太陽みたいな人かと思ったら月みたいな人だった
「もう~!なんで、あんなコト言っちゃったんだろう!」
青年は、布団の上で枕に顔をうずめて、足をジタバタさせて後悔していました。
せっかく、あの人が心配して電話をかけてきてくれたのに、「なんで、もっと早く電話してくれなかったの!」などと言って冷たい態度を取ってしまったからです。
「今度こそ本格的に嫌われちゃったかな…」
青年は部屋の中、ひとりでつぶやきました。
この姿を見てれば、あの人も「かわいい人だな~」と思ってくれたかもしれません。でも、彼女が見ているのは冷たい態度だけ。青年の表面的な部分だけなのです。
これでは勘違いされても仕方がありません…
ところが、ボランティアで会うと、やっぱりいつものようにニコニコしているのです。いや、ニコニコしている時もあるし、そっけない態度の時もあるし、徹底的に無視されちゃう時もあります。
しかも、無視されてる時にも「ほんとに怒ってる時」と「ほんとは好きなのに男性として意識してしまって無視しちゃう時」があるのです。
そして、今がどっちなのか全然見極められないのでした。
初めて会った時、青年はあの人のコトを「太陽みたいな人」だと思っていました。いつも子供たちと一緒に仲良く遊んで、聖母みたいにニコニコ笑ってばかりいたからです。
でも、長く一緒にいるに従って、段々と別の面が見えてきました。実は太陽ではなく「月みたいな人」だったんです!
怒ってる時もあれば、笑ってる時もあります。楽しそうにしてる時もあれば、機嫌が悪い時もあります。それも、青年が原因のこともあれば、全然関係ない理由の時もあるのです。コロコロ感情が変わっちゃうんです!さっきまでの感情と、今この瞬間の感情が全然違うということもよくありました。
それって当たり前の話なんです。だって、相手も「ひとりの女性であり、ひとりの人間」なのですから!青年の中の理想像が大きく膨らみ過ぎて、そう思えなくなっていただけで。
そして、彼女の方も同じように考えているのです。青年を神様みたいに信頼し、理想がどんどん大きくなっていって、ちょっとでも理想に合わないと途端に幻滅してしまいます。
お互いがお互いを理想視し、要求は過度になっていき、「現実の人間である」ということを忘れてしまうのです!
ある意味で、それって理想的な関係です。だって、「お互いがお互いに尊敬し、信頼し、成長し合える仲」なのですから。
そう!青年が少年時代より夢見続けてきた理想の関係!
でも、それって結構疲れちゃうんです。人が成長するには膨大なエネルギーを消費します。現状維持は簡単なんです。でも、変わり続けるのは大変!まして、自分の理想ではなく相手の理想に合わせるのは、もっと大変!ヘトヘトに疲れ果ててしまうのです。
もちろん、それだけの価値はありました。エネルギーを消費し、疲れ果ててしまう代わりに、「短期間にとんでもない成長を遂げること」ができたのですから。
時間的にも物凄く充実しています。あの人と会っている時間(あるいは、会っていない時間も含めてあの人と関わっている時間)は、それまでに比べて何倍にも感じました。わずか1週間が1ヶ月分の価値を持ち、1ヶ月は半年や1年に匹敵します。
でも、やっかいなコトには違いないんです。
あの人と出会うまで、青年は「常に先を見て行動すること」ができました。イノベーターの能力を使って、人や世界の根本を見つめ、上辺の情報に惑わされずに「ほんとに大切なこと」に没頭することができていました。
ところが、そのやり方で浜田君に彼女を取られてしまったのです。それにより青年の中のコンピューターが狂ってしまいました。深層心理や根本原理を見つめるのをやめ、彼女の一挙手一投足に注目し、表情から心理を読み取ろうとし始めます。
つまり、顔色をうかがうようになったんです!
これでは、せっかくの青年の能力も役には立ちません。「マスター・オブ・ザ・ゲーム」も「ディケンズの分解メス」も本来の能力を発揮できなくなり、トチ狂った指令ばかりを出すようになっていきます。そうして、ますますあの人の信頼を失うということを繰り返しました。
「悪循環」というのは、こういうコトを言うのでしょう。