「僕の改革 世界の改革」 第46夜(第7幕 18 ~ 22)
~18~
さて、そろそろ最後の戦いが近づいてきたようだ。僕はもう1度『彼女』に会うため、旅に出た。目指すは『白き夢』の神殿。
旅の途中で、巨大な宮殿の前を通りかかる。
「もしかしたら、今夜ひと晩、泊めてもらえるかもしれないぞ」と思い、僕は宮殿の中へと入っていった。
そこにいたのは実に意外な人物だった。
~19~
宮殿に住んでいたのは、かつての『死にゆく詩人』であった。そして、詩人を側で支え続けていた女性。
死にゆく詩人は、1度消滅し、再びこの世界へと舞い戻って来ていたのだ。
「消滅した人間が復活する…そのようなコトもあるのか」と、僕は不思議に思った。
それにしても、森の中のみすぼらしい小屋に住んでいたあの2人が、どうしてこんな豪華な建物に住んでいるのだろうか?
僕の疑問には、宮殿おつきの召使いが答えてくれた。
「我があるじは、昔はボロボロの山小屋に住んでおり、それはそれは苦労したそうでございます。それが、今や世間に名を成す大詩人!努力されたのでございますなぁ」
極貧の時代を耐え、無気力生物化しかけていた死にゆく詩人は、今や『大詩人』となったのだ。
~20~
詩人は大金持ちであったので、こころよく僕を宮殿に泊めてくれた。広く清家なゲストルームを与えてくれ、何不自由ない環境で心底からくつろぐことができた。
もっとも、僕としてはボロボロのみすぼらしい山小屋でも構わなかったのだが…
翌日、宮殿では大勢の人々を招いて、パーティーが開かれた。
大詩人は、名前屋を呼び寄せ、自分の詩と交換に新しい名前を手に入れようとしていた。今日は、ちょうどそのお披露目パーティーの日だったのだ。
大詩人に向かって、名前屋は語りかける。
「では、お約束通り、名前と交換に詩を1編いただきましょう。はてさて、どのような詩をいただけるのやら…」
そうして、詩人は口を開いた。
~21~
『戦闘準備完了の詩』
さあ!戦いの準備は整った!戦闘準備完了だ!
世界中の人間どもよ、かかってこい!
我は詩人!大詩人なるぞ!どのような力を持とうともねじ伏せる!
この言葉の力で!
権力者であろうが、世界一の金持ちであろうが、革命家であろうが関係ない!
情熱!根性!魂!やる気!やる気があれば、なんでもできる!
ありとあらゆる言葉を操り、いかなる力もねじ伏せる!
武器庫には武器も兵器も満載だ!
剣に槍に弓矢に銃!
火炎放射器、ミサイル、戦車、なんでもござれ!
言葉という名の武器兵器。
ありとあらゆる言葉にアイデア。
想像力に感性を駆使し、いかなる敵も粉砕だ!
~22~
「ブラボー!ブラボー!素晴らしい詩です!」と、名前屋は褒めたたえる。お披露目パーティーを訪れていた豪華な衣装に身を包んだ客たちも、あとに続いた。
無気力であったかつての詩人はどこにもおらず、眼前に立っているのは気力に満ちあふれた1人の男であった。
けれども、詩人の世話をし続けていた女性は、それを聞いても不満顔だった。これほどの宮殿に住みながら、彼女は幸せそうには見えなかった。
「あの人は変わってしまったわ。昔は、私を必要としていた。今にも死にそうで、気力も尽きかけていたけれど。いえ、だからこそ、私が支えになってあげられた…」と、彼女はつぶやく。
「でも、今は違う?」と、僕は問う。
「そう、今は違う。私がいなくても褒めてくれる人はいくらでもいる。支えてくれる人もいくらでもいる。もはや、私は必要とされていないのだわ…」
女性は寂しそうに、そう答えた。
それから、僕は詩人の新しい名前も聞かずに宮殿を去った。