忘れられない女がいる
タイトルがハードボイルドすぎた。
タイトル通り、忘れられない女の話をする。
誰しもが人生で忘れられない女の一人や二人はいるとは思う。
私も何人も忘れられない強烈な女たちがいて、時々思い出しては「あ〜そんな人いたなぁ〜」「○○と言えばあの子を思い出す」といった色濃い思い出の人となっている。
その中の一人の女の話をする。
仮にKとする。
Kという女には虚言癖があった。
私の中で虚言癖って女の子には結構比較的多かったと思う。
様々な虚言癖の子を見てきたが、その中でも個人的に「おもしれー女……」と思った女がKである。
Kとは高校時代に出会った。
時期はちょうど今の頃。高校を入学した一年生の頃だ。
第一印象は大人しい、清楚な子、上品そう、といった子だった。
エッセイを見てわかる通り、私は上品とは程遠い下品な部類の人間なので一見、Kとは接点が無いように思えるだろう。
だが、高校で同じクラスになり、話す機会があり仲良くなったのだ。
高校生になるとバイトをしたくなった私は、よく周りへ「何かバイトしてる〜?」と聞いてバイト経験のある人の話を聞いていた。
その中でまだ当時さほど仲良くなる前のKが「私バイトしてるよ」と言ってきた。
身近にいたバイト経験者を見つけた私は思わずKに「どんなでバイトしてるの?」と聞いた。
Kは「フランスレストランで働いてるの」と答えた。
上品なKにイメージが合った。
フランスレストランで働くKはすぐに想像できた。
きらびらかな店内で、白いテーブルクロスが敷かれ、メニューは横文字。
本日のシェフは○○です。
あ、ミネラルウォーターは800円になります……。
みたいな、上品なレストランだろうか。
また、ある程度ドレスコードもありそうとも思った。
当時、そんな安易な考えが頭によぎり、フランスレストランで働いてるKが凄い、と思った。
フランスレストランできちっとした制服を着てキビキビと働く姿を想像できたし、そんなKに「凄いねー!」などと言っていた。
周りも「そうなんだ凄いね!」「イメージぴったり」など言ったりしていた。
そしてKも「そんなことないよー」などと謙遜して微笑んでいた。
私はKのことを上品で、フランスレストランで働いている子というイメージが最初についた。
Kの発言に何も疑いはなかったし、そうなんだろうと思っていた。
だが、しばらくしてからKはバイトを辞めたと聞いた。
Kがフランスレストランのバイトを辞めてしばらくたった頃。
私とKが外で一緒に歩いていた時に、ある軽トラックが通りかかった。
K「あー!あの車!」
Kが指を指した。通りかかった軽トラックを見つけてKが
「あのトラック!前働いていた所のだ!」
少し怒りを見せていたKが指さした軽トラックを見た。
『創作和風フレンチ
おかめひょっとこ(仮)』
独特なフォントで飾られながら、イメージキャラクターと並んで確かこんな感じでトラックの荷台に書いてあった気がする。
一応料理店の店名は仮名だが、大体こんな感じだった。
Kの話すフランスレストランのイメージが横文字でイメージしていただけにあまりにもKが言うフランスレストラン………というのはどうなのだろうか。
Kが放ったフランスレストランの一言とあの通りかかったトラックだとニュアンスも違ってくる。
まぁ、勝手に色々想像していたのはこっちだが、あの軽トラックを見たら、サイゼリヤのことをイタリアンレストランと言うようなものなのでは?と思った。
物は言いようである。
通りかかったレストランのトラックを見つけてから、それが引き金となり、Kがレストランを辞めた理由と愚痴を口早に言っていた。
相当不満があったのだろう。
あの、「フランスレストランで働いてるの」と微笑ましくいた姿はなかった。
私は「大変だったね」と話を聞くことしかなかったが、私はこの時になんだか違和感を生じていた。
私がこの時に生じた違和感は後に間違っていなかったことになる。
一緒に過ごしてきてわかったのだが、Kは見栄っぱりだった。
そして見栄のために嘘や、物は言いような感じにして人に伝え、人から「凄い」と称賛されるのが好きなのだな、と言う人間だということもわかった。
だが、虚を言うものの、Kの吐く嘘は詰めが甘いところがあった。
自分の見栄のための嘘もあれば、八方美人すぎて人を困らせたり、時には傷つけたりと、Kの虚言癖に振り回されることが多々あった。
東京に親戚がいるから、今度東京に一緒に旅行に行こうよ!→後に知ったが親戚の人は埼玉県の人だった。
だとか。
本当に物は言いようだな〜〜〜〜〜なことや嘘が多かったのだが、後にバレる、そして言った本人は覚えていないのである。
嘘は言うが、Kはびっくりするほど言ったことを忘れている。
また、学校の掲示板を見ていた時に、卒業生が新聞に載るようなことがあり、「本校の卒業生が紹介されました」と掲示されているのを見ていた。
Kと一緒に掲示板を眺めていた時にもKは「この人私のお姉ちゃんの友達なんだ」と言っていた。
Kのお姉さんは同じ高校の卒業生で、なおかつお姉さんと同級生の人が新聞に載っていたのだ。
本当なのかな?と思い私はKのお姉さんと当時仲が良かったのでさりげなく「新聞に載っていた人とお友達だったりする?」と聞いたのだが、「いや~友達ではないよ~」というアンサーをもらった。
この有名になった途端、知り合いだと言ってのけるのはあるあるだが、有名人になると知らない親戚や友人が増える現象はこんなKのような人物がいるからなのだろう。
もうKの話すことが全部嘘に聞こえてしまい、Kの話は半信半疑に聞いてしまう。
オオカミ少年どころか、オオカミ少女である。
でも、これは本当なのだろうなといったエピソードは、四月になり新学期特有の健康診断の時期にKが
「私、尿検査に5回も引っかかったことがあって!」
と尿検査に引っかかったことを意気揚々に話していたことだ。
流石に尿検査で5回も引っかかると心配になる。
色々Kの虚言には振り回されたが、学校を卒業してからびっくりした話が一つあった。
卒業してそろそろ二年経つ頃。
Kから連絡があり、「ご飯を食べに行こう」と連絡があり高校時代の何人かのメンバーで食事に行ったのである。
Kと食事をしている時に、高校時代の話になった。
Kが「あの〇〇だった子の名前なんだったっけ?」と言ってきた。
心当たりあったので、「Aちゃん?」と言うとKは「そうそう!その子さ~」と話しが進んだ。
Aという名の子はしっかりと絡みがあったので、卒業して二年でもう名前を忘れるのか?とびっくりした。
そしてまたKから「あの名前なんだったっけ……〇〇な……」と聞き、まさか……と思って「え、もしかしてBのこと?」とKは「そー!そー!B!」とハッと思い出していたのだが、これが相当にめちゃくちゃびっくりした。
Bという子は同じグループで高校三年間ずっと一緒に居た子だったからだ。
忍たま乱太郎の三人に例えると、Kが乱太郎として、Bがしんべヱといっても過言ではなかった。
ちなみに高校時代は周りの子達をいつもあだ名で呼んでいた。
例:あやだったら、あーちゃんとか。
あだ名で呼びすぎて本来の本名、苗字を忘れる、ということがあっても、まんま名前を忘れるとは思わなかったのである。
乱太郎が「しんべヱの苗字なんだったっけ?」と聞いてきたら、「福富(ふくとみ)しんべヱだよ~」と聞くのはなんとなくわかる。
しかし、しんべヱの名前そのものを忘れる、のは異常だと思った。
乱太郎、あまりにも落第忍者すぎるだろ。
Kが卒業してから学校の脳内メモリーデータを消去したのかわらないが、あの時はKのことおもしれーのとやべーのが同居している女だと実感させられた。
そんなKなのだが、ある日連絡が取れなくなり、疎遠になった。
それから会うこともない。
私は学生時代本名とは全く異なるあだ名で呼ばれていたので、Kの中ですっかり私の名前は忘れ去られていることだろう。
時々田舎にある創作系のレストラン(怪しめ)を見てはKという彼女のことを思い出す。