遠い日に後悔しない為
チーズケーキが有名な近所のcafe
期間限定商品とホットコーヒーを注文する。初めて入店する店で看板メニューよりも自身の嗜好を優先して選んだマロンチーズケーキは、甘さよりも濃さが際立って感じられた。
コーヒーも美味しい。
愛好家や専門家筋じみた気の利いた感想は持ち合わせてはいないが、風味と苦味が心地良かった。
ステンレス製のトレーや食器は温かさを醸し出し、テーブルの上はどこか異国のような空気が漂った。
夕暮れ時の店内は週末だというのに閉店間際なこともあってか混み合うでもなく一組また一組、と増えては入れ替わり、入口ではテイクアウトを注文した老夫婦が所在なさそうに商品を待っていた。
ケーキを食べ終わる頃、後ろのテーブルからキーボードを打ち込む音が聴こえてハッと我に返り、わざわざ持ち込んだ会社のラップトップをカバンから徐に取り出し、作りかけの資料の作成に取り掛かった。
あっという間に外は暗くなり
気付くと閉店間際の店内で他の客は二組しか居なかった。完成した資料を保存して電源を落とし、ラップトップをカバンに仕舞う。
カップに残った僅かなコーヒーを口に運ぶ。すっかり冷めてしまったホットコーヒーはなお美味しい。
そろそろお店を出ようかと席を立とうとしたところ、店主であろう初老の老人がこちらの様子を見て「そのまま置いていて下さい」と
食器を片付けようとするこちらを笑顔で制止した。
外に出ると夏の終わりが風となって、ほんの少しの寒さとともに身体を突き抜ける。
こんな日は何でもない一日じゃない。
訳も分からず急にフラッシュバックしてくる
遠い日に思い返すであろう一日だ。
今日一緒に居てくれた君が、明日も明後日もとなりに居てくれますように。そんなことを想いながら二人で車に乗り込んだ。
9月吉日 晴れのち曇り