マンガ審査会と卒業制作

年末の年賀状印刷代行サービスのアルバイトを終えて、青年は再びマンガの学校に戻りました。

学校では「マンガ審査会」の日が近づいています。いろんな出版社の人たちがやって来て、マンガ科の生徒たちが描いたマンガの原稿を見てくれるのです。

時間がないので、今回は4コママンガでいくことにしました。アイデアから、ネーム、ペン入れまで1人でやりましたが、枠線だけ海村さんに引いてもらいました。

海村さんは、用もなくよく青年の4畳半の狭い部屋に泊まりに来ていました。ここから学校に通う方が近いし、海村さんは寂しがり屋だったからです。


マンガ審査会の当日。

青年は、適当に仕上げた4コママンガ「三郎の一日」を持って学校に向かいます。主人公である三郎の家に、ある日突然ヘンリーという外国人がホームステイにやって来て、いろいろ起こるといった内容です。実験的にエロネタなんかも混ぜてみました。

絵は超テキトーでしたが、ネタの数は28本とまずまずの数です。

ところが、審査会では大手の出版社の前には長蛇の列ができています。このままでは作品を見てもらえるまで何時間も待たなければなりません。

「こりゃ、並んでられないな。もうおうちにかえろうかな~?」

めんどくさくなった青年は、一番並んでいる人の少ないホラーマンガの出版社の列に並びました。持ってきたのはギャグマンガであったにもかかわらず!

当然ながら、まともな評価は返ってきません。ただ、「絵のレベルが低いね」というコトだけは指摘されました。時間がなくて、1分で描いたヒツジの群れは「え?これ、ヒツジなんだ?イモムシかと思ったよ」と言われました。残念でもないし当然です。

…というわけで、青年はせっかくのチャンスを棒に振ってしまいました。もっと、まともにマンガを描いて、ちゃんと自分の作風に合った列に並んでいれば、別の道もあったかもしれないのに。

青年には、こういうところがありました。「まともなやり方で成功しよう!」という気がないのです。イノベーター気質とでも言えばいいのでしょうか?内容だけではなく、やり方にもオリジナリティを追求してしまうのです。

それが上手くハマれば、周りの人たちを出し抜いて圧倒的な差をつけてゴールすることができます。でも、歯車がかみ合わないと、とんでもない方向へ突っ走ってしまい、戻ってこれなくなってしまうのです。

もっとも、そんなトラブルすらも楽しんでしまうところが青年にはありました。北海道に向かって歩いていったのに、結果的にたどり着いたのは沖縄だったり、フランスだったり、インドだったりするのですが「ま、いっか。これはこれで楽しいし」などと自分で自分を納得させてしまうのです。


さらに時は流れ、青年は「卒業制作」用のマンガを描きます。本来なら16ページ必要なところを、全力を出し過ぎたために8ページしか完成しませんでした。最後は「次回予告」をつけて強引に終わりとしました。

しかも、内容は「マンガの学校批判」だったので、担任の先生もあまりいい顔をしてくれませんでした。マンガの学校がいかにぼったくりで内容の薄い授業で50万円をかすめ取るかを、ミュージカルシーンなどを入れつつおもしろおかしく描き、さらに東京都の行政改革の陰謀に絡めるという壮大なストーリーになるはずでした。

担任の先生は不満そうな顔をしながら、それでも卒業制作の本に収録してくれました。

これにて、マンガの学校での時代は終わりを告げます。4月からは、またもや全然違う生活を送ることになるのでした。

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ヘイヨー
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