【旅行記】微魔女の微ミョーな旅・8
1.ヨルダン、イランー2016年 (2)イラン
陸の孤島で10時間
アンマンを出てデュバイに着いたのは午前2時過ぎ。ここで昼便に乗り継ぐために10時間の待ち時間となる。
世界屈指のハブ空港、エミレーツ航空の本拠地であるデュバイ空港は航空会社ごとに3つのターミナルからできていて、今回利用するターミナル2はLCC専用となっている。事前情報ではターミナル1と3は隣り合っているので、メトロや徒歩で行き来できるものの、ターミナル2への往来にはタクシー以外(しかも30分以上)の移動手段はない完全なる“陸の孤島”ということだった。どんなにリサーチしてもこれ以上の情報はなく、とはいうものの、現地に行ってみると案外移動手段があったりするのは往々にしてあることなので、「最悪、10時間を孤島で過ごせばいいや」と開き直っていた。
デュバイで下りて乗り換えカウンターに行って聞いてみると、やはりほかのターミナルへの移動手段はタクシーしかないらしい。10時間の待ち時間を知って気の毒に思ってくれたのか、
「日本人はビザなして入国できるから街へ行ってみたら?」
と勧めてくれた。夜中の2時に? タクシーで? 一応はまだ女なんですけど?
デュバイの街のことなど何も知らないうえ、こんな時間に起きているので頭もぼんやりしている。仕方がないので“最悪”の過ごし方をすることにして、一か所しかない搭乗待合室へ向かった。
こんな時間なので誰もが眠いのだろう、辺りには救いようのない空気が漂っている。女性のほとんどは黒系統のヒジャブかチャドル姿で大荷物を脇に置き、男性の方は魚市場のマグロよろしく床の上に寝転がっていて、まるで世紀末を迎えた避難所のようなのだ。私も眠気で頭がぼんやりしたままなので、なるべく人のいない場所に行って座り込んだものの、眠るのは不安だったので本を読むことにした。
時折流れる搭乗アナウンスが耳に心地良く、はっとすると寝込んでいたりする。
外が白んできた頃、隣りに座っていたチャドルの女性が、ちょっと席を外すから荷物を見ていてくれないかと頼んできた。「まったくの他人にそんなこと頼んでいいのか?」と思いつつも何も考えずに荷物番を引き受けた。ところが30分たっても女性は戻らず、だんだん不安になってきた。時節柄、やはり考えるのは「荷物の中身は爆弾か?」。このままバラバラになるのも嫌だが、犯人にされるのも嫌だ。荷物なんて放って場所を移動しようか、太陽も出て来たし朝ごはんも食べに行きたいし……そんなことを逡巡していると、女性が戻って来た。
「ありがとう。これ」
チャドルの下からぬっと出てきたふくよかな手にはチョコレートバーが乗っている。
ああ、ごめんなさい。一瞬でも爆弾テロ犯かと疑った自分を反省するとともに、人の見方を変えてしまいさえするテロ組織にも無性に腹が立った。
時計を見ると午前6時半。4時間半が過ぎたことになる。あと6時間。窓越しに見える外が明るくなってきたのと、人が増えてきたせいもあり空港らしい活気が出てきた。朝食を食べにカフェに行くと列ができるほどで、コーヒーとピスタチオのクロワッサンを食べながら、目も覚めてほっと一息。改めて見回してみると本当にいろんな人がいて、肌の色は黒か褐色、白装束のグループはメッカ巡礼へ行くムスリムなのだろう。アフリカ系の人は出稼ぎなのか、アジア人も西欧人もほとんど見かけない。
今日の午後にはイランに入国だ。サエルを始めヨルダンで出会った人に、これからイランに行くと言うと誰もが顔をしかめた。空港のカウンターでも同じ反応だったので理由を聞いてみると、
「イランはいろんな制限のある国だから。ビザが取れて入国できたとしても、その後よその国に行かれなくなるとかいろいろ不自由になるからだと思うよ。まあ、キミは外国人だから関係ないと思うけどね」
ああ、そういうわけか。スンニ派のヨルダンとは違うシーア派という理由もあるのだろう。たしかに、ヨルダンとイランがセットになったツアーも見当たらなかった。
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