格、及び準一人称スタイルの都合上、あまりフォーカスできなかった沙織ですが、そうなんです、こんな素敵な人だったんです。そんなに、顔だけみるとハッとさせるような美人ではないんですが、スタイルとか雰囲気とかは、ハッとさせられますよ。電車や交差点で見つけたら、あ、沙織、ってわかると思う。もともと弓道花道茶道と乗馬を習い事にするような良家の子女ですし、実のところの素養が、並盛りの女性とは違う。もともと、こういう人だったんですね。綺麗になったというより、水を得た魚です。自尊心とか羞恥心とかって大事。恋心も…たぶん、大事。

 そんな素敵な女性・沙織にとって大変残念なのが、沙織の夫なのですが…沙織にとっては、尊敬できる大人の男性ですから、あまり突っ込みたくないな。残念ではない部分をなるべく拾っていこうと思います。ご興味のあるかた、ご了承を。

 お見合い婚です。沙織は処女でした。物凄く気に入られて結婚したと思ったんだけどね、その好意は恋愛的な情熱ではなかったのか(なんか違う情熱しかなかったのか)、3ヶ月で性的接触がなくなりました。1年目は、戸惑い。2年目は、憤り。3年目は、諦め。4年目に、落ち込み。その間ずっと、お客様担当として笑顔で接客、週末は夫に良妻として付き添って、夫の実家とワイン講習会。とか、ドライブかな。基本、プライベートは夫に随伴です。夫は大事にしてくれるんですよ、口癖は「仕事のほうは順調かい?」「無理をしてはいけないよ」「気晴らしに、今度どこかに旅行に行こうか」。短期間なら京都のリゾートヴィラ、夏休みはプラハに行ったりします。もちろんのように夫持ち。沙織のお給料は全額、沙織のお小遣いです。ちなみに沙織は実家からも、これで気に入ったものでも買いなさいとカードを貰ってます。洗濯と掃除は家政婦さんがしてくれますが、料理は自分で作ります。インスタ映え。でもインスタしてません。夫は、特に平日は帰ってきたり、こなかったり。ただ、帰宅時間は必ず毎夕、メールしてきます。理由は、本篇をお読みの方にはがっつりわかりますね。良く言えばこの人もこの人で気が長いですね。

 夫が帰ってこない日も沙織はインスタ映えする料理を作り、一人で食べます。お、意外に精神強い。料理が趣味というのはありますが、育ちがいいので、お家できちんとしたご飯を食べないと気分が悪くなるんです。食べ方、とてもキレイです。

 犬はボルゾイ、猫は色違いのアメリカンショートヘアを二匹飼っています。名前は前からスノー、モカ、ラブ。直球だね。ラブがまた可愛いんだよね若くてぷるんとしてて、わがままなのに優しくて。スノーは本当に穏やかな子で、モカは姉御肌です。沙織は時々、自分もこの子達と同じようにこの家にいるんだな、って思います。死ぬまでここに。幸せに。毎週、散歩に連れていかれて。

 女子大時代の友達は、仕事か子供か、あるいはその両方が恋人、時により、夫がまだまだ恋人。親友がいましたが、なんとフィンランドで詩人と結婚し、子どもが二人できました。連絡が間遠になるうちに、沙織が彼女の幸せ全開ブログをチェックするだけの一方的な仲に。仲というより、もはや幸せ全開ブログの単なる1ファンです。一応、学生の頃の友達とは会えば仲良く話しますが、どんなに突っ込んだ話になっても、内気な沙織は自分を出していけません。品位があります。ただでさえ悩みを打ち明けられないタイプなのに、人生で一回くらい、大好きな人と素敵なセックス、したかったな(←過去形です、みなさん。泣いてあげて)…。なんて。そんなことは。バカっぽいし、惨めだし、はしたない。

 うーん、うちはあんまり…昌幸さんももう、そんなにギラギラした年じゃないし、私もそんなに…そういう意味では、私たち、バランスは取れてるみたい。

 と、言います。女性って、なんでこういう嘘つくんでしょうね。見栄っ張り。言いながら、本当にそうだったらいいのに、と思います。私、なんでこんな風になっちゃったんだろう、なんで、こんなに、萎れて、崩れて、そのくせ、掴みかけたなにかを忘れられずに、見苦しく、追い求めてしまうんだろう。どうすれば、誰かに愛されるんだろう?

 どうすれば?

 どうすれば、セックスしたい、なんて、思わない体になれるんだろう?

 もうだめ、つらい。この時期の沙織の話は現実感ありすぎて私が厳しいです。やめましょう。

 メトロでICカードを落としたのも、鬱っぽくなってて涙目になったのを拭こうと思って、ハンカチを出した時。ICカードをさっきどこに仕舞えばいいのかわからなくて突っ込んで、それがハンカチの間だったのを、気分が沈んでるせいで、忘れていたから。鬱あるあるですねこれ。自覚あるかた、快癒をお祈りします。

 いいですねえ、沙織のイメージがついてきました。この辺りで、私の心のアシスタントの花野さんにインタビューに行ってもらいましょう。花野さん。くれぐれも舞台裏は見せないようにお願いします。「(ちょっと冷たい感じはするけど)自分を大切に扱って労ってくれる、大人で不在がちな夫」と、「自分の身体を骨までしゃぶってくれる、一途で優しい若い恋人」がいて、沙織はいま、色々不安だけどいまは忘れちゃおう、と思って、幸せを堪能してますから。知りませんから何も。くれぐれもね、よろしくね。OK。行ってよし。

花:わぁ。こんっなに、麗しいかただったんですね。不躾かもしれませんが、わかりやすくリポートさせてください。全身からお金の匂いがします。
沙:(苦笑)
花:蒼唯さんとの出会いがずっと気になってたんですよね。駅で出会ったとお聞きしてますが、ナンパですよねそれ。
沙:初めてお会いしたのは、たしかに駅でなのですが、その時は名前もお聞きしませんし、通勤中でしたから、お礼を言ってすぐお別れしました。
花:出会いの要素を感じません。
沙:ただ、ほら、とても格好いい男性なので、印象には残っていました。それでだと思うのですが、その日の帰りに、駅前のコンビニでまたお見かけしたんです。その時も目が会っただけだったのですが、蒼唯くんから会釈してくれました。
花:じわじわきますね。
沙:後から聞いたんです。その時に、一目惚れしてくれたんだそうです。
花:のろけますねぇ。いいんですいいんです、どんどんのろけてくださいね。で?で?
沙:次の日、また帰りの時間に、蒼唯くんは今度は同じコンビニの前で待っていて。デートを申し込まれました。
花:ダメだ。ただしイケメンに限るやつだこれ。なんの参考にもなりません。次行きましょう。
沙:(微笑)
花:受けたんですか、デート。
沙:はい…いえ…お断りしたんです。でも…ご結婚なさってるのは重々承知してます、こんな形になってしまったのは残念ですが、昨日見てから忘れられなくて、だから記念にでもいいから、一緒に過ごす時間をほんの少しだけ、くださいって切々と…。私、そういうの、全部嘘だと思ってたんです。だって、私…その頃…。
花:ご自分に自信が持てずにいらした。あ、敬語が感染ります。丁寧ですね話し方。で?で?で?
沙:でも、一回くらい、一回くらいなら格好いい男性と、デートするくらい、いいのではと思ってしまったんです。
花:ははぁ、結果、一回では済まなかったと。
沙:そうなりますね…戸惑いはありましたが、蒼唯くんはとても聞き上手で、誠実な人でした。私に会えるだけで、仕事の疲れが飛んで行くって言って、しばらくは本当に、お会いするだけだったんです。奥手な私に合わせてくれていたのだと思います。
花:どれくらい、その…あ。すみません時間が…。不思議に思ってた部分が見えて、少しスッキリしました。ありがとうございました。それでここからはプライベートでの会話なんですが、どのくらい、その…

 はいはいはい。花野さん、ちょっと蒼唯がいいなーって思ってるんでしょ。みんなそうだから。みんな気になるから。でも、無理だから。本篇、ふつうの規格で書いたはずなんだけど、一部文字化けしてたかな。…て、まあ、いいか。花野さんは放し飼いにして、こちらで、ちょっと巻いてあげましょう。

 蒼唯は、沙織がICカードを仕舞った内ポケットに、沙織の会社の社員証が入っていることに気づきました。社名は見えなかったけど、ロゴが見えました。ちょろい。あとは検索するだけ。就業時間と乗車駅が分かってるので、焦りません。その日の蒼唯は妙にウキウキしていて、同僚に、今日は毒舌不調だね笑、と評される始末でしたが、これは蒼唯サイドの話でしょうね。沙織は、世の中にはあんな人を彼氏にして結婚前提の恋愛ができる、可愛くて若い女の子がいるのだなぁ、としみじみ思いながら、会社近くのカフェでおひとりさまランチしていました。あんな人を彼氏にして、結婚を考えずに全力で恋愛できる、美しくて若い女性はあなただったんですけどね、沙織さん。あなたが想像してたような女の子は「若い」と言わず「幼さの残った」と言うのです。はい。

 初夜までは半年でした。まじで。なにしてたの。

蒼:恋愛。

 あ、そう。週1ペースで会い、メールは平日毎日、平均4往復してましたから…実績概算では、蒼唯はベッドにたどり着くまでデート24回・メール480通を乗り越えたわけですね。暇か。

蒼:それが恋愛でしょ。

 あ、そう。若さって、いいね…。

 その後はご想像にお任せしますが、何をご想像してくださっても、だいたいご想像の通りです。想像の翼を羽ばたかせる醍醐味を、存分に味わってください。

 小説のいいところって、恋愛を終わりまで描かなくていいところですかね、現実にはほら、終わりが必ずありますから…。恋の終わりというのは、それほど、楽しいものでもないですし。

 さてと。

 そろそろ締めて行こうかな。戸締まり、戸締まり。

 あ、巻いた尺の裏を長ーく使って、花野さんが帰ってきました。沙織の恋バナ、全部聞けたかな。

 ん?青ざめてるね。どうしたの。

花:無理無理無理無理無理無理無理。

 あはは。

 や、花野さんはしなくていいんですよ。花野さんは花野さんの好きなようにしたらいいし、花野さんがいちばんしっくりくる人探せばいいの。無理なら、やめるか、やめれないなら、無理してみればいいんじゃないかな。しっくりこないからって諦めるのもきっと、何か違うかもしれないね、皮革製品みたいに、だんだんしっくりくることだって、あるから。だいたい、蒼唯が花野さんに合わせてくれないとも限らないじゃない。

 まあその、個人的には、無理はしすぎないほうがいいとは思いますけどね。自然がいちばん。どんなにつまらなくても、どんなにおかしくても、自分の「普通」がいちばん。個人的にはね。

 趣味というのは人それぞれですからね。趣味が合うって、素晴らしいことですね。

 沙織の好きなもの。帰ってきた時にスノーが、それまでどんなに眠りこけていても必ず、玄関までお迎えにきてくれること。モカをお膝抱っこしてあげた時のモカの顔。ラブと鳴き真似遊びすること。最近、蒼唯が「これならつけてもらえるかなと思って…」ってくれた、蒼唯のお給料1ヶ月分のティファニーのブレスレット。綺麗で美味しいもの全般と、伝統的で美しいもの全般。体のお手入れをしてもらうこと。半身浴で読み進める村上春樹の小説。結婚祝いで叔父さまからいただいたマイセンのブルーオニオンシリーズが飾られている、2番目の食器棚。雨の日に、おじいさまとおばあさまのお家の玄関ホールでタクシーを待ちながら、天井のステンドグラスを見上げる時間。昌幸さんが日曜日の朝にだけは自らキッチンに立って淹れてくれる、コーヒー。が差し出された時に、ありがとう、と言う自分の、もう、小さくもなければ震えてもいない、声。蒼唯。正常位で達したあとに、体を起こす前の蒼唯が必ずくれる、慈しみに満ちた静かな眼差しと、少し息苦しくなるような、強くて、短い、抱擁。

以上です。


本篇は、こちら:

蒼唯は、ここにいます:


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