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映画撮影を始めてはみたものの…
さて、海村さんが声をかけて始まった映画撮影。マンガの学校も夏休みに入り、いよいよ撮影が本格化してきました。
…とは言っても、脚本も何もないのです。
海村さんは自分で監督をやりたがり、ストーリーも自分で考えると言います。典型的な「オレ様キャラ」なのでした。
まあ、それはいいとしても、実際には脚本なんてあってなきがごとしです。その場のノリで適当にシーンを作っては撮影していき、あとから適当にくっつけるという方式。行き当たりばったりなのです。
撮影場所には青年が住んでいる4畳半の部屋も使われました。隣に住んでいるケン兄貴を呼び出し、入り口の「梁(はり)」の部分で懸垂をやってもらったりします。
ケン兄貴は性格もやさしく、普段からトレーニングも積んでいたので、ノリノリで協力してくれました。
今度は尊師の家に移動して、別のシーンの撮影です。
ちなみにビデオカメラは、海村さんが持ってきた物を海村さん自身が使って撮影しています。監督兼シナリオライター兼カメラマンというわけです。
尊師は顔が濃いので、メインキャストの扱い。探偵として謎を解決していくといった役どころです。股間に秘密の地図が隠してあり、「な、なんと!こんな所に秘密の地図が!」とか言いながら、股間のチャックを開けて地図を取り出します。
何か困ったことがあれば、ドラえもんの四次元ポケットのごとく股間から物を取り出すのでした。
そこにキザオくん扮する怪しい営業マンがやって来て、一悶着ある…とか、確かそんなようなストーリーだったと思います。
なんにしても海村さんは行き当たりばったりなのです。その場の雰囲気で「おもしろいコト」を考え出すのは得意でしたが、ストーリーらしいストーリーはないようなものでした。
きっと、ストーリーテラーというよりかは演出家に近い才能の持ち主だったのでしょう。
散々好き勝手やっている内に、ついに主人公である尊師がブチ切れてしまいました。普段は温厚な尊師が激怒したことに、みんなビックリします。
「ぼ、ぼ、ぼ、僕はこんなコトがやりたくて東京に出てきたわけじゃない!もう降ろさせてもらう!」
メインキャストである尊師がいなくなっては映画撮影は続きません。しかも、主な撮影場所を尊師の住居にしているので、そういう意味でも困ってしまいます。
怒り心頭の尊師をなだめようとみんな必死です。でも、プンスカプンと頭に血が上った尊師をクールダウンさせるのは骨が折れました。
どうにかこうにか撮影は続行されたものの、その後もグダグダな状況が続き、結局、映画は最後まで完成されることなく、なんとなくお蔵入りになってしまいました。
*
さて、マンガの学校の方ですが…
こちらも思った風に上手くはいきませんでした。なにしろ学校は「自習の時間」が多いのです。最初の3ヶ月くらいは、いろいろとマンガを描くための基本技術を教えてくれたのですが、それが終わると「各自でマンガを描いてください」と言われるばかり。
ここで張り切って自作のマンガを描き、先生に添削してもらえるような生徒はよいのでしょうが、青年はそういうタイプでもありませんでした。
「学校に通えば、いろいろな技術を教えてもらえる!」と思い込んでいた青年は、むしろ失望すらしていました。
「こんなコトだったら、『マンガの描き方』って本を1冊購入して、部屋でひとりでコツコツマンガを描いて、勝手に編集部にでも持っていけばよかった…」
そんな風に考えるようになっていました。
それでも、いくつかいいコトもありました。
1つは、ちばてつや先生が学校にやって来て「あしたのジョー」の制作秘話などを語ってくれたコトです。「これだけで50万円くらいの価値はあったかもしれないな…」とさえ考えました。
それから、学校で無料の映画チケットを配っていて、試写会を見に行けたことです。同じクラスで隣に座った背の低い太った女の子と一緒に見に行きました。相手の方は明らかに好意を持ってくれていたようでした。
でも、特に恋愛に発展することもなく、そのまま終わってしまいました。
そんなこんなで月日は過ぎていきます。
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