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「まぜこぜ一座殺人事件〜まつりのあとのあとのまつり〜」バリアフリーガイド制作者にインタビューしてみた!

こんにちは!ハロームービー株式会社です!
すっかり寒くなってきましたが、良き映画ライフを楽しんでいますか?
今月もたくさんの映画に対応しました!

10月18日には、映画「まぜこぜ一座殺人事件〜まつりのあとのあとのまつり〜」が公開されました!

本作はHELLO! MOVIEのバリアフリーガイドに対応しています。
今回の記事では、「まぜこぜ一座殺人事件」のバリアフリーガイドを制作されたNPO法人メディア・アクセス・サポートセンター様に、バリアフリーガイドの制作過程やそもそも映画のバリアフリーガイドとはどのように作られるのか、お話を伺いました!

大ボリュームになっておりますので、最後までぜひご覧ください!


「まぜこぜ一座殺人事件〜まつりのあとのあとのまつり〜」とは

作品概要

俳優の東ちづるが企画・構成・プロデュースを手がけ、2017年に立ちあげたエンターテインメント集団「まぜこぜ一座」を舞台に描いた社会派コメディサスペンス。

https://eiga.com/movie/102303/

「社会派コメディサスペンス」と銘打たれた本作。
結局どれなの…?と思った方は是非本編をご覧になってください!
まさにその名の通り、「社会派」「コメディ」「サスペンス」の要素が絶妙なバランスで「まぜこぜ」になっているのです。

あらすじ

公式サイトではこのように書かれています。

特性あるプロのパフォーマー集団、まぜこぜ一座は、舞台「歌雪姫と七人のこびとーず」。
終演後、関係者と共に打ち上げ会場に集っていた。興奮と談笑の中で、座長の東ちづるの楽屋から悲鳴が響く。座員たちが駆けつけると、そこには首を絞められて息絶えた東の姿。 驚愕する座員と関係者。だが楽屋のフロアのエレベーターは使えず、携帯の電波も遮断されていた。「犯人はこの中にいる」と確信するドラァグクイーンのドリアン・ロロブリジーダが、義足のダンサー森田かずよを助手に犯人探しを始める。なぜ?誰が?座長 東に憎しみを抱く者なのか?ドリアンが探る中で、座員、それぞれが抱えていた不満が露わになり、事件は思いがけない展開に!
殺人事件をきっかけに、車椅子ユーザー、発達障害、全盲、ダウン症、聾、こびとなど、特性を活かして活躍するマイノリティパフォーマーたちの本音と疑問、怒りと笑いが爆発する

https://mazekoze-matsuri.com/

タイトルに「殺人事件」とある通り、物語の中心は「誰が東ちづるを殺したのか?」という犯人探しのサスペンスです。
まぜこぜ一座のメンバーの中からひとりひとりが容疑者として紹介され、同時にそれぞれの人物の背景や切実な思いが浮き彫りになっていきます。
コメディの、少し肩の力が抜けるような場面もありつつ、まぜこぜ一座のメンバーたちが自分自身として映画に出演し、自分自身の言葉で語る姿は、観る人の心に強く訴えかけるものがあります!

MASCとは

感動をみんなのものに

https://www.npo-masc.org/basic

NPO法人メディア・アクセス・サポートセンター(略称MASC)は、視覚や聴覚に障害のある方々でも、誰もが平等に映像を楽しめる社会の実現を目指し、その環境作りに取り組んでいます。
内閣総理大臣表彰も受賞しており、映画のアクセシビリティ向上に貢献しています。
主な4つの取り組みとして、プロのバリアフリーガイド制作者を育成する養成事業、「おこ助」をはじめとした開発事業普及促進事業として、映画のバリアフリー対応の情報を提供するサイト「映画みにいこ!」の運営、恒常的なバリアフリーガイドの利用を目指すアーカイブ事業を行っています。

MASCさんにインタビューします!

今回インタビューに答えてくださったのはこちらのお三方です。
川野浩二さん
MASC事務局長。好きな映画は「雑魚どもよ、大志を抱け!」
徳江さやかさん
本作の音声ガイドを制作。好きな映画は「善き人のためのソナタ」
竹内里佳さん
本作の日本語字幕を制作。好きな映画は「ギター弾きの恋」

制作の経緯

ーー今回MASCさんで「まぜこぜ一座殺人事件」のバリアフリーガイドを制作することになった経緯を教えてください。

徳江さん石川さん*と私が以前からご縁がありまして。HELLO! MOVIE対応もしていた「ラプソディ オブ colors」という映画の佐藤監督と知り合いで、石川さんをご紹介いただいたんです。
石川さんは障害について学ぶワークショップなどを定期的に開催していて、多岐に渡る活動をされています。その中でUDトークを手伝ったりと、ご縁がありました。
今回映画を作るにあたってすぐに相談を受けました。
障害者のネットワークでの知り合いってことになりますね。

*石川明代さん:一般社団法人Get in touch事務局で、本作のバリアフリー監修も務めている。バリアフリー社会人サークルcolors代表。障害平等研修フォーラム理事、認定ファシリテーター。

ーー映画の制作の初めの段階からバリアフリーガイドの制作が決まっていたのですか?

徳江さん:そうですね。作品の性質もあると思います。まぜこぜ一座の座としての性質もありますね。
出演者は聞こえない方も出演なさってるし、見えない方も出演なさってるし、当然みんなで一緒に何かをするという工夫をしていこうという意識が皆さんおありだったっていうのが、まず前提にあります。
とはいえ長編映画は初めてだったので、もう何ができるかってのを全くゼロの状態で考え始めてくださったときに、まず声をかけてくださったということがありがたいですよね。

「まぜこぜ一座殺人事件」で大事にしたこと(音声ガイド)

ーー本作のバリアフリーガイドを制作する上で大事にしたことはありますか?

徳江さん:まず「まぜこぜ一座」という一座が他にない、とてもユニークなものだと私は考えていたので、従来の形式にとらわれない何かをしたいということがありました。
東さんたちのチームの色を大事にできる作り方をしたいというのがまず第1にありましたから、ルールはこうですよとか、今までのしきたりはこうですよみたいなことはまずゼロにして、一緒に作るということを意識しながらやっていましたね。

ーー音声ガイドには細かいルールがあると思いますが、徳江さんがいつも守っていること・意識していることはありますか?

徳江さん:基本的なこととして、その場所に誰がいてそこがどこでいつなのかという3つですね。
私達が自然に見て把握してること、目から得ている情報、この3つは必ず伝えなきゃいけないっていうことと、あとは場面が変わりますよね。
音が同じなのに場面が切り替わったりとか、シーンだけ変わったりとかありますよね。その時にシーン変わりをきちんと伝える。
その人と空間、誰がいて、どこで、いつなのかということと、あとシーンが変わってくる。そこはまず基本として考えてます。
ただそれを全部ガイドとして説明するのか。わざわざガイドしなくても伝わってるのか。ということを1個ずつ確認します。「大事だから全部言おう」ではなくて、見えてない人は、私達がこうやって活動するまでは音声ガイドなしで今でも日常的にドラマとか映画とかを楽しむ暮らしをしてるわけですよね。
日常的に元々持ってる能力にプラスアルファになるような、それで正しいですよとか、今あなたがこうかなって不安に思ってることはその通りですよっていうような感じで一緒に鑑賞して楽しい、そういうガイドにしたいというのが、私の作り方だと思います。

ーー以前視覚障害のある方にお話を伺った際、本編だけで大体理解できるため、音声ガイドはいらないという方もいらっしゃいました。

徳江さん:そうですね。出会ったころはそうだし、そもそも私がやってた「シティライツ」というボランティアグループの団体も、そういう理由で知ってるけど行きたくないっていう人たちも結構たくさんいましたし、今メインで活動してらっしゃる方も、自分はもうわかってるって思ってたっていう人も多いですよね。
ただ、ガイドをつけて「ドラえもん」を見たらもっと面白かったと気がつくとか、ガイドがあったらもっと面白いことに気付けたっていうことに出会って初めて、ガイドのメリットを感じてもらうんであって、ガイドがあるからぜひ来てくださいってなんていうのは、当然見えない人は必要でしょみたいな、そういう働きかけ方はあんまり響かないんだろうなって思いますね。

音声合成導入の経緯

ーー本作やMASCさんが制作をされている最近の作品は音声ガイドに音声合成が使われていますよね。音声合成を導入することになった経緯を教えてください。

川野さん:長年のテーマとして「音声合成」があり、10年以上前からどんどん良くなってきています。音声ガイドも音声合成で作ったほうがメリットがたくさんあるんですよね。
スタジオでナレーターを呼んで収録する場合、ナレーターとクライアントのスケジュールを調整したり、ディレクションをしたりする必要があり、集中して1日スタジオに行かなくてはなりません。音声ガイドの脚本はデスクトップ上で制作できますが、収録は東京でないとできない場合も多いです。スタジオ作業はコストもかかるし、やっぱり大変です。
収録したものに修正が入ったりすると、またスタジオで収録し直す必要があるんですよね。こういう経験をしているからこそ、「音声合成でできたらどんなに良いだろう」と10年以上前からずっと考えていました。
ただ、以前は音声合成が優れていても、時間軸にフレーム単位で配置するのが大変で、結局収録のほうが早いという状況だったんです。でも昨年から、「VOICEPEAK」という時間情報が入る音声合成エンジンが出てきました。これを使うと、たとえば2時間の映画の音声ガイドも、1つのファイルで作って時間情報を選択したものを、頭で合わせるだけでぴったり合うようになるんです。これはすごく画期的なことで。この技術ができたおかげで、音声ガイド制作は収録から音声合成に切り替えました。
今では、収録作業はほぼなくなっていますし、クライアントからの評判も良いです。作業が楽になったうえに、修正もすぐできるし、音質も全く問題ありません。むしろ、機械音声なので本編に馴染まない感じが音声ガイドとして逆に良いんです。メリットだらけですね。もちろん、声優さんを使って色をつけるというようなガイドがあっても良くて、音声合成という選択肢が増えたことのメリットは大きいですね。

ーー人間が話すのと変わらないような抑揚を持っていたりすることが印象的でした。音声合成の調整はまだまだ大変なものでしょうか?

徳江さん:基本的に今回の作品以外の作品の音声ガイドは、調整は本当に楽です。「一音一音微調整が必要なのでは?」と想像されるかもしれませんが、実際は全体の8割くらいはほっといても大丈夫と言いますか…。単語登録とか基本的な設定さえしておけば、8割方くらい作業はないんです。
ただ、その残りの2割をきちんと見つけ出して直さなきゃいけないので、見落としがないかを気をつけることに、神経を使っているような気がします。

今回の「まぜこぜ一座殺人事件」に関しては、現状の音声合成でできるマックスのことしてみよう、というチャレンジでした。既存の音声ガイドとは違うようなことを行なっています。
音声ガイドのライターは檀鼓太郎さんに依頼しました。
檀さんは音声ガイドの世界では孤高の人で。自分のことを「バリアフリー活弁士」とおっしゃっています。もともと聾の方たちと一緒に仕事をすることが多く、今回出演している聾の役者さんとも元々お知り合いで、ご自身も舞台の役者さんであるということで、ぜひ彼に頼みたいと思って、お願いしたんですね。
檀さんには、「ここはラップで歌うように」とか「ここはちょっとおどろおどろしく」とか、今できるかなりの労力を使って調整しました。他の作品ではここまでの力は使わないですね。今回はスペシャルな作品ですよ?(笑)

バリアフリーガイドの健常者利用が増加中!

ーー最近は健常者の方のバリアフリーガイドの利用が増えてきていますが、どのようにお考えですか?

徳江さん:音声ガイドとして、もちろん字幕もそうなんですけど、利用者は増えてきていると思います。字幕の利用の方が多いかもしれません。ただ、音声ガイドを作る上で気をつけているのは、いくら見えている人たちが面白がってくれても、その人たちに向けて書いているわけじゃないということを絶対に忘れないようにしようと。
変な話ですが、見えている人たちにウケを狙ったほうが絶対普及するんですよ。SNSで評判になったり、ニュースの素材になるかもしれません。
でも、それをやってしまうと本当に本末転倒になってしまうんです。なので、いくら見えている人たちが利用してくれたとしても、そこに振り回されないようにしよう、というのは常に意識しているところではあります。

見えてる人が音声ガイドを使うと、SNSに「HELLO! MOVIEで音声ガイド使いました!」って投稿されるんですよ。でも、目が見えない人にとって音声ガイドは当たり前の存在だから、わざわざ「HELLO! MOVIEを使って映画を観に行きました」なんて投稿するのは、本当に初めてのときぐらいなんです。慣れてきたら、もうそんな投稿はしなくなりますよね。単純に「この作品楽しかった」って普通の感想として投稿する感じになるんです。
だから、SNSを見てるだけでは絶対見つからないんです。でも、たまたま知り合った視覚障害者の方が音声ガイド付きの映画をたくさん見ている、ということにはよく出会うようになったので、普及していると感じます。皆が使ってくれるのは嬉しいことなんですけど、やっぱり書き手としては、SNSの反応にとらわれずに一旦忘れてリセットして、書くようにしています。
そういうのを見ると、やっぱり嬉しいですけどね。「スラムダンク」*のときも、自分が書いたわけじゃないのに、あれだけ多くの人に使われているのを見ると嬉しいですよね。

ーー「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」*の時もそうでしたよね。

*「THE FIRST SLUMDUNK」
*「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」
音声ガイドでは情報保障の一環で、ひとめ見ただけではわかりづらいシーンでも詳細な説明を聞くことができたりする。「作品の解像度が高まる」として何度も劇場に足を運ぶファンも多く、SNSを中心に話題になった。

ーー日本語字幕も健常者の方に利用されているんですね。

徳江さん:ファンの人たちは、漢字表記の人の名前がどう書くのかとか、やっぱりそういうところに興味を持つんですよね。映画って基本的には活字で名前が出てこないので、そういうのを知りたがる人もいるだろうし。時代劇や特殊な世界観のある作品とかは、活字で表示されるとわかることもありますよね。そういうのに関心を持つのは、どちらかというと作品のマニアに近い人たちですね。2度目、3度目はぜひ字幕付きで、という見方をしている方もいらっしゃいますよね。

ーー私も「キングダム」シリーズなど人名や地名が難しい作品は日本語字幕付きで鑑賞しました!

漫画を参考に!?バリアフリー字幕の作り方

ーー竹内さんに伺います。洋画の字幕など、健常者の方向けの字幕とバリアフリー用の日本語字幕とで、作り方はどう違いますか?

竹内さん:まず、バリアフリー字幕には話者名が入ります。画面に映ってない人や、映っていても口元が隠れていたりした場合、字幕があっても誰が話しているのかわからないので、そういう場面には話者名が入りますね。
あとは、環境音やバックで流れている音楽の表記ですね。例えば電話が鳴っていたり、誰かが近づいてくる足音だったりとか、次のストーリーの展開やきっかけになるような重要な音は必ず字幕に入れるようにしています。
音楽が流れているシーンには音符マークをつけたり、作中で流れてる歌の歌詞も重要な要素だったり、何かメッセージになるものも多いので、歌詞も字幕で表示するようにしていますね。

ーー物語の進行に関わる音が字幕に入っているとのことですが、入れていたらキリがなさそうです。。どうやって見極めていますか?

竹内さん:私は見てわかるものは省くことが多いです。例えばグラスが落ちてきて、ガシャンと割れているものが見えていたら、そこにわざわざ「グラスが割れる音」とは入れませんし、あんまり入れるとしつこくなってしまうので、なるべくすっと画で見てわかるもの、イメージできるものには入れないようにしています。

ーーバリアフリー用の日本語字幕を作る上で、竹内さんが意識していること・大事にされてることはありますか?

竹内さん:そうですね。聞こえる人は、登場人物の声から伝わってくる声の調子だったりその人の雰囲気ってあるじゃないですか。そういった部分も字幕で表現できたらいいなと思っています。たとえば、私自身、漫画が好きで、漫画を読んでいると自然とキャラクターの声だったりがイメージできるじゃないですか。そういった感じの字幕が作れたらいいなと思いながら取り組んでいます。

ーー漫画を参考にされているんですね!具体的にはどういったテクニックが必要なんですか?

竹内さん語尾語彙の表記とか、漢字だったりカタカナだったり、ひらがなだったり。語尾に小さい「っ」をつけてみたり。「ワーッ」というような叫び声なんかも大きい文字と小さい文字を組み合わせてみたり。
そういうことでそのシーンの雰囲気とその人の喋っている調子とかを、本編を流してみてぴったりとくるようなところを見つけながら、楽しみながら作っていたりますね。
たとえば、今回の「まぜこぜ一座殺人事件」も、冒頭で上方落語の桂福点さんが登場して、扇子と拍子木でパンパンと小気味よく叩いてらっしゃるシーンがあるじゃないですか。あそこの音をどうしようかと思いました。「拍子木の音」とか書いちゃったらリズムが崩れちゃうし。。何か参考になるものを探しました。

ーーセリフだと書く内容自体は決まっているけど、効果音のようなものになってくると、表現の工夫がより難しくなるんですね。

「まぜこぜ一座殺人事件」のガイドを作る上で大変だったことは?

ーー「まぜこぜ一座殺人事件」は会話劇が中心になっていたと思うのですが、音声ガイドは隙間がないし、字幕は大量になりそうです。
本作のガイドを作る上で大変だったことはありますか?

竹内さん:今回の作品は字幕付きが通常上映ということだったので、健常者の方の目にも字幕が当然入ってくるじゃないですか。字幕ってよく「邪魔」とか「字幕が入ると絵が汚れる」とか、そういった声を多く聞くんですけれども、この作品は健常者の方にも字幕を見ていただける機会なので、「字幕があってもそんなに気にならないね」とか、「むしろ字幕があった方がわかりやすいかも」って思ってもらえるように、あまりごちゃごちゃさせず、読みやすくすんなりと入ってくるような字幕を心がけて作りました。

徳江さん:今回は「焼き付け字幕」があるにもかかわらず、字幕メガネも提供されていることで、少し混乱している方もいらっしゃるのではないでしょうか。私も「焼き付け字幕があるならHELLO! MOVIEの字幕は不要では?」という浅い考えだったんですけど、石川さんは「メガネの方が字幕が見やすい人も少なからずいるのであれば、どっちもやればいいじゃない」とのことで。そういう意味でも、他に類を見ない作品になっていると思います。独自性のある作品です。
これは非常に重要なテーマですよね。「焼き付け字幕を上映してほしい」という当事者の運動がずっとあった一方で、メガネでの字幕が良い方も少なからずいて、どちらも大事です。「まぜこぜ一座殺人事件」は、焼き付け字幕の劣化版が字幕メガネではなく、それぞれに価値があるということを証明できる作品にもなるんじゃないかなと思いますね。

ーー音声ガイドはいかがでしょうか?

徳江さん:今回は檀さんにお願いしたので、苦労したのは檀さんなんですよね(笑)
もともと檀さんはお芝居やライブガイドの分野で活躍されている方なので、この手のものは得意なんですよ。ただ、檀さんに指示を出す上で私が大変だったことがありまして。彼はライブガイドの方なので、普段彼は制作会社の意図とか、そういうのとは関係なく、彼の知り得たうんちくをふんだんに詰め込んでガイドを作るんです。役者さんの風貌だったり、「〇〇で有名な××さん」だったりだとか。そういうことから彼のライブガイドにファンたちがついているわけですね。
でも、今回はそういうわけにはいかないんですよね。
檀さんのライブガイドでは、たとえば「だいたい何十センチくらいかな?」という風に、その場で一緒に参加している方たちと「どうだろうね?」みたいな掛け合いがあったりします。でも今回は「だいたい」ということがあり得ないんですね。制作者と一緒に作っているわけだから。
なので彼のいつものスタイルを少し抑えて、作り込みならではの日本中誰もが均等に楽しめる、アプリならではの整ったガイドを作りました。独自性もあるんだけど、普遍性もあるような、両方を意識して作りました。
日頃から作り込みしか書いてない人にとっては何の苦でもなかったはずなんです。ただやっぱりライブっていう元々の文化を持っている、作り込みよりも前からやっていた人にとっては、「制作者と一緒に作る音声ガイド」というのを、今回特に改めて意識しながら作りました。

バリアフリーガイドが作りやすい映画もある・・・?

ーーそれでいうと、バリアフリーガイドが作りやすい映画もあったりしますか?

徳江さん:人による、ですかね。(笑)
やっぱり「好きこそものの上手なれ」ってあると思うんです。時代劇が好き!とかもそうですね。
でも、伝わるか伝わらないかという意味で言えば、やっぱり現実の世界に近いものの方が伝わりやすいですよね。アニメの世界やファンタジーものもそうですが、異世界だったり、日常の物理法則が通用しないような世界だと、どんなに言葉を尽くしても、“画でしか伝わらないもの”ってあると思うんですよね。
しかも映画の尺の中で伝えないといけない。そういう意味ではやはり、現実世界に近いものとか、時間軸が複雑じゃない作品の方が、もちろん作りやすいということはあると思います。
でも、音声ガイドをつけるべき、つけなければ伝わらない、という意味では、異世界ものやファンタジーものこそガイドをつけなきゃいけないんじゃないかなと思いますね。

ーー素人の想像に過ぎないのですが、アニメは全ての音が作られた音なので、字幕は作りやすいのでは?と思いました。いかがでしょうか?

竹内さん:アニメの字幕は作りやすいと思います。セリフもちゃんと聞こえるし台本通りなので。。

徳江さん:私、アニメーションのガイドは書いたことがないかも。関わったことはあっても書いたことはないですね。

ーー視覚障害のある方は、アニメは回想シーンが多くてわかりにくいことがあると伺ったことがあります。

徳江さん:そうですね。実写作品でも回想が入ってきたときは毎回悩みますよね。どうしようと思います。「回想」って言おうかな、いやダサいな。。とか(笑)モニターさんからはまずダサいって言われますね(笑)
そうじゃなく、わかりやすさを取るのか、もっと工夫のしようがあるんじゃないかとか。見えている人は写ってるものの新しさ、古さみたいなものでは判断してるじゃないですか。そういう誘導をガイドでもできないかとかって、毎回悩みますね。
あと、人の名前をどこで紹介するかも悩みます。これは字幕ももっとこだわってもいいと思うんだけど、やってるときりがないと思うから何とも言えないですね。視覚障害者の人たちで、映画に慣れてる人たちは「本編で紹介される前に名前がばれるのはつまらない」って考える人も結構いるんですよね。でもそれを字幕でやれって言われたら本当に苦労しますよね。

竹内さん:全編を通して名前を呼ばれない人とかいますもんね。

音声ガイドのモニター会とは?

ーー先ほどモニターの方に「ダサい」と言われると伺いましたが、モニター会ではどんなことを注意していますか?

徳江さん:まず、ちゃんと伝えたいことがきちんと伝わっているか確認するのが大事です。モニター会に参加してくださる方々は、ガイドがなくても大体伝わっているんですよ。でも、私がお願いしているモニターさんたちは、自分がわかるかわからないかで判断するのではなくて、ほかの視覚障害者の方々のニーズにも気を配れる方にお願いしています。
例えば、目が見えていれば皆が音声ガイドをかけるかっていったら、違いますよね。それと同じで、見えない人が皆モニターをできるかっていったら、そうでもないと思っていて。なので、モニターにはプロ意識のある方にお願いしているんです。
たとえば小ネタみたいなものが入っていても、「これはガイドがなくても伝わっているので余計だよ」という風にちゃんと指摘してくれます。
一方で気をつけなくてはならないことは、ガイドをしていないことは伝わらないので、判断のしようがないということです。主人公はここで赤いカバンを持っているんだけど、そこまでは説明できないので外しています、というようなことをモニター会のときに確認しますね。そこでやっぱり必要だねってなって話になると、どこかに無理やりねじ込んだりします。
音声ガイドのモニター会では、そうしたことを一番気をつけなければならないと思っています。初めてその映画を見る人が、ストレスなく、楽しかったと感じてもらえたら一番うれしいですね。

ーー台本にはト書きがあると思うのですが、ト書きをベースにしつつ、音声ガイドに起こしていくのでしょうか?それとも、ト書きとは全然違うものですか?

徳江さん:おそらく、9割がたの音声ガイドを書く人たちは、台本は見ないで書いているんじゃないかと思います。ト書きは見ないんじゃないかな。自分で書いてから、大丈夫だよな、と確認しながら進めていくと思います。
完成台本が渡されていても、実際に写っているものと違うことも多いですし。とにかく映像をしっかり見て、自分の中に取り込んでいると思います。字幕も同じように、自動的に流し込むのではなく、まず書き起こしをしているんじゃないかと思うんですが、どうでしょう、竹内さん?

竹内さん:そうですね。まず書き起こしています。

MASCの今後の取り組み

ーーMASCとしての今後の目標を教えていただきたいです。

川野さん:私たちは現在、4つの事業を中心に活動しています。
その中で養成事業、つまりプロの音声ガイド制作者の育成があります。我々が活動を始めた当時は、音声ガイドのプロの制作者がほとんどおらず、ボランティアの力に頼る状況でした。バリアフリー字幕も同じで、専門で作っている人はいませんでした。そこで、私たちは設立以来十数年にわたって養成事業を進めてきたのですが、今ではプロが増え、社会的にも広がってきたので、一段落しています。

次に開発事業として、「おこ助」*の開発やHELLO! MOVIEさん、Evixarさんの技術協力でのアプリ制作なども行い、こちらもひとまず落ち着いています。普及促進に関してもチラシを作ったり、「映画みにいこ!」*の運営で利用を促したりしています。

*おこ助:MASCが開発した、バリアフリー字幕や音声ガイド制作を手助けするソフトウェア。

*映画みにいこ!:MASCが運営するバリアフリー映画情報サイト。
HELLO! MOVIEの最新対応作品もこちらからご確認いただけます!

現在メインとなっているのがアーカイブ事業です。これは、例えばある映画の中で重要な要素を持つ歌の歌詞字幕が、劇場で、HELLO! MOVIEでは楽しめていたのに、配信バージョンでは全く入っていなかったという問題がありました。音声ガイドは劇場公開ではモニター監修を受けていたにもかかわらず、配信時には全く異なる内容に変わってしまったりすることもあるんです。アーカイブが適切に行われていないケースがあります。劇場用に最初に作ったものが使われないんです。
これはもうずっと昔から起こっていて、今でも起こっています。
そこで、最近ようやくテレビ局や配信業者を含めた業界全体で正式な話し合いが始まりました。MASCの最大の設立動機の一つでもあるので、今はこれを中心に取り組んでいます。アーカイブが整備され、利用できるようにすることで、バリアフリーで楽しめる映像作品を増やしていきたいです。

インタビューにお答えくださった川野さん、徳江さん、竹内さん、ありがとうございました!

インタビューを終えて

今回MASCさんに「まぜこぜ一座殺人事件」に絡めつつバリアフリーガイド全体のことまで濃密なインタビューをさせていただきました。
筆者が一番驚いたところは、音声合成は実は8割型調整がいらないということです。まだ音声合成を使用した音声ガイドを聞いたことがない方は、是非ご体験ください!
音声ガイドは合成音声の限界にチャレンジしており、全ての上映が焼き付け字幕、更にはメガネで見ていただくことも可能となっております!
ここまでバリアフリーガイドが練りに練られて充実している作品はなかなかないかもしれません。
徳江さん曰く「スペシャルな作品」になっているとのことでしたので、既に観た方も、制作のポイントを気にしつつもう一度ご覧になってみてはいかがでしょうか!

映画「まぜこぜ一座殺人事件〜まつりのあとのあとのまつり〜」は、ユナイテッド・シネマ、シネプレックス、ローソン・ユナイテッドシネマなど、他劇場にて順次公開。
本作の企画・構成・キャスティング、プロデュースを行なったGet in touch代表の東ちづるさんや、監督の齊藤雄基さん、出演者などが登壇するアフタートークを開催する日もあり、ホームページをチェックしてみてください!

直近のHELLO! MOVIE対応作品

最後に、HELLO! MOVIEの直近の対応作品をご紹介いたします!
通常の邦画作品のバリアフリー対応はもちろん、「ヴェノム:ザ・ラストダンス(日本語吹き替え版)」といった洋画作品や、コメンタリーにも対応しています!
是非劇場へ足を運んでみてください♪

  • 9/20〜

    • 【バリアフリー版】劇場版 オーバーロード 聖王国編

    • 【バリアフリー版】あの人が消えた

  • 9/27〜

    • Cloud クラウド

  • 10/4〜

    • わんだふるぷりきゅあ!ざ・むーびー!

    • 【コメンタリー版】劇場版 オーバーロード 聖王国編

  • 10/8〜

    • 映画 ギヴン 海へ

  • 10/11〜

    • 【コメンタリー版】あの人が消えた

    • 【コメンタリー版】ルックバック

  • 10/18〜

    • まぜこぜ一座殺人事件〜まつりのあとのあとのまつり〜

    • ふれる。

    • 恋するピアニスト フジコ・ヘミング

  • 10/25〜

    • 室井慎次 敗れざる者

    • 八犬伝

    • がんばっていきまっしょい

    • The Brake 世界一、負けず嫌いのテニスプレイヤー、上地結衣。

    • 【バリアフリー版】ゼンブ・オブ・トーキョー

  • 11/1〜

    • スマホを落としただけなのに 〜最終章〜 ファイナル ハッキング ゲーム

    • 十一人の賊軍

    • 【特別版第2弾】機動戦士ガンダムSEED FREEDOM

  • 11/8〜

    • 劇場版ACMA:GAME 最後の鍵

    • 【コメンタリー版】ゼンブ・オブ・トーキョー

    • 風都探偵 仮面ライダースカルの肖像

  • 11/15〜

    • ヴェノム:ザ・ラストダンス(日本語吹き替え版)

  • 11/22〜

    • 六人の嘘つきな大学生

    • 矢野くんの普通の日々

  • 11/29〜

    • 室井慎次 生き続ける者

HELLO! MOVIEアプリは以下のリンクから無料でダウンロードしていただけます!
最新の対応作品はHELLO! MOVIE公式X、アプリの詳しい使い方はこちらをチェック♪

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