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へきちの本棚6(写真の本)

  「写真の本といえば」の3冊

へきちの二人、松田洋和田渕正敏が、毎月テーマを決めてレコメンドをする企画、へきちの本棚。第6回目のテーマは「写真の本」です。



写真講義
ルイジ・ギッリ

発行日_2014年6月26日
発行元_みすず書房
カバー_《グリッツァーナ、モランディのアトリエ》1989年

イタリアのニューカラーのパイオニア、ルイジ・ギッリが行った大学の講義を記録した本。実際に講義で使用された写真を収録していることもあり、本当に講義を受けている気持ちで読める。写真・カメラの歴史や技術的なことなどの実跡的な話が半分くらいありつつ、自身の作品についてや、撮影における哲学もまた随所で語られる。そしてそれは、撮影に限った話ではなく、制作すべてに通じている価値観だと思う。(「私たちが目指すのは、透明さをふたたび表現する写真を撮ることではなく、本質的には世界をふたたび見るために、おそらく私たちと世界との間にある透明さを取り払うことなのかもしれません」p.135)また、ニューカラーといえばレコードジャケットのイメージがあるのだが、ギッリの写真が使用されたレコードは実は知らなかった。CCCPのジャケットがすごくかっこいい。(松田選)

ギッリの本は近年、MACKから再販されたり新たに出版されたりしている


彼らが写真を手にした切実さを―《日本写真》の50年
大竹昭子

発行日_2011年6月20日
発行所_平凡社
デザイン_五十嵐哲夫

戦後世代の4人(森山、中平、荒木、篠山)とその子供世代にあたる6人(佐内、藤代、長島、蜷川、大橋、ホンマ)それぞれの背景と言葉を大竹昭子が綴った本。(作品を中心とした語りではなく)作家の言葉や活動の軌跡から作品の視点を抽出しようとするかのようなテキストは、ドキュメンタリー映画を観ているような気持ちにさせる。大竹は《日本写真》を「言葉に置き換えられる何かを得るために撮っているわけではない」ものだとする。だからか、結論めいた何かに導かれるようなことはない。写真を見るときの引力のようなもの、対象に踏み込みながらも表面をなぞる手つきのようなものが、ただずっと続いている。(松田選)



新写真論 スマホと顔
大山顕

発行日_2020年3月20日
発行所_株式会社ゲンロン
カバー・表紙・扉写真_大山顕
装丁_川名潤

この本の面白さは一口に、写真を撮るための心得や哲学を書くことにより写真を定義しようとしているのではなく、「既に写真を撮っている人々 (≒インターネット上で無限に閲覧することができる『写真』)」から現代における写真とは何なのかを見出そうとしている点である。社会のありようを反映した内容となるため、社会学としてのその時代の資料ともなりうるし、その社会に生きる人々の思考も読み取るので、心理的作用について考えるきっかけにもなるかもしれない。写真(カメラ)の特権性がゆるやかに解体された現代、私たちがスマートフォンの画面越しに目にするものは、なんなのだろうか。(松田選)



アートの入り口 美しいもの、世界の歩き方[アメリカ編]
河内タカ

発行日_2016年2月25日
発行所_株式会社太田出版
ブックデザイン_名久井直子
表紙写真_Edward Hopper “Early Sunday Morning”

この本は友人からプレゼントしてもらったものだ。その友人は大層写真に詳しいから、「ちょっと勉強しなよ」という意味もあったのかもしれない。この本は20世紀アメリカ(特にニューヨーク近郊)のアートシーンを書き記したものだが、ウォーホールやホッパー、ロスコ、ルシェなど美術家に並んで、エグルストン、ショアーからペン、アヴェドンなど写真家まで、数多くのスターたちの活躍やエピソードが軽やかな文体で登場する。全編にわたり「⚪︎⚪︎っていいよね」というムードが漂っていて、読んでいるだけで幸せな気持ちなる不思議な文章だ。そんな、専門書や学術書とは異なるごく個人的な語り口で紐解かれる作家たちの話に触れると、自分も美術館へ出かけたり、写真集や画集を手に取ってみたくなるのだ。(松田選)




White 鈴木理策
発行日_2012年
発行所_エディション・ノルト
デザイン_秋山伸
印刷_サンエムカラー
プリンティング・ディレクター_谷口倍夫
発売_ソリレス書店

私の中で日本の写真集の様式を決定付けた人物は二人いて、90年代後半から00年代初頭は中島英樹(およびG/P、後藤繁雄)で、00年代中頃から現在に至るまでは秋山伸(およびedition.nord、チクチク・ラボ)だ。中島がカウンターカルチャーと美術の架け橋だったのだとしたら、秋山は設計の視点で美術を真ん中から射抜いたのではないか(現に、現在の写真集・作品集のデザインは、秋山が作り上げた様式を一つの正解とする共通認識があるように思う)。秋山の仕事の中でも、特に好きなのは鈴木理策のこの写真集だ。クラフトの手触りが優しくありながら、新雪をそっと踏むような緊張感が同居する。これぞ、様式を超えた次元のデザインだ。(松田選)



William Eggleston: Los Alamos
Thomas Weski(Ed.)

Year_2003
Publisher_Scalo
Bookdesign_Steidl Design/Bernard Fischer
Texts_Walter Hopps, Thomas Weski

初めて写真をかっこいいと思ったのは、Primal Scream “Give Out But Don’t Give Up”だった。その数年後、JEWの“Bleed American”もかっこいいな、と思ったら、同じ写真家だった。まわりに写真の知識がある人がいなかったし、インターネットもなかったから、すごい発見をした気持ちになった。また数年後、古本でこの写真集を購入した。どこか、取り残されたような、置いてきてしまったような景色・人々が写っていた。10代の自分もまた、ここに綴じられているような気がする。(Scaloは2006年に倒産、二手舎の記事が詳しい)(松田選)



アンリ・カルティエ=ブレッソン  ー20世紀最大の写真家
著者_クレマン・シェルー
監修者_伊藤俊治
訳者_遠藤ゆかり

発行日_2009年4月10日
発行所_株式会社 創元社
造本装幀_戸田ツトム

大学生の頃にテレビでアンリ・カルティエ=ブレッソンのドキュメンタリーを見て初めてこの写真家を知った。リビングで父と一緒に見ていた。父の仕事は写真だった。カルティエ=ブレッソンの写真の代名詞である「決定的瞬間」という言葉は以前から父に聞かされていた。驚いたのは父も初めてこの時にカルティエ=ブレッソンを知ったということだ。決定的瞬間原理主義者の父が自身の起源を見つけた決定的瞬間だった。本書では晩年の彼がデッサンに没頭していたことを伝えている。瞬間の芸術を極めた後に筆跡を積み重ねるデッサンを選択する人生が面白い。(田渕選)



写真と生活
小林紀晴

発行日_2011年11月30日
発行所_リブロアルテ
ブックデザイン_トサカデザイン(戸倉 巌、小酒保子)

僕はイラストレーターになる前はよく写真を撮っていた。この本は2011年に出版されている。ちょうど僕が会社を辞めてイラストレーターになり写真から離れた年だ。この本の存在も知らなかったし、小林紀晴という写真家は認識していたものの、文章がこんなに面白いということも最近になって知った。本書ではインタビュアーとしての手腕も鮮やか。同業の写真家達に踏み込んだ質問を投げかけたり、敢えて引いてみたり、用意した質問をしなかったりする挙動がカメラを扱う人間がシャッターを押すタイミングを窺っているように緊迫している。(田渕選)


味写入門
天久聖一

発行日_2010年4月2日
発行所_アスペクト
装丁・本文デザイン_原条令子

味写って気になるタイトルだけど、そんな疑問が湧く前にカバーの写真でひと笑い。パラパラめくって、二笑い三笑い...あれヤバいぞ面白い本あった!そんな感じの出会いだった。今回このレコメンド文を書くために10年以上ぶりに本書を開いたけどやっぱり笑った。笑える本に出会った時は弟に知らせるというのが当時(2010年)の習慣だったので一緒に所有して「これヤバい」などとそれぞれのお気に入りを指差しながら笑った。写真に付けられたタイトルと短い文章が秀逸でもう一度笑わされる。僕のある部分のツボをバッチリ押さえてくれる本。(田渕選)


別冊 太陽 小泉今日子 そして、今日のわたし
発行日_2023年11月30日
発行所_平凡社
アートディレクション_櫻井 久
デザイン_中川あゆみ
写真_鈴木理策

正面を切ったポートレートに見たことがないという感情が湧き上がったのはいつぶりか。(いや、かつてそんな経験があったか?)そのことに希望のようなものがあった。巻末に撮影の方法が記載されていて、普通じゃない撮り方でこの表情が生み出されていることを知った。昨今人物を撮影するということは大変に難しくなったのではないかと想像する。それは写真が一度きりだったものから拡散を繰り返し時代と共に評価が移ろい、被写体との関係性をも変化させてしまうものへと変容したからなのかも知れない。(田渕選)


写真はわからない 撮る・読む・伝える ―「体験的」写真論
小林紀晴

発行日_2022年4月30日
発行所_光文社新書
装幀_アラン・チャン

写真家が書いた写真の本。だから当然写真の話で始まると思ったら冒頭は野球(甲子園)の話で気持ち良く裏切られた。筆者は写真の「わからなさ」、その感覚の質感を伝えることから始める。この冒頭だけでグッと引き込まれていた。今回のレコメンド本のテーマを「写真の本」としたのは僕の希望で、この本を読んだからに他ならない。それから毎週図書館に通って写真の本を貪り読んでいる。それと同時にフィルムのカメラで撮影を始めた。その場に居合わせるということ、絵には無い写真というフィジカルな行為に改めて没入してみたいと思った。(田渕選)


"日々 Hi-bi"
写真 平間至
詩 ビッケ

発行日_2000年10月30日
発行所_メディアファクトリー
アートディレクションとデザイン_坂 哲二(BANGI Design)

著者が父親を撮った写真がある。その写真はその父親が経営する写真館で撮られている。著者も父親も仕事で写真に携わる者なのだ。過剰に装飾的な写真館の椅子に記憶が反射的に疼く。僕の父も写真を生業にして生きている。僕は3年間ほど結婚式のスナップ撮影やスタジオ撮影をする父の仕事を手伝っていた時期があって、この写真に撮られた場所にいたような錯覚を覚える。父と同じ場所で同じように仕事をするその微妙な空気や反発する心が騒めく。実家の雰囲気も写り過ぎていて怖い写真だらけだ。だから少々ショッキングなのだけれど、ビッケの詩が写真と対峙する距離を作ってくれる。違う場所なのだと教えてくれる。(田渕選)


へきち

田渕正敏(イラストレーション)と松田洋和(グラフィックデザイン・製本)によるアート/デザイン/印刷/造本の活動です。


田渕正敏

イラストレーター

最近の仕事に「アイデア402」装画(誠文堂新光社/2023)、「ゴリラ裁判の日、須藤古都離著」装画(講談社/2023)、ナチュラルローソン「飲むヨーグルト」パッケージイラストレーションなど。

最近の賞歴、第40ザ・チョイス年度賞優秀賞、HB File Competition vol.33 鈴木成一賞など。


松田洋和

グラフィックデザイナー

最近の仕事に「2023年度東京都現代美術館カレンダー」、「Another Diagram、中尾拓哉」(T-HOUSE/2023)、「奇遇、岡本真帆・丸山るい」(奇遇/2023)など。

最近の賞歴、ART DIRECTION JAPAN 2020-2021ノミネート、GRAPHIC DESIGN IN JAPAN 2023 高田唯 this oneなど。


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