「僕の改革 世界の改革」 第35夜(第5幕 26 ~ エピローグ)
ー26ー
しばらくの間は何もなく過ぎていった。
『何もなく』という表現は間違っているかも知れない。人々は以前と同じように…あるいは、以前にも増して忙しく動き回り働いた。
新しく制定された法律により『無気力生物』と呼ばれる人々は、一定の区域に隔離されるようになった。そこで静かに暮らすのだ。
世界は完全に二極化していった。『忙しく動き回る者』と『全く動かない者』とに。
でも、僕にとっては、それらは何もないのと同じだった。忙しく動き回る人々も、激変していく世界も、僕の心には全く響かない。まるで、遠い世界の別の出来事のように思えて仕方がなかった。
たとえ、コレが『世界の改革』であったとして、自分自身の心の改革『僕の改革』だとは到底思いようがなかった。
そして、僕の中の不安が現実に目の当たりにされる日がやって来る。
ー27ー
ふと気がつくと、配下の者が命令を待っている。
「命令をお願いします!!」
その下の部下が、次の命令を待っている。
「次は何をやればいいんですか!?」
そのまた下の部下が、その次の命令を。
「どんな命令でも間違いなくこなします。早く次の命令を!!」
延々と同じコトの繰り返しだった。常に誰かが誰かの命令を待っている。命令されたコトは確実にこなす。たとえ失敗したとして、代わりに別の誰かがその任務をこなすだけだ。代わりはいくらでもいた。
どこかでやる気を失って、途中で挫折していく者たちもいる。そんな者たちは『無気力生物たちの街」へ送られ、欠けた部分は即座に埋められる。壊れた機械の部品を交換するのと同じだった。
人々は虚ろな目をして叫んでいた。
「命令を!命令を!次の命令を!!」
全ての人間がそうであった。ここに存在する全ての人間が。そうでない者はここから排除される。ここはそういう世界だ。人々が望んで、そういう場所に作り上げたのだ。完璧なシステムだった。そして同時に…
ー28ー
人々は日々せわしく動き続ける。そこに意味があるかないかなど関係なく。ただ、目の前の命令に従って。目の前にある任務をこなすために。
それが全てだった。それ以上に必要なモノなどありはしなかった。それどころか、そこに疑問を挟む余地などなかった。そもそも、そんなコトを考える暇すら存在しなかったのだ。
「『生きている』と言えるのだろうか?この状態で?」
コレでは、まるで…
そう!この光景は僕が住んでいた街の光景じゃないか!!無気力生物に支配されてしまったあの街の!!
どういうコトなんだ!?無気力から救ったはずの人々が、無気力生物になってしまうなんて…
自らが忌み嫌った存在に、自ら支配されるコトを求めるだなんて…
ー29ー
その瞬間、僕の頭の中で色々なモノがつながった気がした。まるで、バラバラだったパズルのカケラが一瞬にして組み合わさったかのように!
そうか…
そういうコトだったのか…
彼らは無気力生物なんかじゃない!!彼らは気力を追い求め過ぎてしまったがために暴走してしまった人々…いわば『やる気過剰人間』なんだ。だから、あんなに虚ろな目を。生きるコトに集中し過ぎたがゆえに、生きるコトを失ってしまった人々…
なんと皮肉なお話なのだろうか。
そして、僕が作り出してきたのは、そういった人々だったんだ!!
ー30ー
コレが常につきまとってきた『不安』の正体。僕が行動し続けて来た結果生まれたモノ。
人々はやる気に満ち過ぎて、逆に自ら考える意思を失ってしまったのだ。
でも、だとすれば、僕はどうすればよかったのだろうか?
気力を失ってもダメ。
かといって、やる気を持ち過ぎてもダメ。
じゃあ、一体、どうすればよかったのだ?
世の中は難しい。
常にバランスを取りながら生きていければ、それが理想なのかも知れない。
でも、こんな世界で果たしてそれが許されただろうか?
結局、『現実に生きていくというコト』は、何かに取り込まれてしまうというコトなのかも知れない。巨大な組織や、誰かの意志や、世の中の仕組みそのものに。
それがイヤならば、やはりこの世界が決めたシステムから逸脱して生きていくしかない。たとえ、それが『無気力生物』としての生き方でなかったとしても。それでも…
ーエピローグー
僕は人々の意志に従って革命を起こした。
だが、それは本当の革命ではなかったのだろうか?
コレはリンの言っていた『世界を改革する』というコトではなかったのだろうか?
何もわからないまま、僕は生きる。生き続ける。
ただ、「このままこの場所に居続けてはいけない」という思いだけは存在していた。それだけはハッキリとしていた。
僕は新たな決意を胸に進み始めた。
~ 第5幕 完 ~
noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。