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銀座のホテルバー【私の仕事】ウガンダ?ルワンダ?でゴリラツアー?

昨日は暇で、店にあるカクテルブックのなかから【ブランデーベース】のものをひたすら眺め、飲んでみたいカクテルをメモしていた。

「キャロル」スイートベルモットを加え、ステアしたもの。辛口。

「クラシック」レモンジュース、オレンジキュラソー、マラスキーノ(さくらんぼのリキュール)で、シェイクタイプ。辛口。

「スティンガー」ペパーミントホワイトリキュール。シェイクタイプ。辛口。

「フレンチコネクション」アマレット。

どれも気になるカクテル、ああ早くバーに行って飲んでみたい…。



21時過ぎに、坊主の男性がひとりでいらっしゃる。

検温の際、きれいなつるつる頭ではなく手首をさしだしていた。

「なんや、ええところやなあ」とコテコテの関西弁で喋る。

ソルティドッグを飲み、さっさと帰っていかれた。


テーブル席に若い男女が。

女の子はソルティドッグを頼み、「レモンください」とレモンを追加していた。

ほほう、そういう飲み方もあるのかあ。


22時すぎに、ひとりの男性がカウンターへ。

ものすごく物腰柔らかで、黙っていても柔和な顔つきをしている。

なんだろうこの優しげな雰囲気。

手首を検温すると34,2度だったので、おでこでも計ってみると34,4度とたいして変わらないのを。「生きてるかなあ」と笑いながら座った。

メニューを見ず、ジントニックを頼む。そしてナッツ。

ひとつひとつの仕草がゆっくり柔らかで丁寧だ。

スマホをほとんど見ることもなく、外の景色を眺めている。

目が合ったので、(暇だったし、なんかいい人そうだったし)話しかけてみると、にこにこと言葉を出していった。

喋りすぎず、喋らなすぎず。

とても心地のいい人だとわかった。暇なのをいいことに、私は彼と話してみることにした。


東京には出張にきていて、いまは地方に住んでいるけれど、元は東京育ちだったみたいだ。

銀座の街並みなどについて簡単に触れ、地方住みということから、国内のハナシをする。

全国ほとんど行ったという彼にたちまち私は色めきだち(私は旅行経験が多い人にとてつもなく惹かれるのだ)、

「国内だったらどこが一番お好きですか」

と聞くと、「石垣島かなあ」と言って、お仲間とダイビングしたときの映像を見せていただいた。

海外もいくつか行かれてたみたいで、ニューヨークのLGBTパレードや、ブリッジのきれいな眺め、フィンランドの建物など、素敵な写真を拝見する。

「スペイン行ってみたいなあ」と言うので、私が少しばかりフラメンコを習っていたことなども喋り、「2026年にサグラダファミリアが完成する予定だったんだけど、延期になったみたいだよ」と教えてくれたりもした。


いま一番行きたい海外はどちらですか、と聞くと、

「ウガンダ、ああいや、ルワンダ?かな」

と素っ頓狂な国を挙げられる。

「ゴリラツアーがあるんだよ」

と言うので、なんですかそれ!と食い気味に聞く。

そもそもウガンダってどこだ?ルワンダ?そしてゴリラとは?

「ああこれこれ」

と言って、世界地図を見せてくれると、ウガンダとルワンダは隣接国だった。近くにスーダンなどの国があるエリアだ。

「これがほら、ゴリラツアー。

こんな目と鼻の先の距離で、野生のゴリラが見れるんだよ。

会えないかもしれないけど、お金を払うんだ。

外人のお金持ちに人気で、ツアーは2年待ちとかでさ」

とのことだ。

ちなみにウガンダでもルワンダでも、ゴリラツアーはあるらしい。


「あとは、カナダで犬ゾリも面白そうなんだよね」

「ワインを飲みながらフルマラソンを走るメドックマラソンっていうのもフランスであってね」


と、彼の知っている各地の名物に、私は興奮した。

その数々の世界のお祭りにというより、私は「そういうことを知っている」「そういうことに興味がある」「そういうことがおもしろそうだ」と思っている人に、すごく魅力を感じるので、かなり前のめりになって話を聞いていたと思う。


経験がたくさんある人ほど、威張らないし、見栄も張らないし、謙虚で、自慢もしない。素直だ。

いろんなところへ行っているのに、「いやいやもっといろんなところに行っている人はたくさんいるよ」と謙遜する、その姿勢も、本当にそう思っているみたいで、好感がもてる。

なにも謙遜しまくれと言っているわけじゃない、ただ本当にいろんな世界をみた人って、いろんな世界を見てきたからこそ、「自分はそんなにすごい人間じゃない」と思うのではないだろうか、それが態度にでるのではないだろうか。


私もよく「すごいね、いろんなところに行ってるね」と言われるけれど、こういう、もっといろんなところに行っている人と出会うことで、「いやいや全然っすよ!!微々たるもんですよ!!自称旅すきと言ってますけどまだまだなんですよ!!!」と全力で「すごい」を否定する。本心だからだ。


ひさしぶりに、気持ちのいい人にめぐり合えたなあ、と嬉しくなって、その後の営業がとても早く感じられた。

「また来ます」と言って、彼は笑うとたくさんできる目尻のシワがさらに優しさをアップグレードさせる親しみやすい表情で、にこにこと帰っていった。



夜中、閉店1時間前をまわった頃、ひとりの男性がとびこんでくる。

響のロックをちびりちびりと飲み、チョコレートの盛り合わせを淡々と召し上がられた。

きれいな写真を撮るのがちらりと見える。

整った鼻筋に顔立ち、目があうとニコッとされる。プレイボーイ風の彼は、ウイスキーの美味しさについて語り、「山崎より響のほうがまろやかで、最近は響がすきなんだ」と言っていた。

山崎はシングルモルトで、響はブレンドだから、響のほうがまろやからしい。


「また今度、野郎たちと来るからそしたら飲ませてあげよう」

と言い、にっこにっこしながら帰っていった。

嬉しい!楽しい!だいすき!