【旅行記】微魔女の微ミョーな旅・19
3.ベトナムー2017年
なぜ、ベトナムだったのか?
今更感の強いベトナム。当然押さえておくべき国ベトナム。
今回なぜベトナムなのか、というよりも今までなぜベトナムでなかったのか、という方が説明しやすい。それはずばり“ベトナムといえばボートピープル”の世代だからだ。
70年代後半、多感な中学生だった私たちの年代にとって、毎日のようにニュースで流れるベトナム難民(正しくはインドシナ難民らしい)の映像は、ベトナムという国が“怖い、暗い、貧しい”印象をしっかりと植え付けてくれた。続く80年代の、プラトーンに代表するベトナム戦争映画のブームで“残忍なベトコンの国”というイメージが上塗りされ、私のなかでは“行きたくない国”の不動の一位を獲得したのだった。
それがなぜ“50歳を過ぎてベトナム?”なのだが、1月に家族でお隣のカンボジアへ行ってからベトナムを知らないのは消化不良な気がして、プノンペンの空港で早くも次の旅行先として決めていたからだった。
今回は、往復航空券を自力で手配し、現地ツアーに参加する予定でいた。言語のなかでも難しいと言われるベトナム語をマスターする気はさらさらない。かといって、英語や日本が通じる環境でもないらしい。
まずは入門編として、ハノイとホーチミンへ行けばいいや、というのりでツアーのリサーチを始めた。そして巡り巡って辿り着いたのはT社という、オーストリアに本社を置く、世界中の現地発着ツアー専門サイトだった。旅程は数日から数か月、代金もピンからキリまであり、テーマ別のフィルターをかけることもできる。何よりもありがたいのは、オーストラリアドル決済という点で(そのために、為替相場によって若干の値段の変動はある)、なにしろ、USドル支払いは中東旅行で懲りているので、今回はT社経由でツアーを予約することにした。
T社はもちろん、そこに掲載されている現地ツアー会社も信用できるかどうかわからないので、T社の評判、予約予定のツアー会社の現地サイトや評判も二重三重のリサーチを掛け、メールでの質問を繰り返し、ようやく予約したのが、ホーチミンのL社が主催する『南北ベトナム5泊6日の旅』だった。旅程は、ホーチミン2泊、ハノイ3泊(うちハロン湾船中1泊)6日間。オーストラリアからベトナムまでは直行便で約8時間半なので、計7日間ということになる。
今回初めてのベトナム航空。ここ数年、特別価格のチケットもよく売り出していて、サービスも良いと聞いていたので、日本帰国時に利用してみようと思ってきたが、乗り継ぎが悪いのであきらめていた飛行機だ。
オンラインチェックインができない(当時)不便はあるものの、エメラルドグリーンで統一された機内は明るくて清潔、機内エンターテイメントも充実、客室乗務員は若くて美人が多く(こう思うのは男性客ばかりではないはず)フレンドリー、機内食も美味しくて、しかも近年では珍しくアメニティセットまで配ってくれた。
午後4時、ホーチミンのタンソンニャット空港に到着。
荷物を受け取って外に出ると、すぐに私の名前を掲げた女性が見つかったので一安心する。初めての国で初めてのツアー会社の利用は、まずは無事に荷物が出てきて一息、次に無事に迎えの人に会えて、荷物と一緒に本当に肩の荷も下ろせる。
地理感がまったくわからないまま乗用車に乗せられ、20分ほどで通勤ラッシュ真っ只中の市街に突入したらしい。道路はバイクバイクバイク……バイク。前方に見える信号待ちの対抗車線は、レースのスタート地点さながらエンジンをふかすバイクでひしめいている。そのほとんどが二人乗り。中心部に入ってからは渋滞にはまってほとんど車が動かず、空港を出てから約1時間後に、ハ ヒエン・ シグネチャー・ ホテルにチェックインした。
「歩道の端は歩かない。街の写真を撮るときは、車道から手が届かない位置まで下がってね。バイクからカメラを引ったくられるから」
途中まで街の散策に付き合ってくれた迎えの女性から、別れ際に有意義なアドバイスをいただき、オーストラリアのLガイドブックに再三書かれていた“ひったくりが多いベトナム”を思い出す。これも、私をベトナムから遠ざけていた理由のひとつなのだが、日本のガイドブックにはあまり書かれていない注意事項だ。
「白人は目立つからじゃない? 日本人はベトナムへ行ったら現地人と見分けがつかないでしょ。ジャングルのベトコン、ベトナムの日本人」
との夫の解釈は、正しいのか正しくないのか。いずれにしても、その日はパンとコーヒーを買って部屋で夕飯にした。