王さまとたね 1/8
みなさんのみる夢のどこかには、おおき な、おおきな海がひろがっているのを、みなさんは、ごぞんじですか。「そんなこと、とっくのむかしに知っているよ。」という人もいるでしょうし、「そんなこと、いま、はじめて聞いた。」という人も、いるでしょう。けれど、どんな人も、その海のまんなかにぽっつり、ちいさな、うつくしい島がうかんでいるのは、ごぞんじないかもしれませんね。
その島は、歩いてまわれるほどの、ちいさな島です。ねんじゅう、あたたかくて、ゆたかな緑に、つつまれています。
このちいさな島の、なかほどにある野原には、やっぱりちいさな、二かいだてのお城があります。
お城は、いつからあるのか、わかりません。古いけれど、ふんいきのよい、かわいいお城です。
お城には、ちいさなかんむりを頭にのっけた、ちいさな王さまが、ふたりの友だちと一緒に、住んでいます。
「王さま」といっても、ちっとも、えらそうではありません。
お城に住んで、きんいろにきらりとひかるかんむりを、かぶっているので、みんな、「王さま」と呼んでいるだけなのです。国もなければ、家来もありません。財宝もなければ、おきさきもありません。なんにもないなんて、へんな王さまです。でも、みんなが「王さま」と呼ぶので、わたしたちも、「王さま」と呼ぶことにしましょう。
王さまは、内気で、あまりしゃべりません。にっこり笑ったり、楽しそうにはしゃいだりもしません。なにを言うときにも、同じ顔をしています。ですから、はじめて会う人は、王さまはいつもふきげんだと、かんちがいするかもしれません。けれども、よく、王さまをみてください。王さまは、いつもだれかのために、なにかをしてあげようとしているはずです。だからほんとうは、だれにも手をさしのべることのできる、やさしくて素直な心のもち主なのです。
みなさんには、王さまの友だちも、ごしょうかいしましょう。
まずは、空とぶさかな。
さかなのうろこはにじ色で、あっちにゆらゆら、こっちにふわふわ、いつも宙をただよっています。王さまとはうってかわって、さかなはとっても元気。ちょっと高めの明るい声で、陽気に話します。
つぎに、ものしりランプ。王さまやさかなの生まれるずうっと前から島にいる、お城と同じくらい古いランプです。にび色で、ずっしりしたようすをしています。とってをからんからん、がしゃんがしゃん、鳴らしながら、たいぎそうにすこしずつはねて動きます。そのようすは、まるでこちらこそほんとうの王さまみたいです。
王さまと、空とぶさかなと、ものしりランプは、夢の海のちいさな島で、静かに暮らしています。でも、まいにち、いろんなできごとがあるので、ぜんぜんたいくつしないのです。
さて、いろいろなおはなしのなかから、どのおはなしをしましょうか。
そうですね、王さまたちと、ちいさなたねのおはなしをしましょう。
今日は明日、昨日になります。 パンではなく薔薇をたべます。 血ではなく、蜜をささげます。