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「仮想現実での生き方」を考えよう(アバターについて)

研究ユニット「Nem x Mila」が発表されたレポート「ソーシャルVRライフスタイル調査2023」を読んで、メタバースにおけるアバターの今と未来について考えてみました。


調査結果から分かる、アバターの今

レポートの中の「Part2. Identity」から、今のメタバースではどのようなアバターが選ばれているのかが分かります。

人間型のアバターが9割以上を占めています。私は主にVRChat・Cluster・Resoniteにいますが、非人間型のアバターは見た目にインパクトがあるので印象に残りやすく、もっと割合が多いイメージでした。少ないからこそ目立つのでしょうか。

その人間型では、物理性別に関係なく、女性型アバターが8割以上を占めています。私の肌感覚もこの通りです。

※こちらは女性型アバターに限らないデータだが、
女性型アバターに絞っても同様の傾向と推測される。

その女性型アバターを、多かれ少なかれ自分で手を加えて準備しているようです。

※こちらは女性型アバターに限らないデータだが、
女性型アバターに絞っても同様の傾向と推測される。

女性型アバターを「こんな外見が良いな」「自分を表現しやすいな」「コミュニケーションしやすそうだな」と考えながら準備しているようです。

つまり今のメタバースでは、「物理男性が自分の好きな感じの女性型アバターを制作して使用している」パターンが最も多いということになります。
私自身もこのパターンに当てはまり、VRoidというアバター制作ツールを用いて制作した女性型アバターを使用しています。以前はReady Player Meという顔写真からアバターを自動生成するサービスを用いて作成した男性型アバターを使用していたのですが、威圧感が出てしまって溶け込めない気がしてあまり好きになれませんでした。今の女性型アバターは使いやすいく気に入っています。

私の男性型の旧アバター(左)と、女性型の現アバター(右)

まだメタバースを体験していない人からすると、今のメタバースユーザーの多くは「美少女の姿を纏うのが好きな特異な男性」に見えるかもしれません。しかし実際は、最初から「美少女になりたい」と強く思っていた訳ではなく、メタバースで活動するにあたり、何となく自然で馴染みやすいので結果的にそうなったというケースが多いのではと思います。これは今のメタバースの空気感、大げさに言えばメタバースのコンセプトがそうさせていると考えます。

メタバースの原点「スノウ・クラッシュ」におけるアバター

ここで、メタバースの原点に立ち返ってみます。メタバースという言葉は、1992年にアメリカのSF作家であるニール・スティーヴンスンが書いた「スノウ・クラッシュ」で初めて登場しました。そこではどのようなアバターが使用されていたのでしょうか?

アヴァターは、使っているマシンの能力が許すかぎり、どんな姿かたちにもすることができる。実物の自分が醜ければ、ハンサムなアヴァターにすることもできる 。現実世界ではベッドから起きたばかりでも、アヴァターにはきれいな服を着せ、プロ顔負けの化粧をすることもできる。ゴリラだろうが ドラゴンだろうが、巨大なしゃべるペニスだろうが、メタヴァースではなん でもありだ。〈ストリート〉を五分も歩いてみれば、そのすべてに出会うことができる。ヒロのアヴァターは、現実のヒロの姿そっくりにできている。違うのは、現実世界で彼がどんな服装をしていようと、アヴァターはつねに黒革のキモノを着ているという点だ。

ニールスティーヴンスン. スノウ・クラッシュ〔新版〕上 (ハヤカワ文庫SF) (p.59).

スノウ・クラッシュでは、人間型から非人間型まで様々な種類のアバターが使用されており、人間型は、現実世界の本人の姿と全く異なる姿の場合も、似せた姿の場合もありました。主人公のヒロは現実世界と同じ姿で、現実世界でも繋がりのある人物たちと、コミュニケーションを取っています。
何の前提条件も無く「あなたがバーチャルな空間で活動するための姿を創造してください」というお題を与えられた場合、ヒロのようにできるだけ現実世界の自分に似せた姿を選ぶ人が結構な割合でいるのではないかと思います。しかし今のメタバースではそれは主流ではありません。それはなぜでしょうか?

未来のメタバースにおけるアバターとは?

私は、今のメタバースが「現実世界との結びつきが弱い別世界として創造」されてきたからだと考えています。現在盛り上がって人が集まっている(と言ってもまだまだ道半ばですが)メタバース、例えばVRChatやClusterで、現実世界の個人を明らかにすることや、現実世界での繋がりを前提にしたイベントやコミュニティは多くありません。ユーザーは、仮想現実にいる目の前のアバター・人格をありのまま受け入れてコミュニケーションし、関係性を構築していくことを楽しんでいるように思います。なので現実世界の姿に似ていることが必要な場面が少なく、むしろ煩わしいことの方が多いと言えます。
もしメタバースが「現実世界の延長ではあるが物理制約から解放された便利な世界」であるならば、現実世界の姿に似たアバターを使用するメリットは大きくなります。
2つのコンセプトと親和性の高いアバター作成方法およびキーワードは以下のように考えます。

今後、別世界の創造現実世界の延長の両方、さらにはその間で、メタバースを活用する様々なアイデアが登場するでしょう。それに伴って、どのようなユースケースにはどのようなアバターが向いているのかも明らかになってくると思います。
さらに、異なるコンセプトで育ってきたメタバースプラットフォームが繋がり出すことが想定されます。その時に美少女アバターや現実世界の姿に似たアバターのままでメタバースの国境を超えるのか、入国ゲートで人知れず変身するのか、各ユーザーの判断が求められることになりそうです。

なお、個人的には別世界の創造のコンセプトが好みです。現実世界の延長は手近な進歩が想像しやすいのに対して、別世界の創造は人類を異なる次元に連れて行ってくれる気がしてワクワクするからです。

最後になりましたが、今回素晴らしいレポートを作成され、考えるきっかけを与えていただいたねむさんとミラさんに感謝します!

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