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39歳のハローワーク⑥退職代行を使うっていうことは。
オーナーの話はこうだった。
その日の午後、オーナーが歓送迎会のためにお店で閉店作業をしていたところへ電話が一本かかってきた。
「退職代行の者です。エリさんはお店を辞めました。明日からもう来ません。本人がお店との連絡を断ちたいと言っているので、お店からエリさんに直接連絡することはしないでください、連絡した場合は法律違反になります。」
という内容だったらしい。オーナーがいくら「待ってください、それは困ります」と言ってもダメだったそうだ(そりゃそうだ)。
エリちゃんと退職代行
話を聞いたバイトの私たちは驚きのあまり本当に何も言えなくなってしまった。あのほんわかにこにこした優しいエリちゃんと、退職代行業者のつめたい言葉が、どうしても頭の中で結び付かなくてただひたすら混乱していた。
「えっ、、、エリちゃんは大丈夫なんですか?」ようやく出たのがこの言葉だった。あのエリちゃんがそんなことするはずないから、きっと彼氏に無理やりさせられたんだ=彼からひどく束縛されているんじゃなかろうか、という変な考えにまで至ってしまっていたのだ。
それくらいに、エリちゃんが退職代行で飛んだということは衝撃的だった。オーナーの奥さんは同様にショックを受けつつも、どこかほんの少しだけ呆れたような顔をしていた。
本当にいなくなったエリちゃん
信じられなかったけど、エリちゃんが飛んだのは事実だった。何日経ってもエリちゃんは戻ってこなかったし、一週間後くらいにエリちゃんの使っていたエプロンがお店に郵送されてきた。宛名はしっかりエリちゃんの字で書かれていたけれど、中にはエプロンだけが入っていて、手紙やメッセージカードなどはもちろん無かった。
エリちゃんは辞める前日も「では、また明日〜」とにこにこしながら帰って行ったのだそうだ。
私は衝撃のあまり、眠れなかったり、なぜか自分がすごく傷ついたような心持ちがしたりして、しばらく落ち込んでいた。私が知っているエリちゃんとは一体誰だったんだろう?ととまで考えたりした。
結局パワハラだった
結局エリちゃんはそのまま帰ってこなかったけれど、そんなことをした直接的な原因はオーナーからのパワハラだったんだと、後に私も理解した。
退職代行なんていうものを使わないと辞められなかったということは、つまりそういうことなのだ。と、今ならよくよくわかる。
こうして、あの楽しい楽しい奇跡みたいな日々は予想通り長く続かず、数ヶ月で幕をとじたのだった。
そしてそこから私まで辞めることになるまでは、あっという間だった。