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『Billion Balances』デザイナー・草桶 開インタビュー
『Billion Balances』の個性溢れるパッケージデザインはどのようにして生まれたのか。
アルバムデザインを手がけたプロダクトデザイナー草桶 開さんはHello1103と旧知の仲で、ミュージシャンyumegiwatoneとしても共演を重ねています。
そんな草桶さんの発想の源泉をさぐるインタビュー。
草桶 開 / kai kusaoke
〈プロダクト.スペース.グラフィック.ミュージック〉
法政大学 デザイン工学部 建築学科、桑沢デザイン研究所 プロダクトデザイン専攻卒。
インテリアメーカーにて営業、コーディネーター、職人の経験を経たのちに、
株式会社COLOR.にてプロダクト、スペース、グラフィックデザイナーとして勤務。
2022年にOKE STUDIOを立ち上げ独立。
作曲家として4つのプロジェクト( yumegiwatone、suion、comnoam、the stations)で活動中。音楽クリエイティブレーベルmukmuk records運営の1人。
財団法人横浜企業経営支援財団 横浜ビジネスエキスパート デザイン事業専門家。
竹尾STOCK MEMBERS GALLERY2024参加。
【受賞歴】埼玉県新商品AWARD2023 金賞 / シールラベルコンテスト2023 (一社)日本印刷産業連合会会長賞 / GOOD DESIGN AWARD 2022,2021 / Next Eco Design展2017 最優秀賞
Hitomi: 草桶さんとはyumegiwatoneとしてコンピレーション『霧の塔』に乗ってもらったり、Hello1103の配信ライブに出てもらったりしてすごく付き合いは長いから独立も随分昔に感じるけど、開業は2022年なんですね。
草桶: 次の4月で3年目に突入するので、いま2年目です。
Hitomi: この2年間、どうでした?
草桶: 最初大変でしたけど、やっと今年から安定した状況になってきました。独立したばかりのころは単発っぽい仕事が多くて大変でしたが、そういうことでもなくなってきたというか、今は安定感が出てきて楽しく仕事をしてます。
Hitomi: 受賞歴を見てるとGOOD DESIGN AWARDとか2年連続で取っているし、鳴り物入りで独立みたいに見えるけれど。
草桶: (独立前の)事務所がいい所だったので。それこそクライアントが例えばキングジム、NTTドコモ、博報堂のような大きなところとお仕事をしたり、中小企業とも新ブランドを立ちあげる仕事で関わったり、そういう仕事の経験があったからフリーランスになってもやっていけているなと感じます。
マルチタレントが相互に作用しあっている
Hitomi: OKE STUDIOで草桶さんがやっているプロダクトっていうのが総合的な手がけ方をしている印象があって。例えばビジュアルデザインとかだと局所的になるでしょ。もうちょっとプロダクト全体を構成する、プロデュース・俯瞰的な位置で全体をデザインしてるなって感じのものが多くて、すごくそれが面白いなと。
草桶: それは前のボスがそういうプロダクトもグラフィックも全体を包括的に見て全部やれる人で、それを見て僕はデザイナーとして育っていったので、そのノウハウが身について。
プロダクトデザイナーってモノを作るだけじゃなくて、ロゴを作ったり、説明のカタログを作ったり、もしくは商品を発表する空間を作ったり、周辺をまとめてデザインできた方がいい業種で、前の事務所ではプロダクトを軸に満遍なくやるところだったので、そのスキルを使って独立当初にTeenage Brewingの仕事をしたら、結果的にそういう全部やる仕事が増えてきました。
Hitomi: 草桶さんのプロフィール見てると、作曲家として4つのプロジェクトをやっていたりとかマルチタレントに活動されてて、そういう複数の能力を持っているっていうのが、そういう総合的な視点に生かされているのかなって感じます。
別の能力がまた別の面で役立った、なんてことはあったりしますか?
草桶: 例えば音楽制作時の感覚はデザインする時にも役立っています。
デザインって目に見えるものなので、依頼者の中にはなんとなくの言葉でも内容が伝わると考えている方もいるのですが、音楽はデザインよりも抽象的で、抽象的なものに対する感覚は音楽のほうが研ぎ澄まされるので、その感覚をデザインに落とし込むと、「ちゃんと確認しないで進まないと大変なことになるな」みたいなアンテナを立てられるようになる。
人それぞれの価値観が全然違うとか、同じ言葉でも全然捉え方が違うっていうのをデザインは気をつけなきゃいけない。音楽もそうですけど。(デザインを)学び始めた人も聞くような内容かもしれないですけど、でも油断していると結構それがネックになったりしやすいかなと僕は思っています。
でも、音楽も並行して続けていると、自分が凛と背筋を伸ばしてちゃんと確認しないとみたいな気持ちになってくる。そういう抽象度みたいなところの解像度をおろそかにしないという感覚が身についたなというのが一つ。
あと、そもそも僕は音楽を作ることとデザインをやることは同じだと思うんです。
結果的なアウトプットが違うだけだと思っているので。全てが影響し合っているとは思っています。
それは例えばインプットに対するアウトプットへの影響とかもですし、物事の進め方もそうです。作曲の進め方とデザインの上手な進め方も、何かスケッチしてそれを組み立てたり、アイディアの最終形への持っていき方も共通する部分は少なからずあるとは思っています。
そういう意味で、自分のクリエイティブスキルとして別々で存在してるんじゃなくて、どっちをやることでもどっちのスキルにもなっているみたいな、そんな風に感じる関係性ですね。
デザインは「心地良くすること」
Hitomi: アウトプットに対して別の視点からの感覚や評価を持ち込むことでより対象を深掘りできるというか。
草桶: そうです。デザインは「心地良くすること」って僕は言ってるんですけど、例えば音楽だったら聴き手が、デザインだったら使う人とか見る人がどれだけ心地良くなれるのか。
「心地よく」って柔らかい言葉ですけど、「心地よい」にも色んな「心地よい」があって。例えばメタルは激しい音楽ですけど、メタル好きな人ってヘドバンしていることが心地いいわけです。オーダーに対して、オーダー先の人やユーザーがなんだったら心地良いかっていうのが僕にとっては一番重要で、あとはそれをどう実現していこうか、音楽なのか、デザインなのか、食べ物なのかっていう話で。
それに対して僕のスキルとしては音を作ることができるし、ビジュアル化することができるっていうのが武器なので、僕が持っている武器の中で一番最適なものを提案するっていう考え方ですかね。
Hitomi: (自分の欲求よりも)プロダクトを消費する相手のことが先に浮かぶ?
草桶: わりと僕はそうですね。最近は音楽作るときも本当にそうです。自分の作品でも、こういう人に聴いて欲しいとか、最初にターゲットをちゃんと考えて進むことが多いですね。デザイン側はデザイン思考を踏まえれば当然そうなんですけど、僕はもうそういう人間になってしまったなって感じで。
自分の表現したいことがあってやっている部分もあるんですけど、でももうだいぶデザイナーになっちゃったなって感じで。心がもうそういう性質というか、本能的にそうなっちゃってるんで、そういう自分も愛そうかなという状況です。
草桶 開の原点その1:音楽
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Hitomi: 草桶さんの原点というか、好きなものをちゃんと訊いたことってなかったので、ジャンル別で3つほど聴いておきたいです。
草桶: 3つの塊でいうと、一つが音楽。もう一つが本、もう一つがインテリア。
元々は僕、バンドのエモとかポストロックが好きな人間で、世代的にPeople In The Boxとかthe cabsとかハイスイノナサとか、いわゆる残響レコード全盛期の時代に僕は影響を受けていたと。あとはdownyとかLITEとか、あとtoeとかenvyもですね。その辺の界隈で育っていったのですが、一番影響を受けているのはakutagawaで。
akutagawaって結構濃密な10分くらいあるエモの曲で、語りも入る感じで。それをコピーした経験がthe stationsの楽曲制作にもすごい影響を与えてる、僕の本当の意味での源泉がakutagawa。
というのと並行して、avengers in sci-fiと凜として時雨。僕がthe stationsでSchecterのテレキャスを使ってるのは凜として時雨から来てるんですけど、ボコーダーとか足元のオクターバーとか色々使ってたのはavengers in sci-fiの影響で。avengers in sci-fiと凛として時雨を合体させたような、で、akutagawaのギタープレイのニュアンスで攻めるっていうのがthe stationsでした。
それと同時に、大学からエレクトロニカを見つけるわけですね。新宿のタワレコの10階にニューエイジコーナーがあって、例えばausさんとか宮内優里さんとかも置いてありますし、そういう中でChristopher WillitsとかI Am Robot And Proudとかtychoとかと出会って、歌のないエレクトロニックなニュアンスのアーティストが好きだなって気づくきっかけがあったんですけど。
あともう一つは西原健一郎さんがやっているESNOはすごい聞いて、yumegiwatoneの最初はかなり影響を受けてて。さっき挙げたバンドは今はあんまり聴かないんですけど、エレクトロニカは今でもよく聴いてます。
で、音楽もう一軸あって。あとアニメ関係の音楽ですね、特にClariS。
大学の頃にアニメをすごい観てた時期があって、世代的に魔法少女まどかマギカがドンピシャだった時なので、ClariSは当初から聴いてたんですけど、今でも全ツアー行っているくらい好きで。他にアニメ流れだとアイマスの曲で「Hotel Moonside」っていうクラブミュージック系の曲を作っていたtaku inoueさんが好きで。今は星街すいせいさんと一緒にやったりっていうのでVTuberとかの曲も若干聞くようになって。例えばVsingerのHACHIさんというボーカルの人がいるんですけど、今1番注目していて最近よく聴いてる感じです。
草桶 開の原点その2:本
本が二軸あるんですけど、ひとつは辻村深月さんです。最近はちょっとミステリーよりはヒューマン寄りの作品が多い印象ですけど、ミステリーの作り方が好きで。
僕、そもそも活字を読むのがすごい苦手な人間だったんですけど、大学に入って辻村美月さんを何かのきっかけで読んだ時にむちゃくちゃ面白くて、一気に読んじゃって。小説ならではの言葉の仕掛けが打たれていて、もう一回読み直すと全然違う内容に読めてくるみたいな。一回目読んだ時の印象と、二回目読んだ時の印象が全く変わるみたいな、本だからこその面白さを感じられる作品を作ってらっしゃって。ミステリー小説の面白さを教えてもらいました。僕は辻村美月さんの小説をほぼ持っているんですけど、結構僕に影響を与えていると思います。
もう一軸は漫画ですね。僕はジャンプっ子なので。ここ数年で1番好きなのは『ハイキュー!!』ですね。『ちはやふる』も好きです。最近だと『宝石の国』がすごい良かったです。哲学でした。
草桶 開の原点その3:インテリア
もう一個好きなのがインテリアですね。僕がデザイナーを目指すきっかけになったのが椅子。
池袋のジュンク堂という本屋に試し読みをするための木の椅子があるんですけど、中学生の時にその椅子に座ったら、木なのに柔らかく感じたんです。なんで?って。それは今思うと本当に身体にフィットしてて、面の硬さを感じないようないい椅子だったってことなんですけど、触ると硬質なものが座ると柔らかく感じるという体験が当時は不思議だったんですよ。それが僕の原体験で。
そもそも僕は作ることを仕事にしたかったんですけど、その原体験はまた別で。
僕が幼稚園のとき親父と作ったミニ四駆で地元の大会に出たんです。ちっちゃい大会ですよ。でも銀メダルもらえたんです。幼稚園生だとその銀メダルが嬉しいんですよね。その体験で作ることの面白さを感じて。両親も作る仕事をしていて(作ることと)仕事が小さい頃から結びついてたので、僕も作ることを仕事にしたいと思っていたし、そこにさっきの椅子の体験が加わって、俺は家具を作るぞって。
Hitomi: ちなみに、苦手なものがもしあれば教えてください。
草桶: 苦手なもの、あります。一個は納豆。納豆嫌い(笑)家族みんな好きなんですけど、僕だけ食えなくて納豆だけは一生友達になれないです。
それと、僕運動苦手で。やっぱ小学校とか中学校とかの男って運動できるやつが覇権取れる感あるじゃないですか。僕は運動がうまくできなかったんでちやほやしてもらえない。小さい頃はやっぱ羨ましいわけです。今となっては別にそんなのは気にしなくていいよって思いますけど(笑)
でも当時は悔しかったんですね。運動ができないことがすごいコンプレックスだったんで、原動力として「そもそも自分は劣っているんだから自分は頑張らないと人に勝てない」っていう考え方を持つようになったんです。自分が可能な範囲では負けたくないっていう気持ちがどこか生まれて。
しんどい状況に負けたくない、そういう反骨精神みたいな…それでデザインとか音楽も頑張ってやるようになって、自分がやれることは何でもちょっと頑張ってみようっていう気持ちで動いていたらいろんなことができるようになったので結果よかったかなと思いつつ。
「自分のできないことはできないんだ」ってことと「その代わりにできることもあるな」ってことに気づいて、自分ができることをしっかりやろうと思ってやっていたら一人でも仕事できるような状況にもってこれたので、運動できなかった体験も繋がってるなと思ってます。
Hitomi: それこそCOLOR.に入った頃とか、草桶さんの仕事に対する根性はすごいなとずっと思ってて。それがどこから来てるのかっていうのがなんとなくわかった気がします。
草桶: その根性は僕にとっては結構いい根性です。楽しい根性というか。だって根性さえ出せばできるので。
自分ができることは見せていかないと、みんなもそこを使ってくれないので。自分はこういう人間ですよと伝える意味でも、できるところを見てもらうためにも、やれることは頑張ってました。
『Billion Balances』制作の裏側
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Hitomi: 最初にHello1103から依頼がきたとき、どう思いました?
草桶: 結論だけ言うとシンプルに嬉しかったです。今のHello1103の状況だと僕以外にも選択肢はあるだろうというのはまずなんとなく思う。他に気になるデザイナーがいればやってもらえるでしょうし、あとyukakoさん自身もデザインができるし。
しかも2枚組の『Hello』『1103』を出した後で、しかもその後VRの流れもありながらで、ここからのスタンスを伝える大事なアルバムだし、あとそれこそworld's end girlfriendとかのサポートもされて、よりHello1103に注目している方が増えているであろうこの大事なタイミングで僕を指名してくれたっていうのは、僕はほんと誇らしかったというか、シンプルに嬉しかったです。
Hitomi: アルバムのデザインを以前やったことは?
草桶: 今回みたいな感じでは無いです。デジタルとかは何個かやってますけど、フィジカルで、しかも今回みたいな特殊仕様っていうのは、自分の自主制作の手織りのやつぶりかなっていう感じです。
Hitomi: 今回のアルバムデザインの工程は、典型的なアルバムの工程とは違うってだけで、(プロダクトデザインとしては)それほど特殊ではない?
草桶: 特殊ではないですね。デザイン工程の話をすると、最初にヒアリングした時点で、聞きながらある程度僕の脳内にラフ案は思い浮かんでいたので、あとはそれをスケッチブックとかに書き出しながら形にしていったという感じです。
Hitomi: たしか最初にデザイン案を3つぐらい見せてもらって。
草桶: アイデア優先で思い切ってやりたいけど、とはいえ、そういう場合でもある程度現実ラインの話はしておかないとその先で何かが起こる可能性がある、という意味での3案を出しましたね。
今回の制作において特に嬉しかったポイントとしては、「予算もあるが、それは一旦気にせずアイディアベースで提案してもOK」と言っていただけたところで。その上で最初に3案持っていって、一番最初に見せたのが一推しで、他の2つはいわゆる最初の案が良いよねと認識をすり合わせるための材料みたいな意味で持っていったように思います。当時提案した時まではそこまで考えてなかったようにも思いますけど。
yukako: 草桶さんに対して、私たちからは完全にお任せします、自由にやってくださいっていう風に言って。最初の打ち合わせの時に、その竹尾さんと関わりがあるから、紙で何かできたらいいんじゃないかと。最初からそれを言っていて、面白そうだねとなっていて。
竹尾さんの見本帖にも今年の初めに見に行かせてもらって。その頃から何かそうみたいにやってもらっていたんです。で、アルバムやるんだったら豪華に作ろうとなって。他のデザイナーさんとか繋がりはあるけど、やっぱり一番関係に意味があると思ったし、信頼してるから、まず形にするんだったらっていう。
最初の3案のひとつに黒いスリーブに穴が開いているっていうデザインがあって。最終的な完成品のスリットとはちょっと違う形なんですけど、こんな格好いいのがあるのか、これでいきましょうとなって、見積もり取ってもらったらすごい額が返ってきて(笑)
その元々の案は、いろんな紙を組木細工みたいに貼り合わせて、それぞれの紙で『Billion Balances』の多様性を表現しようとしたものだった。
工数や予算が折り合わなくてでできなかったけど、そこからじゃあ現実的にどう落とし込んでいくかというときに、そこからの草桶さんの切り返しがすごくて。そこから完璧に顧客のニーズに応えるものを出せるって…一回見積もりで失敗してコケたらテンションが下がるじゃないですか。
草桶: 良いモノを作ろうと進む案件は最初の見積もりって大体一番高く出るものなので。まずは理想で見積もり出しましょうとなる。でも、コストを抑えるからつまらなくなるっていうのは良くない。むしろコストを削減させるアイデアで洗練させたらより面白いアイデアになったりとか、よりわかりやすかったとか、ポジティブに捉えられるような落としどころを見つけていくのが僕の仕事。なので、まずこういうところを目指しましょうっていう価値観を話す工程がすごい大事で。その中で一番大事なところを残しながら、じゃあこうしましょうという提案は、実はテクニックがあればできなくはないことで、自分にとってはそのスキルを使えたなと感じられる機会だった。
ただ、それもやはり(Hello1103と)7年とか長い付き合いで、僕もHello1103を信頼してますし、Hello1103から信頼をされていることもわかるような関係ではあるので、自分はもうHello1103を理解してるんだと自分に言い聞かせて(笑)
自己暗示で、完全に他のどのデザイナーよりも理解してるんだと言い聞かせて、曲とアルバムに関する最低限のヒアリングだけで検討進めて。今回の製作費の規模感で考えたときに他のクライアントだったらその人、会社、業界の根底を理解できるようにヒアリング頑張るんですけど、Helloさんの場合はそれをぶっ飛ばしても事故らないと思えたので、その関係性を信じていられたHelloさんだから成り立ったような制作の流れだったようにも感じますね。本当にいい形で最終パッケージになったなというふうに思っています。
パッケージの推しポイントは?
Hitomi: 本当に細部までこだわってパッケージが作られているなっていうのがわかるけど、何か一つ推しを選ぶとしたら?
草桶: 触れてわかる質感、触覚へのアプローチですね。今回依頼を受けた時に、一番最初からそこはすごい意識してて。
CDジャケットって基本的にどれも印刷による表現をしている。グラフィックデザイナーがアートワークで表現した音楽の世界観、平面的な世界観が基本的にパッケージになっている。ペトロールズとか三角形のCDを出してるんですけど、それも形状という視覚効果を与えてはいるけど、触った時の感覚までは考えられてはないように思う。そこをもう一段上に行きたかった。それが最初に思ったことです。
なので、外装のスリーブは手触り感…触った時にその歪さというか、触れることでアルバムのコンセプトである「数十億という人の考えのバラバラさ」の世界に本能的に入っていけるようなものにしたくて、それが実現できた気はしていて。それが今回のパッケージの一番の推しポイントかなと。
Hitomi: 触覚っていうWebとか配信に乗り得ない部分がパッケージを手に取ってもらえた人には伝わって、それがフィジカルとしての魅力に繋がっているのは素晴らしいなと。
草桶: やっぱりもうみんなデジタルで聴けちゃって、わざわざモノを買う意味をどんどん深くしていかないといけないとなった時に、見るだけなら画面でも疑似体験ができるし、特殊ジャケットでなくてもモノとして出来上がったらフィジカルの良さは出るんですけど、更にもう一歩行きたかったっていう。触覚がスタートになったことで他のところもちゃんと見てもらえる、そんな感じがします。
Hitomi: この感覚を支えているのが竹尾の紙。
草桶: そうですね。竹尾のファインペーパー。例えばトイレットペーパーとかティッシュとか、そういう生活の紙じゃなくて、もうちょっとモノとしての表現を重視している紙をファインペーパーと言っていて、竹尾はそのファインペーパーの種類が非常に多いっていうのが特徴です。
外装のスリーブはFAVINI TOKYOと言って、日本の都市の現代性をイメージして作られた紙で。そもそもこの依頼を受ける前から(ライブで)『Billion Balances』の演出とかは見ていたので、なんとなく(Hello1103の)二人がイメージしてるもの、硬質さじゃないですけど、そういうものはなんとなく心の中にあって、FAVINI TOKYOは合うかなと思って。品がいいけど内心荒れてるみたいな(笑)
その人間味がよいところなので、それを表せる紙っていうのを僕なりに選定しました。
Hitomi: 心の嵐を越えていきたいですね(笑)
インタビューに登場した紙の総合商社・竹尾のショウケースである青山見本帖で開催中の「Fine paper,Fine work vol.14」にて、『Billion Balances』が展示されています。
好評につき2025年1月14日まで延長決定!ぜひお立ち寄りください。
青山見本帖 ショウケース展示「Fine paper, Fine work vol.14」
2025年1月14日(火)まで開催
休館日:土日祝
開館時間:10:00-18:00
※年末年始は28日から翌年5日まで休業。また、1月6日は短縮営業(17:00閉店)
いつも青山見本帖をご利用いただいているデザイナー、クリエイターの方々に、
店頭でお選びいただいたファインペーパーが実際にお仕事で採用された事例を
ご紹介いただく展示の第14弾です。
パッケージや写真集、パンフレットなどの多様なFine workをぜひご覧ください。
会場・お問い合せ先
株式会社竹尾 青山見本帖
東京都渋谷区渋谷4-2-5 プレイス青山1F
TEL:03-3409-8931