「狼少年との対決!そして、魔王覚醒」
そういえば、新宿プリンスホテルには女の子が泊まっていました。
年齢は20歳くらい。キリッとした決心を固めた目をしていて、意志のハッキリしたタイプだと見て取れました。
「私は葉月(本名ではなく女優としての名前)役者になるために東京に出てきたけれども、それはあきらめてもう田舎に帰るの」と言っていました。
当時(あるいは今でも?)このような若者が夢を抱いて上京し、夢破れて故郷に帰るという光景はよく見られたものです。
ホテルの窓からは朝日が差し込み始めていました。キザオ君は安心しきったのか部屋のベッドで熟睡しています。青年は部屋にいた女の子のために早朝のマクドナルドに行って、朝マックのセットを買ってきてあげました。
そこから、数週間の時が流れます。
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あの…
実を言うと、ここから先の記憶は曖昧なのです。確か、キザオ君と一緒に喫茶店かどこかでサシで話をして「城山君がいかに酷い行為をしていたか?」という悪事の数々を暴露してもらったコトは覚えているのですが。
どうやら、その前に直接対決があったようなのです。
アブちゃんが、その時のコトを書いてくれたので、まずはこちらをお読みください。
ちなみに、アブちゃんとの出会いがいつだったかというと…
ある日、青年がキザオ君の家に遊びに行った時のコトです。駅からキザオ君の家まで歩いている時に、丸坊主のガタイのいい男の子と出会いました。柔道着を帯1本でしばり、背中にかけて背負って歩いています。昔のマンガ(「ドカベン」の序盤など)でよく見かけた光景でした。確か高校生(もしかしたら中学生だったかも?)だったはず。
青年がキザオ君の家に着くと、さっきの男の子が「ただいま~」と言って家に入ってくるのです。なんと!彼はキザオ君の弟だったのです!
まさか、このあとしばらくして2人の運命が交錯することになろうとは、いったい誰が予想したでしょうか?おそらく、当の本人たちも想像だにしていなかったはず。運命ってのは不思議なモノですね。
さらに、先ほどの対決を作者がアレンジしてリライトしてみました。
アブちゃんの書いた文章の方が迫力があって鬼気迫るものがあると思いますが、第1章(中高生地獄の死闘編)にもつながりがあるので一応書き記しておきます。
記憶が曖昧なので、あくまで「小説」としてお読みください♪
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対決の日はやって来ました。
キザオ君の家に到着した青年は客間へと通されます。相手は城山君とキザオ君のタッグ。対して、こちらは青年と「キザオ君の母親」のコンビ。
キザオ君の母親は、自分の息子にかけられた洗脳を解こうと必死なのです。
青年は確信していました。城山君に後ろ盾などなく、単独の犯行であると。ただのイタズラ小僧がちょっとばかし粋がって悪さをしただけなのだと。そんなもの、街のヤンキーが道行くサラリーマンと肩がぶつかってイチャモンをつける程度の行為に過ぎません。
それと同時に、青年は自分が平凡な人間であると知っていました。何の力もなく、世間的に見れば単なる落伍者であるということも。
ただし、戦闘している時だけはお話が別でした。少年時代に頭の中に作り出した「伝説の悪魔」のイメージが憑依して共に戦ってくれるのです。完全に一体化していると表現してもいいくらいに。
青年はいつも心にポッカリと穴があいていて誰もその穴を埋めることができないのに、戦っている瞬間だけは完全に穴の存在を忘れることができました。根っからの「戦闘民族」というわけです。
城山君は次から次へと悪意に満ちた言葉の数々を繰り出してきます。
「テメー!オレが誰だかわかってんのか!オレ様にケンカを売ったら、バックについてる組織が黙っちゃいねえぞ!」とかなんとか。
青年はそれらのセリフを聞きながら、心の中でクスッと笑いました。なぜなら、この程度の攻撃、11歳のあの日から数え切れないほど受け続けてきたからです。まさに「家庭の事情」で人が一生に浴びるよりも多くの罵詈雑言をその身に受けて生きてきたのですから。
「あの日のあいさつ」に比べれば、この程度の言葉、攻撃にすらなりません。「おはよう」や「おやすみ」の代わりに「決して口にしてはならぬ禁じられた言葉」を毎日毎日浴びせかけられながら生きてきたのです。狼少年の威嚇など、風鈴を鳴らすそよ風程度の役割しか果たしませんでした。
青年は頬(ほお)に風を感じながら答えます。
「だったら、連れてくれば?そのバックについてる組織の人間とやらを。ま、どうせ妄想の産物に過ぎないだろうけどね」
城山君は、頭に血が上り条件反射で反撃してきます。
「ああ!連れてきてやるよ!その代わり、あとで吠え面かくなよ!どんな目に遭うのかわかってんのか?東京湾に沈められても知らねえぞ!」
キザオ君も「やめといた方がいいよ。もう、この辺で身を引いた方がいい。大変なコトになるから。君の身を心配して言っているんだ!」とか言って、城山君を全力で擁護してきます。自分が考え得る限りの言葉で援護射撃してくるのです。
それに対して、青年は冷静に答えます。
「無理しない方がいいんじゃない?どうせウソに決まってるんだから。君はウソをつくのがヘタクソだね。顔を見れば即座にわかる。バレバレなんだよ。もし、ほんとにそんな組織が背後にいたなら50万でも100万でも払ってあげるよ」
もちろんブラフでした。でも、確実に通るブラフだと確信していました。最悪の場合、50万でも100万でも払ってやればいいのです。それで「最高の物語」が手に入るなら安いものです。
城山君は、ますます頭に血が上り、どんどん冷静な判断ができなくなっていきます。ついに、青年の口車に乗せられて自分の母親をこの場に召喚することになってしまいました。
ここにいたって、全幅の信頼を置いていたキザオ君も「なんだかおかしいぞ?」という表情をするようになってきました。「もしかしたら、ほんとに自分は騙されていたのかもしれないぞ…」という疑惑の思いが心に浮かび始めていたのです。
しばらくの時が経過し、ピンポ~ンと玄関のチャイムが鳴りました。
やって来た城山君の母親は一通りの事情を聞いてから平謝りです。
「このたびは、うちの息子が大きな問題を起こしてしまって申し訳ありません。まったくどう謝ればいいのか…この通り、この子にそんな大それた力などありはしません。全てこの子のついたウソなのです」と、暴露されてしまいました。
この瞬間、城山君の野望は完全粉砕されたのです。
一部始終を眺めていたキザオ君は、ポカ~ンとマンガのキャラクターみたいに口を開けたまま、なんの言葉も発することができませんでした。
戦闘を終えて、青年は魔王の血が覚醒するのを感じていました。同時に「自分が何のために世界に出てきたのか?」も悟りました。きっと、この手の戦闘を重ねるためです。
経験を積めば積むほど能力は上がっていき、いずれは少年時代に理想としていた魔王に近い存在にもなれるかもしれません。そのためには、相手は強ければ強いほどよいのです。より強い敵を倒すことで、飛躍的に能力やレベルは向上するのですから。
「いつか、あの存在になれるかもしれない。頭の中に生み出した空想の産物である。伝説の悪魔に…」
青年は心の中でそう考え、なんだかうれしくなってきました。