「僕の改革 世界の改革」 第43夜(第7幕 6 ~ 10)
~6~
世界は異様な熱気に包まれていた。僕のあとを継いで国王になった人物が、さらに『やる気促進』を進めたからだ。
「やる気のある者は、いくらでも出世させる!そうでなければ去れ!」
国はそのようなスローガンを掲げ、人々はさらに情熱をたぎらせていく。新聞もラジオもテレビも、日々、人々の熱狂をあおり立てた。
新国家の政策に波長が合った者は、際限なく作業に没頭していく。その作業に意味があるかないかなど関係なく。とにかく、手を動かし身体を動かし続けるのだ!
逆に、周りの熱気についていけなくなった者たちは、次々と脱落していった。
「もういいよ」
「さすがに疲れた…」
「こんなコトに意味はない。だって、どんなに懸命にがんばったところで、終わりなんて来ないじゃないか」
「際限なく努力する日々は虚しいだけ。こんなコトなら、何もせずボ~ッと暮らした方がまだマシだ」
終わりのない『やる気合戦』に疲れ果てた人々は、無気力化し、どこへやら消えていった。
その多くは『無気力生物たちの街』を目指す。そうでない者たちは『白き夢』の信仰に従って、この世界そのものから消滅していくのだった…
~7~
『やる気充実人間』たちは、今日も動き続ける。意味があるのだかないのだかわからない作業に没頭し、ひたすら走り回ったり、荷物を運んだり、研究に熱中したりしている。
脱落者の数も日に日に増していた。『無気力生物たちの街』は1つでは足りず、次から次へと新設されていく。今や、世界各地に第2第3の無気力シティが誕生している。
僕は、そんな世界を遠くからただ見守るだけだった。
僕にできるコトといえば、無気力化した親に見放された子供たちの世話をしてやるくらい。かつて、『彼女』が無気力生物たちの世話をしていたように。
アレから何年もの時が流れてしまっていたが、今になって、あの頃の彼女がどういう気持であったのか理解できたような気がした。
もしかしたら、僕はあの頃の彼女を手伝うべきだったのかも知れない。だが、そうするにはあまりにも長い時間が経過し過ぎていた。何もかもが手遅れだ。今は、彼女は『白き夢』のリーダー。白き夢そのものとなってしまっているのだから…
~8~
そんなある日、一筋の希望が見えた。
無気力化した母親の1人が戻って来たのだ。
「ごめんなさい。私どうかしてたわ。こんなに大切な子を置き去りにして、何も手がつかなくなってしまうだなんて…」
そう言って、母親は自分の娘を引き取って去っていった。
時が経つにつれ、そのような母親や父親がポツリ、ポツリと現れるようになった。無気力化した人の中にも、やる気を取り戻す者がいるのだ。
かつてほどではないにしろ、それなりのやる気を取り戻して、そこそこがんばりながら生きていく。そういうコトができるようになった者たちが。
~9~
無気力化から回復する親が増えていくに従って、子供たちの面倒をみてくれるスタッフも増えていった。その中には、かつて無気力生物と化した人たちも何人もいた。
自分がつらかった時代に世話をしてくれた恩返しをしようというのだ。
「ここは、もう大丈夫だな…」
それを確認し、新しいメンバーたちにあとをまかせて、僕は再び旅に出た。
~10~
旅の途中で、地平線の果てから真っ黒な土煙が上がっているのが見えた。
「何ごと!?」と、最初は驚いた僕だったが、数時間も経つと砂煙の正体がわかってきた。それは、人の大群だったのだ。
何千人、何万人という人の群れが、地平線の果てからこちらに向かって歩いて来る。
砂煙を上げながら迫って来る行軍は、やがて1人1人の姿がハッキリと確認できる距離まで近づいてきた。
noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。