「僕の改革 世界の改革」 第22夜(第3幕 18 ~ 25)
ー18ー
目が覚めると、そこは見覚えのある場所だった。
「どこだったかな?」
そう考えていると、リンが声をかけてきた。
「隊長、次はどうなさいます?」
ああ…そうだ。ここは、僕らの基地だ。でも、何か言いようもない違和感に襲われた。
「何かが違う…」
夢の中の僕は、奇妙なマスクをかぶっているのだ。まるで『本当の自分』を隠すための仮面のごとく。
そして、気づいた。
「ここは夢の世界なのだな」と。
だって、頭の中で『部屋で聞いていた曲』が繰り返し鳴り響いているのだから。本物の僕は、今も自分の部屋で同じ曲を聞き続けているのだろう。
それでも、僕は夢の世界の住人たちにつき合ってあげることにした。現実の世界に戻るよりはマシだと感じたからだ。
そんなコトをするくらいならば、この夢の世界で生き続けた方がいい。
ー19ー
「ホーとマンガンはどうした?」と、隊長である僕は尋ねる。
リンは不思議そうな顔をして、こちらを眺めている。
「大木さんは?シノザキ博士は?」
「あの…」
「何?」
「誰ですか?その方たちは?」
「ハヘ?」
そう言われてみれば、何か不自然だ。
そうだ!リンの喋り方だ。それにリンの態度も。どこかヨソヨソしい感じがする。でも、まあ…夢の中の世界のコトだ。いろいろと現実とは食い違いもあるだろう。
そこで、僕は夢の中のリンに『これまでの話』を聞かせてやった。
ー20ー
「おもしろい話ですね」
僕の話を聞き終えて、リンはそう言った。
「でも、夢の話なんだよ…あ、いや、夢はこっちか」
「では、私も夢の中の登場人物?」
「そういうコトになるね」
「ほんとうに?」
「ほんとうに、さ」
「どうしてそう断言できるんですか?」
「どうしてって…そうだな。たとえば、君の話し方さ。現実の君は、そんな風な喋り方はしなかった」
「それは、そうかも知れないですけど…だからって、私が偽物だなんて決められないでしょう。もしかしたら、ここが現実の世界で、これまであなたが見ていた方が夢の世界かも知れないじゃないですか」
「まるで、荘子だな」
「ソウシ?」
「そうさ。昔の中国の思想家だよ。『自分が蝶になった夢を見て、あまりにもそれが楽しかったものだから、それが夢か現実かわからなくなってしまった…』っていう詩を残した人さ」
「それで、その人はどうしたの?」
「どうしたって?」
「夢と現実がわからなくなってしまって、その人は、その後どうやって生きていったの?」
「どうもしないさ。ただね、彼はこうも言っている『夢は夢として楽しめばいい。現実は現実として生きていけばいい。どちらかに片寄る必要はないんだよ』って」
「それで、あなたはどうするの?あなたにとって、どちらが現実なの?」
「どっちだっていいさ。僕はこれからも、この世界で生き続けるから。どっちにしろ向こうに戻りたくはない。だから、こちらの世界が夢だろうが現実だろうがどっちでもいい」
「そう。よかった♪」
そう言って、夢の中のリンは笑った。
ー21ー
それから、ホーと出会い、マンガンと出会った。
最初会った時、彼らには名前がなかった。だから、僕は名前をつけてやった。どうせ夢の中だ。好き勝手しよう。そう思った。
2人は、僕が会った2人にそっくりだった。
それで、太っちょの方を『ホー』、チビの方を『マンガン』と名づけた。
だって、彼らはそういう名前だったのだもの。僕が向こうの世界で出会った2人は。
そして、僕は自分のコトを『僕』とは言わなくなった。
「隊長がそれではおかしいだろう。自分のコトを『僕』だなんて」と、リンが言うのだ。
それから、僕は自分のコトを『私』と言うようになった…
ー22ー
そして、僕は、昔の僕に出会った。
ドン!…と、肩がぶつかる。
僕は、彼に向かってこう言う。
「来たまえ、我々の秘密基地に案内しよう」
彼は、何も知らずについて来る。
黙っている彼に向かって、僕は説明する。
「ここは、どんどん奴らに占領されているんだ」
「奴らって、誰?」
「『無気力生物』達さ」
「無気…力?」
最後に、僕はこう言った。
「私のことは『隊長』と呼びたまえ」
そこから先は、同じだった。
ー23ー
なんとか止めようとしたが、ムダだった。
時は進み続け、運命は決められたシナリオを語り続けた。
僕は青ざめた。
「これは、夢の中の出来事ではなかったのか!?」
これじゃあ、まるで…
そうだ!
昔、僕が感じた思いは、これだ!やっぱり、僕は隊長だったんだ!!
いや、隊長が僕だったと言うべきか?
そんなコトは、どちらでもいい…
それよりも、僕はどうなってしまうのだ?
ー24ー
現実の世界の僕は、部屋の中で今も同じ曲を聞き続けているはずだ。
ここは夢の中の世界…なのに、なぜ僕は昔の僕の記憶と同じ行動を取り続けているのだ?
やはり僕は隊長で、隊長は僕で。そして、思い出は繰り返すのだろうか?
それは、誰にも止められない?
思い切って、そのコトをリンに話してみた。
すると、リンは意外なセリフをはいた。
「ええ、知っていたわ。だって、私はもう何度も、この記憶の中の世界を回り続けているのだから…」
ー25ー
リンは、続けてこう言った。
「ごめんさい。ほんとうは何もかもわかっていたの。知っていたのよ…」
「そんな…」
「あなたと出会うコトも、あなたが無気力に陥るコトも。そして、永遠に運命が繰り返し続けるコトも…」
「だけど、運命は変わるだろう?」
「運命は変えられない。でも、あなたには、あなたの役割があるわ。あなたは、世界を変える。そういう運命なのよ」
「なぜ、わかる?君は、ここから先は知らないはずだろう?」
「そうね…でも、わかるの。だって、あなたは…いえ、それはいいわ。それは、この世界では関係のないコト」
それでも、僕は必死になって、運命を変えようとした。
でも、結局はムダだった。
昔の僕は、リンと共に街へ出かけ…
僕は、昔の僕とリンを叱りつけ…
そして、2人は恋人になる約束を交わした。
最後に、僕は学校に向かった。深夜の大学の校舎へと…
noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。