「僕の改革 世界の改革」 第4夜(第1幕 11 ~ 12)
ー11ー
ピピピピピピピ!!!!!
突然、無気力レーダーが鳴りはじめる。
「あ、反応があった!」
リンが小声で叫ぶ。
「右ななめ前、3メートル…あの人だわ」
リンがそっと指さした先には、スーツ姿の男の人が。
でも、どう見たって、やる気バリバリのサラリーマンにしか見えなかった。
「ほんとに、あの人?」
「ええ、間違いないわ」
「でも、とてもそうは見えないよ」
「だけど、そうなの。見かけにだまされてはダメよ」
そう言われてみると、何だかやる気なさそうにも見える。
もう人生に疲れ果てて、どこへでも行ってしまいたいというような、そんな感じさえ受ける。
「で、どうするつもり?」
「近づいて、これを食らわせてやるわ」
そう言って、見えないように銃を構えながら、リンはサラリーマンに近寄っていく。
バシュッ!
銃は小さく音を発し、やる気レーザーは、敵に命中したようだった。
敵?
ほんとうに、この人は敵なのだろうか?僕には、わからなかった。
客観的に見れば、僕らはただ奇妙な行動をしている頭のおかしな人間に過ぎないかも知れないじゃないか。
「さあ、つけるわよ」
リンはそう言って、男のあとを追いかける。
「あ…待って!」
仕方なく、僕もあとを追う。
サラリーマン風の男は、喫茶店に入っていく。
「ほらね。こんな昼間っから喫茶店に入っていくなんて怪しいわ。やっぱり、やる気がない証拠よ」
「そうかな…営業の人なら、このくらい普通なんじゃないのかな?それに、やる気がないんだったら、さっきの銃、効いてないってコトじゃないか」
「そんなにすぐに効果が出たりはしないわよ。さあ、さっさと入って!」
「入るって、僕らも?」
「あたりまえでしょ。後をつけてるんだから!」
そう言って、リンは僕の手を引いて喫茶店に入っていく。
見ると、どこにでもある安くコーヒーの飲めるチェーン店の喫茶店だ。
男は注文を済ませ、席を探してる所だった。
「何でもいいから2つ頼んで。私は席を取っておくから」
そう言って、リンは僕に500円玉をひとつ渡してくれる。
「えっと…じゃあ、カフェオーレ2つ」
僕は、そう店員さんに告げる。
「ホットですか?アイスですか?」
「あ…じゃあ、ホットで」
「ハイ。では、588円になります」
僕は足りない分を自分の財布から出して、支払いを済ませた。
僕がホットのカフェオーレを持って行くと、リンはすでに席について待機していた。男のすぐ後ろの席だ。
「アラ、ホットなの?」
「いけなかった?」
「まあ、いいわ。それより、あの男。すぐ前の席よ」
リンが小声でそう伝える。
「悠長にコーヒー飲んでるみたいだね…仕事中だろうに」
「そうね」
それから、しばらくの間、僕らは男を観察した。
だが、20分経ち、30分経っても、何も変化は起こらなかった。
「何も起こらないみたいだよ」
「そうねえ…」
「どうする?」
「もうしばらく様子を見ましょう」
それからまた30分が過ぎたが、やはり変化はなかった。
「もう我慢できない!」
そう言って、僕は立ち上がった。
「ちょ、ちょっと…何するの」
僕はリンが制止するのを振り切って、ズンズンと男の前まで歩いて行った。
そして、こう言った。
「あの、すみません。ちょっとお話したいことがあるんですけど」
ー12ー
「はい、なんでしょうか?」
サラリーマン風の男が答える。
「ここ、いいでしょうか」
「ああ、構わないが」
そう言って、僕は男の前に座る。
「仕事中にコーヒーなんて飲んでてもいいんですか?」
「話したいことというのは、そのコトかな」
「そうです!」
「仕事中…に見えるかね。君にも」
「見えます!」
「その通り。私は仕事をさぼって喫茶店でコーヒーを飲んでいる。それが何か?」
「あなたは『無気力生物』なんですか?」
「無機…なんだって?」
「無気力生物!」
「なんだね、その無気力生物というのは」
「何もかもからやる気がなくなって、何もしなくなる人たちのコト」
「なんで、そう思うんだい?」
「リンがそう言うんです」
「リン?」
「彼女です!」
そう言って、僕は後ろの席に座っているリンを指差す。
「え!わ、わたし!?」
仕方なくリンも僕の隣に来て座る。
「で、無気力生物とは一体なんなのだね?」
「はい…ですから、何もかもからやる気がなくなって、やがては何もしなくなるという…」
リンが、たどたどしく答える。
「それで、どうして私がその無気力生物だと?」
「それは…この機械で…」
そういって、無気力レーダーを取り出し、テーブルの上に置くリン。
ピピピピピピピ~
レーダーは、男の人に反応して音を発する。
「ほら…ね」
「フ~ン…なるほどね」
男は、興味深そうに機械を見る。
…と、突然、レーダーは鳴るのをやめた。
「アレ?どうして?」
「銃の効果が現われてきたのかな?」
「銃?」
男の人が、またもや尋ねる。
「そうです。この銃であなたを撃ったから。だから…」
「これで?私を?」
「そう、これは『やる気レーザー』やる気照射装置を小型化したもので…」
「ちょっと見せて!」
そう言って、男はリンから銃を奪って、楽しげに眺める。
「なんだか、わからないけど…生きるのが楽しく思えてきたよ。君たちのおかげでね。ありがとう」
「そんな…僕たちのせいじゃなくて…」
「よしッ!それじゃあ、やる気も出てきたし、会社に帰ってバリバリ働くかな!」
そう言って、男は去っていった。
「何はともあれ、実験は大成功ね」
「そう…なのかな?」
喫茶店から出るまぎわにリンが言った。
「あなた、勇気あるわね」
noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。