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奥ゆきのある人

祖父の家の洗面室はかび臭いにおいがする。ステンレス製の洗面台の上には、固形石鹸、チューブに入った洗顔剤と歯みがき粉、六本の歯ブラシが並ぶブラシ立て、それに蓋付きの背の低いガラス瓶が置かれている。瓶の中身は塩だ。祖父は入れ歯を外すと、歯みがき粉ではなく瓶を手にし、塗らした歯ブラシに塩を山盛りのせる。それで磨く。入れ歯にブラシの毛を強く押し当てて。磨いている間、祖父の口は何かを噛んでいるかのように、常にもがもが動きっぱなしになる。時々、開いた唇の透き間から、空っぽで赤い内側がのぞく。広く、大きい。祖父に奥行きができる。私は自分の手を背中へ持っていく。万が一に備え、取り込まれてしまわないように、隠す。

入れ歯の歯茎まで洗い終えると、祖父は入れ歯を洗面台の上に置く。それから、高校生の従兄のものであろうニキビ顔用の洗顔剤を、手のひらの上へ絞りだす。

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