【旅行記】微魔女の微ミョーな旅・12
1.ヨルダン、イランー2016年 (2)イラン
50歳にして初めて知ったこと
シーラーズはリリーの地元だけあり、本人もリラックスしている感じで、旅程のバザール、庭園、城砦、廟 以外にも、リリーのお薦めの店に連れて行ってもらった。よくよく観察していると、リリーも含めて若い世代はそれなりにお洒落を楽しんでいる。もちろん流行もあるそうで、トップスはお尻が隠れる丈、ヒジャブはマストアイテムながらも、色や素材で他人と差をつけ、コーディネートをしているのがわかる。
そして、いよいよ今回のツアーの目的であるペルセポリスへ。古代ペルシアが誇る壮大な都。期待していたわりには感動が薄かったのは、遺跡のあちらこちらが修復工事のためにテントやガラスで囲われたり、妙にきれいに仕上がっていたりしたためだと思う。
シーラーズからエスファハーンは5時間を超えるロングドライブで、グレッグとジャイメは爆睡していて、私とルークは妙にハイテンションで歌いまくっていた。
やがて、エスファハーン市街に入ってから道に迷いった挙げ句、ホテルに向かう途中でバンが動かなくなるというアクシデントが起きた。昼間、エンジンの掛かりが悪かったのでなんとなく嫌な予感がしていた。時間は午後8時を過ぎていて、ロングドライブで疲れてへとへとな上に夕飯も食べていない。ただ、幸いだったのは既に市街だったことで、タクシー3台に分かれてそれぞれのホテルに向かうことができた。私はグレッグとリリーと同じホテルだったが、翌日聞くと、皆そのまま部屋で寝てしまったらしい。
エスファハーンはトータルで素晴らしい。
かつて“世界の半分”と言われたエマーム・モスク、黄色のドームが異彩を放つシェイフ・ロトゥフォッラー、音楽堂で有名なアーリーガープー宮殿が回廊でつなぐように配されている。ホテルは徒歩5分圏内だったので、近所の商店街を散策しながら、夕日に染まるモスクを眺めに出掛け、そのまま回廊内部の各種工芸品店やお土産屋で買い物を楽しんだ。夜、大通りに限れば、女性一人で歩いていてもまったく問題がないのは驚きだった。
「ケイトウ、キミの部屋はどうだい?」
同じホテルに泊まるグレッグの朝の挨拶だ。私の名前はいつの間にかケイトウになっていて、恐らくリリーの持っている名簿を覗き見して私の名前がわかったものの、苗字と名前を混同しているのだろう。せっかく覚えてくれたし、名前の方は外人には覚えにくいことは承知なので、そのままにしておいた。
「熱々で湯量が多くて最高だよな」
グレッグのホテルの評価基準はシャワーだということが容易にわかった。そういう意味では、どの都市のホテルも申し分なかったが、エスファハーンは高窓があるだけの小さな部屋で、息苦しさを感じる。
「俺の部屋も同じだな。中級ホテルにはあるまじきだよな。トリップアドバイザーに投稿してやるぞ」
ルークが泊るホテルはランクが落ちるものの、高速WiFiに朝食付きなので満足のようだった。貿易商をリタイヤして悠々自適のジャイメはほとんど英語を話さず、しかもホテルも買い物の桁も違うので、なんとなく浮いていた。最新のアイパッドを掲げて写真を撮り、お店ではリリーに値切りの交渉をさせ、突然疲れてホテルに帰ってしまうようなこともあったが、誰もとくに正面切って不平をいうようなこともなくやり過ごしていた。朝などは交通渋滞の上にジャイメがかなりのマイペースなため、彼のホテルで足止めということもままあり、バンの中で待つグレッグとルークの貧乏ゆすりがひどくなっていくこともあった。
エスファハーンではひとつ勉強になったこともある。
市内にあるジョルファー地区は、アルメニア人が多く住む地域で、17世紀に建てられたヴァーンク教会は、ペルシアのイスラム教とアルメニア移民のキリスト教が融合した大聖堂が美しい。併設のアルメニア博物館の一角に、アルメニア大虐殺の展示コーナーがあり、20世紀初頭にオスマン帝国内に住む150万ものアルメニア人が強制移住、虐殺されたという。
「こんなことがあったなんて……」
世界史の教科書にはまったく記述がなかった事実。50歳にして初めて知った史実。自分の知っていることなど世の中のほんの一部だけで、結局すべてを知ることができないまま死んでしまうしかないのだろう。そう思うと、自分の存在がものすごく小さく、そして人生がものすごく短く感じられる。ただせめて、こうして旅に出ることで知らなかったことをひとつでも知ることができれば、大冒険はなくても有意義な旅なのだと思う。
最終日前日は、赤土壁の小さな村アブヤネを通り、途中の川原でBBQピクニックをして、北上してカシャーンを目指した。一体いつの間に買い揃えていたのか、レジ袋二つ分ほどの肉、トマト、玉ネギを小さなコンロで串焼きにしていく。
「どうよ、イラン式BBQは?」
オーストラリア人はBBQを男の仕事として認識していて、男性は妙なプライドと使命感を持っているので、女性であるリリーが仕切るBBQについてグレッグに聞いてみた。
「オージーのバービーとは違うよな。ま、いいんじゃないの」
巨大なナンの上に肉を乗せ、つぶした焼きトマトがソース代わりになる。今日は三連休の初日なので、近くにはほかのグループの姿もあり、ギターやラジオの歌声が届いてくる。これまでの高級ㇾストランでのランチも良かったが、こうして見知らぬ国の青空の下、一週間前に知り合ったばかりの仲間と最後のピクニックランチをするのも良い思い出になる。全日程、ピクニックを除いてはすべてランチは高級レストランで、毎回食べきれないほどの食事が出てきた。グレッグによれば、レストランから、かなりのキックバックがリリーに入るのだろうとのことだった。
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