トラックの荷台でおしっこする話
九州まで往復の道のりを乗せてくれたおじさんと別れると、あらためて青年はヒッチハイクで東京まで乗せてくれる人を探し始めました。
しかし、今度はうまくいきません。
最初の時は1発で声をかけた人に乗せてもらえたのに(結局はスタート地点まで戻って来たけど…)今度は何度やってもダメなのです。心がなえてしまったせいでしょうか?
しょうがないので、青年は戦法を変えることにしました。そうして、止まっている車のナンバープレートを1台ずつ見ていって、「東京」と書いてあるものを探し始めました。
いくつか東京のナンバープレートの車を発見すると、そこから吟味して1番荷台の広いトラックへと乗り込みました。そうして、荷台に寝っ転がって運転席から死角になっている場所に隠れました。
「もし、見つかった時は『ごめんなさい』って言って、さっと降りればいいか」と安易に考えていました。
しばらくすると、青年の目論見通り、運転手は全く気づかずトラックを発進させました。
*
高速道路を(文字通り高速で)走るトラックの荷台に寝っ転がり、青年は星空を見上げます。上空をビュンビュンと物凄いスピードで照明灯が次から次へと通り過ぎていきます。
「へ~、高速道路を走る自動車って速いものなんだな。ちょっと怖いな…」と思いました。
そっと周りを見渡すと、小型のブルドーザーのような重機が載っています。これなら、ずっと寝転がっていなくても運転席から見えないように座ることもできるかもしれません。
青年は寝転がってビュンビュンと通り過ぎていく灯(あかり)を眺めながら空想にひたりました。
「伝説の悪魔マディリスも、若い頃はこのような旅をしたのだろうか?」などと考えたりもしました。
ところが…
しばらくすると、1つの大きな問題が発生してきました。もよおしてきたのです。つまり、おしっこに行きたくなっちゃったんです!
「これは困ったな。さすがに発車したばかりだし、しばらくどこのサービスエリアに止まることもないだろう。かといって、あと数時間このまま耐えるのは不可能だし…」
イノベーターの能力を使うまでもなく、結論は1つしかありませんでした。ここでするしかありません!
「荷台からちょっと乗り出して高速道路に放尿しちゃおうか?でも、さすがにそれだと運転手さんにバレちゃうよな~」
おしっこを我慢しながら考え続けます。
「どうにか上手い具合におちんちんだけ出してできないかな~?」とも想像してみましたがちょっと無理そうです。
残りは手持ちのペットボトルにしちゃう手でしょうか?これだったら、こっそり自動車の後ろに捨ててしまうことも可能かもしれません。
でも、水分補給は500mlのペットボトルだけが頼りでした。大事に飲まなければなりません。もし、このままどこにもたどり着かず12時間くらい走りっぱなしだとしたら?
それは死を意味します。それだけはできません。
…というわけで、必然的に最後の手段を強行することに決めました。
ジョジョジョジョ~と、トラックの荷台をトイレ代わりにしてしまったのです。
「運転手さん、ごめんなさい。でも、水たまり1つできてていても『雨でも降ったのかな?』って思うだけだよね」
そのようにポジティブに考えて、青年はやり過ごしました。
それから、自分が作った水だまりで濡れないように、荷台の反対側に寝転がってやり過ごしました。
ほんと、広い荷台のトラックを選んでおいて正解でしたね♪
*
何時間走ったでしょうか?
気がつくと、お天道様が山の端に顔を出していました。どんどん日は高くなっていきます。
ここで青年は奇妙なことに気がつきます。なんだかトラックのスピードが遅くなってきているのです。
そうして、乗っているトラックはグングンスピードを緩めると、ついに高速道路を降りてしまいました。
「マズいな。ここはどこだろう?どう考えても、東京に到着していないことだけは確かだ。どこかのサービスエリアで1度は止まると思ってたのに、まさかそのまま高速を降りてしまうとは…」
そうこうしている内に、トラックは街中へと入ってきています。どうにかして降りなければなりません。
けれども、完全に停車してから降りたのでは、運転手さんに見つかってしまいます。勝手に乗っていたことがバレたら、何を言われるかわかったものじゃありません(自分で作った水たまりの件もありますし…)
すると、トラックが赤信号で止まりました。
「やるしかないか?」と青年は思いましたが、さすがに勇気が出ませんでした。飛び降りた瞬間に車が発進すれば、大ケガをするかもしれないのです。
迷っている内に信号が青に変わり、トラックは再びスピードを出し始めます。
2度目の赤信号、3度目の赤信号でもタイミングをうかがいましたが、ついに結構できずじまい。
「チッ!マズいな!このままだと到着地点まで行って、見つかってしまう」
そうこうしている内に、トラックは目的地に着いたようです。どこか下町の小さな古工場のような場所にやって来ました。
そうして、トラックがゆっくりとスピードを落とし、完全に停止した瞬間を見計らい…
ザッ!と青年はトラックの荷台から飛び降りました。
運転手さんが降りてくる前に、そのまま反対方向へと歩き去ると、完全に大丈夫だろうと思える距離まで離れてからチラッと後ろを振り向きました。
どうやら、全く気づかれていないようです。
「フゥ…大丈夫だったか。よかった。ところで、ここはどこなんだろう?」
ほんとに、ここはどこなんでしょうか?