チーズとネズミが
男はふたつの目玉を出したり戻したりして遊んでいるうちに、うっかり黒目を眼窩のほうへ向けて、反対向きに戻してしまう。何も見えなくなって慌てた男は足を滑らせて窓から飛び出す。マンションの7階から逆さまに落ちていく。
701号室に穏やかな春の日差しが開きっぱなしの窓から差し込む。住民がいなくなって取り残された家具を、春の光が優しく包む。日差しに照らされた木製の学習机は、表面を艶やかに輝かす。
外は色鮮やかな青空が広がり、下の地面にはマリオネットの様に体を奇妙にねじった男が倒れている。男は誰にも見つからないうちに太陽の光に溶かされてチーズになってしまう。汚れたネズミたちがやってきて、とろけたチーズの上に乗り、空を向いて誇らしげに鳴き叫ぶ。
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