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あの人と一緒に家庭教師をやる

21歳の時。1月の中旬になりました。

母子寮の管理をしている人に頼まれて、青年は家庭教師をやることになります。中学3年生の女の子がいて、公立高校の受験をしたいと言うのです。

ちなみに、東京都では公立高校の方が受験のレベルが高いそうです。「公立に受からなかった子が私立に行く」という話を聞きました。

青年が住んでいた地域では全く逆で、学力の高い人が私立に通い、受からなかった人が公立に行くというシステムだったので、ちょっと不思議な感じがします。

受験勉強を教える中学3年生の女の子には、中学1年生の妹がいました。お姉ちゃんの方がおっとりした感じだったのに対し、妹は非常に活発な子で、いつもそこら辺を走り回ったりおしゃべりをしていました。勉強もあまりできません。

そこで青年は「2人の女の子に同時に勉強を教えるのは大変なので、一緒に来て欲しい」と例のあの人に頼みます。彼女はふたつ返事で「いいですよ~」と答えてくれました。

こうして、毎週土曜日は一緒に家庭教師をやることになったのです。


最初の日、2人は別々に母子寮に向かいます。青年は中学3年生のおねえちゃんを、あの人は中学1年生の妹の勉強を教えました。

いくら高校を途中で辞めたといっても、この時の青年にとって中学3年生の勉強はあまりにも簡単過ぎました。なので、家庭教師としての任務は見事にまっとうできたといえるでしょう。

ところが、ここで意外なコトが起こります。

例のあの人、ボランティアではつつましやかでおとなしい性格の女性だったんです。もちろん、小さな子供たちと遊ぶ時なんかには声を上げて笑うこともあったし、質問されれば自分の話をすることもあります。でも、積極的にプライベートの話をすることなんて、ほとんどありませんでした。

それが母子寮の門を1歩出た途端、ムチャクチャなスピードでしゃべり始めたのです!

青年は驚いてしまって、話の内容なんて全然頭に入ってきません。言葉を差し挟む暇もないくらいにまくし立ててきます。まるで無限に弾の入っている機関銃のごとく!

「ええ~!?なにこれ!?こんなにおしゃべりな人だったかな~?」と青年は内心驚きながら、うんうんとうなずきながら話を聞いてあげることしかできませんでした。


2回目の家庭教師の時も同じでした。

任務が終了し母子寮の門を1歩出た途端に、再び無限弾丸の機関銃攻撃が飛んでくるのです。でも、今度は青年も覚悟ができていましたので、適度にうなずいたり質問を返したりすることができました。

会話の内容から、いくつかわかったコトがあります。

第1に、彼女は4人家族でお父さんとお母さんとおねえちゃんがいます。でも、お父さんは郵便局の仕事で単身赴任していて、遠くに住んでいます。おねえちゃんは最近結婚したそうです。なので、実質お母さんとのふたり暮らしになります。

第2に、お父さんの単身赴任先は青年の地元と同じでした。さらに、年末はお母さんと一緒にお父さんの単身赴任先に泊まりに行っていて、近くの観光地を訪れていたそうです。つまり、青年が田舎のおばあちゃんの家で孤独を感じていた頃、わずか数十キロ先に彼女はいたのです。

第3に、同じサークルに恋人がいるというのは事実だということがわかりました。彼女がその人の話をしたからです。ただし、ここから先がおかしなコトになってきます。

いいですか?覚悟して聞いてくださいね。


例のあの人は、青年に向かってこう言いました。

「おつき合いしてる人に、あなたの話をしたんです。何度もしました。どんなに素敵で立派な人かを。そうしたら急に怒り出しちゃって、険悪なムードになっちゃったんです。だから、2度と話すをのやめました」

青年は、その話を聞いて思いました。

「こ、この人、信じられないレベルで鈍感だ。まるで、ドラマか少女マンガの主人公みたいに!見た目だけじゃなくて中身までヒロインやってるんだ!」

それって言い換えれば、こういうことです。

「そ、それって、つまり…目の前にいる人のことを好きってことじゃないの?そんな話を聞いたら怒り出すのは当然だし、たとえ彼氏じゃなくても男なら誰でもいい気はしないと思うんだけど」

「これは先が長くないな…」と青年は思いました。「ディケンズの分解メス」を使って未来予測するまでもなく、近い未来に彼女は恋人と別れることになるでしょう。

この時点で、その未来は限りなく確定的だったと言えます。余計なコトさえしなければ…

でも、彼女の恋のお相手は余計なコトをしちゃうタイプだったんです。それも、信じられないレベルで!

青年は思いました。

「これは告白するしかないな。しかも、結婚するしかない!プロポーズしよう!」って。

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ヘイヨー
noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。