「僕の改革 世界の改革」 第6夜(第1幕 17 ~ 20)
ー17ー
今度の作戦は、かなり大がかりなものだった。
大学に潜入して、生徒から教師から、学校関係者の全てを無気力生物の魔の手から救い出すのだ。
そのために校内の状況を調べる必要があった。
僕とリンは、学生に扮して大学に潜入する役割を命じられた。
僕らは、学生のフリをして大学の講議を受けることになった。
何度か授業に出席したが、講議の内容はというと…まったくもって退屈なものだった。
生徒も教師も、どうしてこんなコトをやっているんだろう?
「ああ〜あ、退屈だな。どうしてこんなコトしてるんだろう…」と、まるで僕の心をのぞいていたかのようにリンがつぶやいた。
リンは続ける。
「みんなの声が聞こえるの。みんな、そう思ってる。自分がなぜここに存在しているかさえわかっていない」
「声が…聞こえる?」と、僕は問い返す。
おかしなコトを言うなあ〜と思ったけれど、リンならば、そういうコトができるのかも知れない。そうも思った。
この子は、どこかそういう不思議な所がある。
数日後、僕らは新たに開発された『気力発生装置』を学校中にしかけた。
そして、発動させた。
任務はうまくいった…
しかし、1つ問題が起こった。約束の場所にリンが来ないのだ。
深夜2時に校内の時計台の前で待ち合わせのハズだった。
時計台の時計が2時の鐘を鳴らした。だが、リンは現れなかった。
ー18ー
ボーン ボーン ボーン
3時の鐘が鳴る。
リンは、まだ来ない。
古風な時計だな…と思う。
こんな大学に、こんなものがまだ残っているんだな。
先に帰った方がいいかな…
そうも思ったが、やはり待つコトにした。
もしかしたら、こんな所でボンヤリしていたら、敵に捕まってしまうのかも知れないけれど…
時間は、ゆっくりと過ぎていく。
こんなにゆとりを持っていられるのは、ひさしぶりだな…
このままどこかに行ってしまうかな。リンと一緒に…
リン?『リン』だって?
『彼女』は、どうしたんだ!?
そうだ!そういえば、忙しさの内に彼女のコトなどすっかり忘れてしまっていた!
僕にとっての『彼女』とは、一体、何なのだろうか。何だったのだろうか。
あるいは、もはや役割を終えてしまったというコトなのだろうか…
そして、僕らの敵って、一体何なのだろう?
ほんとうに敵なんてものが存在しているのだろうか?
僕には未だに信じられない。
『あなたなら、世界を変えられるわ』…か。
僕はキャンパスの景色を眺めながら、リンのセリフを思い出していた。
世界を変えるって、一体、どういうコトなのだろう。
今の僕にそんな力があるだなんて、到底信じられない。
いや、いつまで経ったって、そんな力わいてきはしないように思えた。
僕はただ、あたりまえに、ただ普通に生きてきた平凡な人間だ。そんな人間に何かができるだなんて、とても思えない。世界を変えるどころか、何1つ変えられるものなんてありはしないんじゃないだろうか?
そんな風にすら、思えてくる。
いろいろな思いが浮かんでは消え、浮かんでは消えていく。
そうして、また1時間が過ぎた。
ー19ー
ボーン ボーン ボーン ボーン
時計台が、4時の鐘を鳴らす。
遠くに人影が見え、ゆっくりとこちらに近づいてくる。リンだ。
「ごめんなさい」
「遅かったね…」
「先に帰っていてくれればよかったのに」
「そうはいかないよ」
「どうして?」
「だって…」
「だって?」
「いや…だって、大切な仕事仲間じゃないか」
「仕事仲間…それだけ?」
やれやれ、こういうのは苦手だな。
こういう時にやさしい言葉の1つもかけてあげられれば、女の子は喜ぶのだろうけれど…
『彼女』は、そうじゃなかった。こんなではなかった。
何も言わなくても、僕の気持ちはわかってくれていた。
彼女は…?
もしかしたら、そうではなかったのかも。彼女『も』ほんとは同じで、人並みにやさしい言葉をかけて欲しかったのかも。僕が…それに気づかなかっただけで。
だから、彼女はいなくなった?
姿を消した?
そういうコトだったのかな…
ー20ー
僕らが基地に帰ると、基地は大騒ぎになっていた。
大学で発動させた『やる気発生装置』の効果が現れないのだ。
何が原因かは、まだわからないようだ。
かなり大規模な作戦だったし、何らかの不備があったのか?
それとも、大学でリンがいなくなったコトと、何か関係があるのだろうか?
とりあえず、僕らは次の指令を待った。
ところが、次の指令は出なかった。
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