【旅行記】微魔女の微ミョーな旅・28
5.ウズベキスタンー2019年
デュバイで仮説を立証
さて飛行機は、デュバイ乗り換えでタシュケントへ行くエミレーツ航空。エミレーツはウズベキスタンには飛んでいないので、デュバイでフライデュバイへの乗り換えになる。5年前に“不審な旅程”と言われながらも乗りたかったピルグリム御用達のLCCだ。今はエミレーツの傘下に入っている。
午後1時にデュバイ着。夜九時発の便なので市内に出ることにしていた。
前回の“陸の孤島での軟禁状態”に懲りているので、今回は市内の地図までダウンロードし準備も万端。が、どうしても見つからないのが、陸の孤島ターミナル2への外部からのアクセス方法で、飛行場内であればシャトルバスが走っているが、外部から直接ターミナル2へ行く方法はタクシーしかないという。ここでの疑問は“LCCを利用するようなお客がタクシーに乗るのだろうか?”。リサーチの時間もないので、取り敢えずはデュバイに行ってみることにした。
エミレーツ航空の本拠地であるデュバイ空港は、ターミナル3がエミレーツ専用になっていて、ターミナル1はその他の国際線、鬼門のターミナル2がLCC専用になっている。飛行機を降りるとターミナル2へのシャトルバス案内表示がしっかりと出ていた。
「ターミナル2へ行くには、あのシャトルバスしかないの? 飛行場を出たらどうやってターミナル2に行けばいいの?」
「あのバスだけです。一旦飛行場を出たらターミナル3に戻って、そこから空港タクシー以外の方法はありません。マダーム」
「でも、次のフライトまで10時間もあるんだけど。街に行きたいんだよね」
「一旦外に出たら、タクシーで行くしかないですね。マダーム」
埒が明かないので、ひとまず外に出ることにする。巨大な空港で、入国審査へエレベータで向かい、手荷物受取に電車に乗り、ようやく入国審査が終わってから再度、空港係員に外部からのターミナル2への行き方を聞くと、
「タクシー以外の方法はないですよ。マダーム」
私は微魔女だからマダーム、若かったらマドモアゼルとでも呼んでくれるのだろうか?
そんなことを考えながら滑り込んできたメトロに飛び乗ると、空港係員のバッジを付けたツア―ガイド風女性が、アジア人のビジネスマン風グループを引率して乗ってきた。
「ちょっと聞きたいんですけど、ターミナル2へはタクシー以外では行かれないって本当?」
「そんなことないわよ。メトロのアル・ナーダ駅なら徒歩圏内よ」
やっぱり……。“LCCのお客がタクシーなんか使うわけがない”仮説は正しかった。
そのままメトロに乗って市内に出たものの、地上に出たとたん毛穴全開で汗があふれ出てきた。博物館へ行って、バスタキア地区へ行って、木製の舟アブラで向こう岸に渡って、スークを見て、時間があったらショッピングセンターで……という壮大な計画は、バスタキア地区でさっさと頓挫し、暑さに喘ぎながら避暑を求めて冷房完備のバス停に飛び込むと、おお、目の前には市内の詳細路線地図が燦然と輝いている! これが欲しかったのに、どこにもなかったのだ。空港の最寄り駅もある。しかもバスまで通っている。空港の連中はグルになって、いたいけな観光客からタクシー代をむしり取ろうとしているということか。帰ったら、絶対にトリップアドバイザーに投稿してやる。
地図を写真に収めてからメトロ駅に戻り、約30分でターミナル2の最寄り駅に到着。
駅員に聞いてみると、駅前のバス停から空港行きのバスに乗れるという。バス停が見つからないうえ、時刻表の見方もわからないので随分と待たされたが、太陽が傾き始めるころに無事に空港行きのバス乗車に成功。しかも、デイパスまで使えたので大満足。“LCCのお客がタクシーなんか使うわけない”仮説が立証された瞬間だった。
ドヤ顔でターミナル2に入り、余裕で出発便の表示板を確認する。
……が、ない。私の飛行機が見つからない。
夜中の便まで表示されているのだが、午後9時発の便が見つからない。
フライデュバイのカウンターに行ってスケジュール表を見せると、
「あ、これはターミナル3の出発ですよ。マダーム」
「えええええええええっ?」
せっかくここまで、苦労して辿り着いたのに。ターミナル3に戻るって、今さらバスと電車を乗り継いだら時間もかかるうえ、こんな暑さのなかを歩くなんて冗談じゃない。
「どうやって行かれるの?」
「タクシーですね、マダーム」
値段の相場を聞くと、45から55ディルハムの間だという。空港で40USドルだけ両替して、手元に残っているのは100ディルハムほど。空港でスナックを食べたいので50ディルハムをキープしたら、残りは45ディルハムとコインが少し。
タクシー乗り場に行くと空港タクシーの初乗り料金表があり、安い小型車は人気でほとんどいない。ためしにステーションワゴンにターミナル3までの値段を聞くと60~65ディルハムだという。キャッシュがないというとカードが使えるというが、カードはなるべく使いたくないし、キャッシュも残したくない。小型車は構内から出れば捕まえられるというので一般道に出てみる。信号待ちしていた目の前の小型タクシーに値段を聞くと、私のことを上から下まで見た挙げ句に、
「100」
「ふざけんなよ、バーカ!」
と、満面の笑顔を浮かべて日本語で言ってやった。
気のせいか、さっきよりも薄暗くなってきていて、通勤ラッシュで道路も混んできた。タクシーを探している間に、搭乗時間にすら間に合わなくなってしまうかもしれない。カードを使うか、コーヒーを我慢するか。再び信号待ちでタクシーが停まったので、値段を聞いてみた。いや、押し切ってみた。
「ターミナル3まで行きたいんだけど、40と小銭がこれだけしかないの」
手の平に小銭を出して見せると、
「乗りな」
交渉成立! 良い人だー!
おじさんはメーターをオフにしてくれ、走ることおよそ30分。昼間出てきた建物が見えてきた。
「ありがとう。本当に感謝してます!」
ついでに、さっき買ったばかりのチョコバーも渡してしまった。
おかげさまでターミナルには予定通り到着し、タクシーのおじさんには嘘をついた形になってしまった50ディルハムでコーヒーとパンを買って軽い夕食を済ませた。メルボルンはランチタイムの夫にことの顛末を連絡すると、
「思いがけないヒマつぶしができてラッキーだったね」
と、完全に他人事の返事が返ってきた。
フライデュバイのなかは、メッカ帰りの大荷物のおばちゃんグループで満杯。おばちゃんたちにとっては、出発時間があることも席順があることも関係ないらしく、機内のあちらでもこちらでも荷物を詰め込もうと歩き回り大騒ぎしている。挙げ句、私に三列真ん中の席に移れと言う。敢えて通路席を取ったのだから代わりたくないと困っていると、フライトアテンダントが苦笑いしながら説得してくれた。
おかげで大幅40分遅れの出発となり、無事の離陸に安心したせいかあっという間に寝入ってしまった。途中、隣りのおばちゃんに揺り起こされ何事かと思ったら、親切にも「食事が来たわよ」と総金歯でにっと笑いながら目の前の弁当パックを指さしている。初めての飛行機に興奮してはしゃいでいるだけで、本当はいいおばちゃんたちなのだろう。
案の上、タシュケントに着陸すると、機内は拍手喝采だった。
タシュケントは、暗くて古いテヘランのような空港をイメージしていたが、広くて明るくて近代的な建物で拍子抜けだった。空港の真ん中に配置されたインフォメーションカウンターは、午前3時だというのに3人のスタッフがフルで対応しトラベルSIMまで売っている。
私の迎えは、空港内の各旅行会社ブースの前に居るはずなのだが、肝心のブースがどこにも見当たらない。インフォメーションで聞いてみると、全社とも建物の外に移転したとのことで出てみると、芸能人の出待ちのようにたくさんの業者の人が、寒さのなかで待っていた。
「あった、あった、私の名前!」
「いたいた、日本人!」
そんな感じで、遥かウズベキスタンの星空の下、無事にBMWのドライバーに出会え、市内のウィンダム・ホテルに向かったのだった。
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